「あら? あなたは確か… 第三騎士の団長さんだったかしら?」
鈴を転がしたような声でふふふと微笑むご令嬢がこちらへやって来る。その周りには三、四人の貴族男子がワラついている。
やばい。誰かわからん。ドーンをチラ見するが既に礼をして頭を下げている。
ん? 偉い人かな?
今、私は巡回経路の見回り途中で王城の庭に差しかかった廊下にいる。この庭は王城に訪れた人々の休憩場所にもなっているので、誰でも立ち入る事が出来るのだが…
一応、誰かわからないけどドーンに習って礼をしておこう。
「ふふふ。頭をお上げになって? 団長さん。初めましてかしら?」
げっ! 名乗らないと。
私は恐る恐る顔を上げて、ようやく誰だかわかった。けど、名前が出てこない。ひ~。
「初めまして、王女様。第三騎士団団長のラモンと申します。以後、お見知り置きを」
「ラモンね。私はブリアナ、よろしくね。今日はどうかされたのかしら?」
優しく微笑む王女ブリアナ様は、王城の庭をバックにしてふわふわのドレス、サラサラの髪、絵に描いたような美少女。彼女が微笑む度に、男共がため息をついている。
「どう? とは?」
ん? なんか変かな? 私がハテナになっていると、多分、多分だけどディスられ始めた。
「ふふふ、だって、団長さんなのにとても軽装なんですもの。今日はお休みなのかしら? そんな薄いお衣装でウロウロされると、良からぬ殿方に襲われてしまうわよ?」
「… お目汚し申し訳ございません。これは騎士服の軽装でございます。先程まで訓練をしておりました」
これは侍女長アビーの言う通りになってしまったな。あとで怒られる~。う~。
「あら、そうなの? てっきり… ふふふ。ご自身から誘ってらっしゃるのかと。確か子爵でしたわよね。大変ね、女性で団長なんて。私には想像もつかないわ。いつも警備をしてくれて心強いわ~ありがとう」
若干イラっとするのは気のせいか? ダメダメ。相手は王女様。
「ブリアナ様、こんなやつ放っておいてお庭の散策に戻りましょう」
「そうです。時間がもったいないですよ?」
ハーレム男達は早くこの場から立ち去りたいのだろう。私を睨んで牽制してくる。
「あなた達、気の短い殿方はモテないわよ。ふふ。ちょっとだけだから、ね?」
と、ウィンク付き。めっちゃかわいい。かわいいけど、計算された感が否めない。
「恐れ入ります」
「そうそう、あの『防犯笛』。あなたの入れ知恵だそうね? おかげで私の友人が修道院へ送られてしまったの」
入れ知恵って。印象悪い言い方だな。
「それは残念です」
「まぁっ、それだけ? 心が凍っているのね。殿方に混じってお仕事されていると心まで男性寄りになるのかしら? でも、心の優しい男性はたくさんいるし~、冷たいのはあなたの性分なのかしらね。ふふ」
「申し訳ございません」
「ふふふ、いいの。あの子にもそろそろ飽きてきた所だったし。所で、ラモンだったかしら? 『防犯ブザー』ってご存知?」
… ピキ。
私は思わず固まってしまった。防犯ブザー。ブザーって、もしかして! 私はなるべく平常心を保って真顔になる。
「私は似たような物を知っているの。ふふふ、不思議よね~。それでね、わかってると思うけど、ここは私が主役の世界なの。これ以上余計な事はしないでね。計画が… 少々お話がズレてしまって困ってるのよ」
「何の事か… それにしても計画ですか… それは伺ってもよろしいのでしょうか?」
「ふふ、本当に知らないの? 私の杞憂かしら。そうね~ヒントをあげるわ。ここはね、『下剋上女王は国で一番のバラを咲かせる』と言う小説の世界なの。恋愛小説よ、ご存知?」
「申し訳ございません。存じ上げません」
「そ? 残念ね。なら先の件は水に流してあげる。知らないのはしょうがないし。私って優しいでしょ? でもね、これ以上は何もしない事ね。アレクお兄様にも近付かない事。いい?」
… でもパーティー、もう誘われちゃったじゃん。私が返事に困っていると王女はちょっと怒った感じになった。
「あら? お返事は?」
「… 姫。王女様。それは難しいかと。アレクサンダー様は騎士団の団長同士で同僚な上に、元部下で側近でした。今後も何かと接点があります。接しないと言うのは無理が…」
「貴様! ブリアナ様の言う事が聞けないのか?」
ハーレム男子の一人が襲いかかってくるが、癖で取り押さえてしまった。しまった、やっちまったよ。私はすぐに手を離して謝る。
「すみません。つい癖で… お怪我はございませんか?」
「ふん。成り上がりの貧乏貴族が! 触るな!」
激弱男子はあっさり捕まったのが恥ずかしかったのか、プンプン起こりながら王女様の元に戻る。
「ごめんなさいね。女性に手をかけるなんて、いけない人ね。でも、私を思っての事だから許してやってね」
「それは。はい」
「そう… まぁ、物語を知らないならこれ以上は話しても平行線かしら。せいぜい隅にいなさい。わかったわね?」
「かしこまりました」
私達は礼をして、王女様が立ち去るのを待つ。
ふ~。
かわいいのに色々アレな王女。
会ったのは偶然か… いや、警告されたんだよね。多分。
王女は転生者。で、私の事を嫌っている。
はぁぁぁぁ。
『下剋上女王は国で一番のバラを咲かせる』。下剋上。
これは、これは。
一難去ってまた一難ってね。はぁ。
鈴を転がしたような声でふふふと微笑むご令嬢がこちらへやって来る。その周りには三、四人の貴族男子がワラついている。
やばい。誰かわからん。ドーンをチラ見するが既に礼をして頭を下げている。
ん? 偉い人かな?
