「本日はこのような場にご招待頂き誠に~」

「よいよい、プライベートだ、楽にしろ。前も言ったが口調もいつも通りでいい。ドーンと同じでいいぞ? ん?」

 今日は陛下の私室へ招待され急遽お茶会が始まった。この私室は防音と防壁が完璧なんだって。

 メンバーはと言うと、陛下、皇太子殿下、アレク、総団長、私、ドーン、ユーキさんだ。アレクは第四で王宮警備、ユーキさんは第六で王族警護だし、って。このメンバーで王宮の私室とか。心臓がバクバクし過ぎて痛い。

「ドーンと同じはちょっと… では失礼して少し崩します」

「よし」

「ぷはっ。お前緊張しすぎだぞ? 陛下はプライベートでは結構ラフな感じなんだよ。ほら、力抜け、ラモン」

「ユーキさんがおかしいのよ。もう! ちょっと、痛いんですけど~」

 ユーキさんが面白がって私の背中をバシバシ叩いてくる。

「ラモン? いつから仲が良くなった?」

 アレクがスッと私の横に座り直す。いやいや、席が狭いって。元に戻ったら?

「え? 前に~友達になろうって… 言ってなかったっけ?」

「あぁ」

「ぶはっ。そうかそうか… しかしアレク、分かっているな?」

 陛下はニタニタしながらアレクに何か言っている。他の人もニタニタ顔だ。ドーンとユーキさんを除いてね。

「それは… 手段は考えますので。今は…」

「そこまでか… まぁ、今日はそんな話ではない。ブリアナの事だ」

 さっきまでのほんわかムードか一転、急にピリッと引き締まる。

 そんな中、総団長が口を開いた。

「ラモン、陛下と私は先に報告を受けたので内容は知っているが、再度口頭でいいから皆に報告を」

「はい。先日、王城の庭にてブリアナ様に接触いたしました。その際、『下克上女王は国で一番のバラを咲かせる』と言う小説についてお話しされ、『私はこの小説の主人公だ』と。『邪魔をするな』と警告されました」

「警告? なぜラモンに?」

 アレクが眉間に皺を寄せて質問してくる。

「恐らくですが話の内容からすると、先日私が捕縛したタッカー伯爵の娘が修道院送りになったのが、その小説の中では違うのかと。『小説の話がズレて来ているから余計な事はするな』と怒っていらっしゃいました」

「で? それが緊急事態なのか?」

 ユーキさんはまだちょっと繋がらないようだ。

「小説のタイトルを思い出して下さい。いくつかキーワードが隠れていますよ?」

「ん? 『下克上』か?」

「まだあります。『女王』『国で一番のバラ』です」

「そうだ、王女ではなく『女王』だ。下剋上と言うのだから妹は王位を狙っているのだろう」

 皇太子殿下はそう言うと手を顎に当てて考えている。

「ラモンは小説を知らないのか?」

「はい、残念ながら。なので本のタイトルでしか推察出来ません。あと、もう一つヒントがありましたね」

「何だ? それは?」

「『アレクお兄様に近づくな』です」

 みんながアレクを一斉に見る。

「俺か? 鍵になるのか? それともただの牽制か?」

「どうだ? 最近、ブリアナと話はしていないのか?」

「そうですね、王宮警備なので日中も見かけますが… 何時も男を侍らせています。特に毎日横に居るのが元リューゲン公爵家の三男ですね。今はブリアナの従者だったような」

 元リューゲン家って、私と同時期に団長になってすぐに捕まった… あのクズの息子か。

「よくそんなやつを従者にしたな?」

「今は母方の爵位で降下していますし、本人は昨年まで学生でしたから罪は免れています。それにあの顔です」

「はぁ? 顔?」

 ユーキさんは呆れている。

「顔がいいんですよ。実にブリアナ好みだ」

 …

「ふ~。そうか顔か… 実はアホなのか? いやいや、『国一番のバラ』はいただけない。初代国王が咲かせたバラ。そう、『女神降臨』の事を指す」

 ユーキさんが驚いて席を立つ。

「『女神降臨』!!! どうやって? 降臨って事は召喚魔法? しかし、それは失われた魔法… まさか、すでにブリアナ様は教会と接触が?」

「分からん。昨日、報告を受けた直後からブリアナには護衛とは別の第五の影をつけた。報告が来るのに十日程かかる」

「あの~、いいでしょうか?」

 私は思い切って手を上げて進言する。

「王女様の事は陛下に任せるとして、私は皇太子殿下の警備を強化する事を提案します」

「私か? 立太子した今、以前より十分だが?」

「先程、申し上げたじゃないですか? 『タッカー伯爵が捕まって話がズレている』と。つまり小説ではタッカー伯爵は捕まらなかったのでは? 今でも彼がいた未来があったならこんなに早く婚約披露パーティーを開いたでしょうか?」

「確かに… 言われてみれば。あれの処遇を考えあぐねていたのは確かだ。もし、伯爵がまだいたなら、まだまだ先だっただろうな。もしくは、婚約破棄…」

「なっ! それはない! 私はイバンナを愛している」

 皇太子殿下は興奮してダンっと机を叩いた。

「もしくは、切るに切れないアホな伯爵の巻き添いで皇太子の座を追われるとか?」

 お互いに顔を合わせて目を見開く。

「王女が女王になるには上の王子様達が邪魔になります」

「確かに… 第二王子のクリストファー様はどうする?」

「アレは関係ない。すでに他国への婿入りが確定している」

「なるほど…」

 う~んと考えても、これ以上は答えが出てこない。

「分かった。今は影の報告を待つとして、ミハエルとイバンナの周囲をより固めろ。アレク自身も気を付けるように。報告次第になるが、この小説の話に信憑性が増した時は、ブリアナに対し何らかの対策を講じる。それまでは、ラモンから聞いたこの話は知らぬ存ぜぬで過ごせ。よいな?」

「「「はっ」」」

 陛下は一息ついてお茶を飲み私に語りかける。

「またしてもラモン、お前には助けられてばかりだ。礼を言う」

 と、軽く頭を下げられる。

「や、止めて下さい! あ、頭! 頭をお上げ下さい!」

「いやいや、これは私からの気持ちだ。いつも非公式な事柄ばかりだからな、きちんと表立って礼が出来ない代わりだよ」

「はい。十分です。お気持ちだけでうれしいです」

「ん。では、十日後の同時刻に再度ここに」

「「「「はっ」」」」