「あのような場所に… いや~しかしびっくりしましたな。まさか王城の庭に王女様がいらっしゃるとは。王宮のお庭の方が豪華でしょうに」

 ドーンは王女様の背中を見つめながらボソッと呟く。

「そうね… 私なんて名前が出てこなくて焦ったわよ~あはは」

「そうですか… ところで、先程の王女様とのやり取りの内容。伺っても?」

『私には違う世界の記憶があります。そして王女もです』って?

 どうする。どうしよう。

 ドーンはかなり信用出来る。けど、変なやつとか思われたら嫌だな。かと言って、中途半端に話すと余計変な話になっちゃうし…

「私は… 信用なりませんか?」

 ドーンは真っ直ぐな瞳で見つめてくる。本気?

「信用はしている。私が唯一本心を見せられる相手だし… ただ…」

「ただ?」

「ただ… 私の話を聞いたら頭がおかしいやつって思われるかもって…」

 ドーンは空を見上げてからまた私を見る。

「そんな事。今更ですよ。団長にはびっくりさせられる事ばかりですが、一度も頭がおかしいなどと思った事はありません。恐らくですが、後天的に発現したアノ(・・)魔法も関係しますよね?」

 ドキッ。とさせるねぇ。すごいなドーン。さっきの王女様の話と魔法が結びつくんだ。

「お見通しなんだね。さすがドーン。そうね、ここではなんだし、団長室へ行こうか?」

「了解です。ふふふ、うれしいです」

「へ?」

「やっと団長の全てを知る事が出来ますから。何か影があるなぁと感じてはいたんです。ただ何時私に打ち明けてくれるか… いや、一生言わないつもりなのか… 随分悩みました。しかしこうやって信頼頂けて… こんなにうれしい気持ちになるなんて! 生まれて初めてですよ、こんな気分がいいのは!」

 って、恥ずかしいな、そんなクサイ台詞を面と向かってサラッと。ドーンの微笑む顔がやたらとやさしい。イケオジ全開だ。ぶわっとフェロモンが飛びまくっている。

 は、鼻血が…

「ドーんさんや。ちょっと落ち着こうか? 色気ダダ漏れで、侍女さん達が仕事にならないから」

 そこかしらの柱の影でメイドや侍女がヘナヘナとへたり込んでいる。もちろん目がハートマーク。

「はい? 何の事でしょう? それより早く団長室に戻りますよ、さぁ」

 ウッキウキのドーンは笑顔でちょっと早足で向かう。

 ははは。

 何だかなぁ…


「キリス、ゲイン。二時間程ドアの外に。誰も入れないように、総団長でもだ! 死守しろ!」

「「はっ!!!」」

 ドーンは団長室に入るなり早速二人を追い出して、しかもドアの監視役にした。やる事早いな。

「では、団長はこちらに。今、お茶を淹れます」

「あ~、はい」

 ニッコニコのドーンは鼻歌? マジで? 鼻歌歌ってるよ。鼻歌混じりにお茶を淹れている。そんな良い話でもないんだけど。

「どうぞ。一番始めからお願いします」

 ゴクン。

 ドーンはソファーに足を組んで座り、目を瞑ってリラックスした感じで座っている。スタンバイOKな感じ?

 よし! 私も腹を括るか。

 私はそうして、ドーンに包み隠さず全部を話した。戦争で襲撃を受け目を覚ました所から今日まで。


「… なるほど。あなたは本当はユリ・スズキ。いや、魂だけがユリ・スズキで身体はラモン団長。本質はやはりユリ・スズキだから… そして違う世界の記憶と知識。女神様からのギフトで光魔法。そして王女様も同じ世界にいた予感がする、と」

 どうかな?

 ドーンは目頭を押さえて、ソファーに仰け反ってブツブツと話をまとめている。

 私は話した途端、ストンと心が軽くなった。と、同時に何だか落ち着かないので自分でお茶を入れ直す。

 手持ち無沙汰だな。

 どうしよう、ドーンの態度が変わったら。私が今こうして好きな事が出来るのは全部ドーンのおかげなのに。

 そうだよ。全部ドーンのおかげじゃない?

 この世界で常識から外れても、それっぽく成功したのも!

 急に怖くなってきたな。本来なら小娘が我が物顔で騎士団を…

 カタカタと手が震えてくる。

 気にすればする程震えが大きくなってきた。やばい、ポットを落としそう…

 ガシッ。

 ドーンが私の手を包み込んで、ポットが落ちるのを阻止してくれた。

「ご、ごめん。ちょっと… 何でだろう… ははは」

 笑って誤魔化したがドーンにはお見通しのようだ。優しい手に包まれていたら涙が溢れてきた。

「大丈夫です。私が出会ったのはユリ・スズキのラモン団長です。恐れる事はありませんよ? 私は何時でも、何時までもお側におりますから。あなただから、ユリ・スズキだから… 本来のラモン嬢がどんな性格の方かはわかりませんが、あなただから一緒にいるんです。ね?」

 ドーン!!!

「へへへ。ごめん、泣いちゃって… あはは、もういいよ。落ち着いたし」

 手を退けようとするとドーンに引き寄せられ抱きしめられる。

 え? 何? は?

「ちょ、ちょっとドーン? もう大丈夫よ」

「いえ。私が抱きしめたくて… 少しだけお願いします。あと、名前を呼んで下さいますか?」

「え? ドーン?」

「もう一度」

「ドーン」

 ドーンは無言になり、私達はしばらく抱き合った後ゆっくりと離れる。

 顔が見れないよ。恥ずいしかないじゃん。何、この間。

「ラモン団長」

「ひゃい」

「ふふふ、びっくりさせましたね。でも落ち着いたでしょう?」

 あぁ~。落ち着かせる為ね。そうだよね。そうだ、そうだ。危な~、勘違いする所だった。

「うん、ありがとう。あと、こんな破天荒な話聞いて、変わらず接してくれてめっちゃホッとしている、ありがとう」

「ホッとですか? う~ん」

「ん?」

「いえ、こちらの話です。この話は私だけが?」

「あっ! そうだった。ちょっと前に、アレクにね、大分省略して簡単に話した事はあるの」

「それは自分からですか?」

「アレクも光魔法が出来るの知ってるでしょ? それで突っ込まれて…」

「そうでしたか。まぁ、それは仕方がないですね。それに簡易版ですよね?」

 ほっ。急に怒り出すからビビったじゃん。ニコニコに戻った、よかった。

「うん。てか、そう言う事だから、えっと~、キリス達を中に入れよう。うん、仕事しないと」

 私はドアへ向かう。さぁさぁ仕事だ!

「しかし、あの小僧… チッ」

「ん?」

「何でもありません」

 ニコニコのドーンとちょっと疲れ切った私。キリス達がそんな私達を突っ込まずに黙って仕事を再開してくれたのは助かった。それで、その日は早めに業務を終了させて早々に寮へ帰ったよ。

 疲れた~。