「さてと。申請書と報告書、特許許可書。出来た~! 終わった~!」

「がんばりましたな。一人でやってのけましたね」

「うん。ドーンがサポートしてくれたおかげだよ?」

「いえいえ」

 キリストゲインにも話しておこうかな。

「キリス、ゲイン、ちょっとこっち来て」

 二人は側近の仕事を始めて、ギクシャクはしているが何とかやってくれている。

「これね、新しい魔法具の申請書とかなんだけど、この魔法具を王城勤めの侍女やメイド、従者に持たせようと思ってるの」

「「はい」」

「この報告書を見てくれる?」

 二人に報告書を渡してしばらく待つ。

「見てくれた? で、今後、この音が鳴ったら現場に駆けつけて欲しいのよ」

 と、私は試作品の魔法具を見せて、栓を引っ張る。

 ピーーーーーーーーー!

 高い音が団長室に鳴り響く。みんな耳を押さえているので相当大きな音量だ。うんうん、これなら聞こえないって事はないだろう。

「だ、団長。これは? 第三の騎士にではなく?」

「そう。王城の風紀を乱す対貴族用です。これで少しは下半身問題もマシになるでしょう?」

 二人は顔を見合わせてゴクリと唾を飲んだ。

「団長、伺ってもいいでしょうか? なぜ今頃… 取り締まろうと?」

「今頃? 今までもあなた達第三は目を光らせてたんでしょう? でも、解決はしなかった。だって、相手が自分より上位貴族だった場合直ぐには止められないから。万一、現場を取り押さえられたとしても、事の後ならどうしようもない、その時は金で解決していた… もうそんな事自体を私は止めたいの。ターゲットにされやすい弱者に自衛手段をね。未然に防いで、しかも音で確実に周囲に認知させるのよ。絶対、有耶無耶になんかにさせないわ。確実に現場を抑える手段でもあるの」

「なるほど… しかしやはり相手は貴族です。爵位を持ち出されては…」

「家に迷惑がかかる? う~ん。それはないわ。さっきの音聞いたでしょう? いくらお金を積んでも、いくら箝口令を強いても、一回でも音を鳴らされれば騒ぎになるわ。王城なのよ? 誰かが見てるはず。噂話に戸口は立てられないってね。噂がじわじわと広まって自滅するのがオチよ」

「… 了解しました」

「でね、これから第一に申請書と報告書を出しに行くから着いてきてね」

「我々がですか?」

「そうよ」

 二人は無言でドーンを見る。

「あぁ、ドーンは別の仕事があるの」

「その後は、非番の者を集めて屋外演習場へ行くわよ」

「「はい」」

「じゃぁ、ドーン後で合流しましょう」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 私とキリスとゲインは第一へ向かう。第三から第一はちょっと遠いな… エスカレーターとかエレベーターとか無いのかな? それこそ魔法具で作ればいいのに。まっ、めっちゃお金と時間がかかりそうだけど。

「団長、先程の話ですが… 一番厄介な方がいらっしゃいます」

「ん?」

「その…」

 と、キリスが言い淀む。何の話だろう?

「おい、はっきり言えよ。お前の派閥のやつだろう?」

「キリス、全部言わないでいいわ。廊下だし… 名前だけ言いなさい。誰?」

「… タッカー伯爵です」

 タッカー、タッカー… タッカー!!! あいつか!

「当主の方? まさか息子?」

「… どちらもです」

「はぁ? どっちも? …遺伝かしら。はぁぁぁ。マジか」

 下を向くキリス。代わりにゲインが教えてくれる。

「団長、ここ半年ほど前から酷くなっています。ユーグ前団長には届いていないかと… なんせ隠ぺいが巧みで」

「理由は何となくわかるわ。そう、キリス、ありがとう」

「いえ。これで救われる者がいるのなら… 同派閥として恥ずかしいですが」

「キリス、派閥は関係ない。その思想を変えなさい。悪いのはそいつ本人」

「… 申し訳ございません」

 タッカーか。バカ親子。これが露呈すれば娘に迷惑がかかるって思わないのか? それとも娘が王族になる事に味を占めた? は~、娘さんが不憫だ。これで婚約破棄とかなってしまったら… かわいそうに。親は選べないもんね。

「今の話って、第三では有名?」

「はい。上層部以外では周知の事実でした」

「そう…」

 そんな話をしていたら第一に着いてしまった。


「スバルさん、これの申請書と報告書の精査をお願いします。試作品はこれです」

 小型の防犯笛をワクワクした顔で触り出した。ん? ユーグさんだ!

「ユーグさん! お疲れ様です」

 着いて来た二人が私の後ろでピクっとなった。

「あら? ラモンちゃん。どうしたの? 珍しいのを連れてるわね」

「ええ。この度私の側近に任命しました。よろしくお願いします」

 二人はユーグさんに敬礼をしている。

「ふ~ん。また、何やらかすの? あんまり第三の子達をいじめないでね」

「いじめるとか、人聞き悪いなぁ」

「ふふふ、まぁ程々にね」

「は~」

 ピーーーーーーーーーー!

 スバルさんが早速防犯笛を鳴らした。第一の人達が迷惑そうに耳に手を当てている。私も耳が痛い。

「スバルさん! スバルさん!」

 私はジェスチャーで栓をする仕草を見せる。スバルさんはニコニコだ。すぐさま栓を戻したが一斉に苦情が出た。

「もう! 何この音! 耳が痛いわ~」
「スバル!!!」
「何だ? またお前か、ラモン団長」

 ユーグさん、総団長、スナッチ副団長が防犯笛にワラワラ寄ってきた。

「これは何だ?」

 総団長が手に取って裏にしたりして見ている。

「防犯笛の試作品です」

「防犯笛?」

「はい。ここに申請書と報告書が」

 スバルさんはさっと申請書等の一式総団長へ渡す。

「読んで下さるとわかりますが、許可を是非ともお願いします」

「ん。わかった」

 と、読み始める総団長。その後ろでやっぱり『ば~か』って口パクするスナッチ副団長。

 ふん。『ば~か』と口パクをやり返す。初めてやり返したから、スナッチ副団長の額に青筋が出来た。やられてばっかりじゃないんですよーだ。

「審査に時間がかかると思いますので。一旦帰ります。失礼しました」