今、私は巡回経路の見回り途中で王城の庭に差しかかった廊下にいる。この庭は王城に訪れた人々の休憩場所にもなっているので、誰でも立ち入る事が出来るのだが…
一応、誰かわからないけどドーンに習って礼をしておこう。
「ふふふ。頭をお上げになって? 団長さん。初めましてかしら?」
げっ! 名乗らないと。
私は恐る恐る顔を上げて、ようやく誰だかわかった。けど、名前が出てこない。ひ~。
「初めまして、王女様。第三騎士団団長のラモンと申します。以後、お見知り置きを」
「ラモンね。私はブリアナ、よろしくね。今日はどうかされたのかしら?」
優しく微笑む王女ブリアナ様は、王城の庭をバックにしてふわふわのドレス、サラサラの髪、絵に描いたような美少女。彼女が微笑む度に、男共がため息をついている。
「どう? とは?」
ん? なんか変かな? 私がハテナになっていると、多分、多分だけどディスられ始めた。
「ふふふ、だって、団長さんなのにとても軽装なんですもの。今日はお休みなのかしら? そんな薄いお衣装でウロウロされると、良からぬ殿方に襲われてしまうわよ?」
「… お目汚し申し訳ございません。これは騎士服の軽装でございます。先程まで訓練をしておりました」
これは侍女長アビーの言う通りになってしまったな。あとで怒られる~。う~。
「あら、そうなの? てっきり… ふふふ。ご自身から誘ってらっしゃるのかと。確か子爵でしたわよね。大変ね、女性で団長なんて。私には想像もつかないわ。いつも警備をしてくれて心強いわ~ありがとう」
若干イラっとするのは気のせいか? ダメダメ。相手は王女様。
「ブリアナ様、こんなやつ放っておいてお庭の散策に戻りましょう」
「そうです。時間がもったいないですよ?」
ハーレム男達は早くこの場から立ち去りたいのだろう。私を睨んで牽制してくる。
「あなた達、気の短い殿方はモテないわよ。ふふ。ちょっとだけだから、ね?」
と、ウィンク付き。めっちゃかわいい。かわいいけど、計算された感が否めない。
「恐れ入ります」
「そうそう、あの『防犯笛』。あなたの入れ知恵だそうね? おかげで私の友人が修道院へ送られてしまったの」
入れ知恵って。印象悪い言い方だな。
「それは残念です」
「まぁっ、それだけ? 心が凍っているのね。殿方に混じってお仕事されていると心まで男性寄りになるのかしら? でも、心の優しい男性はたくさんいるし~、冷たいのはあなたの性分なのかしらね。ふふ」
「申し訳ございません」
「ふふふ、いいの。あの子にもそろそろ飽きてきた所だったし。所で、ラモンだったかしら? 『防犯ブザー』ってご存知?」
… ピキ。
私は思わず固まってしまった。防犯ブザー。ブザーって、もしかして! 私はなるべく平常心を保って真顔になる。
「私は似たような物を知っているの。ふふふ、不思議よね~。それでね、わかってると思うけど、ここは私が主役の世界なの。これ以上余計な事はしないでね。計画が… 少々お話がズレてしまって困ってるのよ」
「何の事か… それにしても計画ですか… それは伺ってもよろしいのでしょうか?」
「ふふ、本当に知らないの? 私の杞憂かしら。そうね~ヒントをあげるわ。ここはね、『下剋上女王は国で一番のバラを咲かせる』と言う小説の世界なの。恋愛小説よ、ご存知?」
「申し訳ございません。存じ上げません」
「そ? 残念ね。なら先の件は水に流してあげる。知らないのはしょうがないし。私って優しいでしょ? でもね、これ以上は何もしない事ね。アレクお兄様にも近付かない事。いい?」
… でもパーティー、もう誘われちゃったじゃん。私が返事に困っていると王女はちょっと怒った感じになった。
「あら? お返事は?」
「… 姫。王女様。それは難しいかと。アレクサンダー様は騎士団の団長同士で同僚な上に、元部下で側近でした。今後も何かと接点があります。接しないと言うのは無理が…」
「貴様! ブリアナ様の言う事が聞けないのか?」
ハーレム男子の一人が襲いかかってくるが、癖で取り押さえてしまった。しまった、やっちまったよ。私はすぐに手を離して謝る。
「すみません。つい癖で… お怪我はございませんか?」
「ふん。成り上がりの貧乏貴族が! 触るな!」
激弱男子はあっさり捕まったのが恥ずかしかったのか、プンプン起こりながら王女様の元に戻る。
「ごめんなさいね。女性に手をかけるなんて、いけない人ね。でも、私を思っての事だから許してやってね」
「それは。はい」
「そう… まぁ、物語を知らないならこれ以上は話しても平行線かしら。せいぜい隅にいなさい。わかったわね?」
「かしこまりました」
私達は礼をして、王女様が立ち去るのを待つ。
ふ~。
かわいいのに色々アレな王女。
会ったのは偶然か… いや、警告されたんだよね。多分。
王女は転生者。で、私の事を嫌っている。
はぁぁぁぁ。
『下剋上女王は国で一番のバラを咲かせる』。下剋上。
これは、これは。
一難去ってまた一難ってね。はぁ。