今日は城下街で人気のケーキ屋さんに来ている。朝のオープンから張り切ってもう一時間は並んでいる。

 まだかな? お腹空いたよ~。ぐ~。

「いらっしゃいませ~」

「『てんこ盛りフルーツタルト』を十個お願いします」

「申し訳ございません。こちら人気の商品でして… おひとり様二個までです。他はいかがですか?」

「え!!! じゃぁあと八つはお任せします。手土産用にして下さい」

「かしこまりました~」

 せっかく並んだのに二個か… 相手と私の二人だから、私の分があるしいっか、って、お邪魔する側なのに図々しい?

「甘い物好きって聞いたから外しはしないと思うんだけど… こんだけ手土産を奮発しても上手くいくか… 不安しかないんだけど」

 相手側のアポは取ってある。大丈夫だとは思うが… ユーキさんに会う確率がある。

「第六か… ユーキさんが居ませんように!」

 実は、第六のユーキさんじゃなく、副団長にアポを取った。めっちゃ有能だと評判だったからね。ただ単にユーキさんにお願いしたくないのが本音だけど。

 私は、王城裏手の魔法士団とは反対側、東北の塔に着いた。奥には森が広がっている。小説で出てくる魔女のお婆さんが住んでそうなうっそうとした森だ。

「すみません、第三のラモンと申します。第六の副団長をお願いします。これは約束の手紙です」

 玄関の案内人にお願いすると、後ろのラッパ? コップ? みたいな物に向かって話し出した。

「副団長、副団長。第三のラモン様がお見えです。至急玄関までお越し下さい。繰り返します~」

 おいおいおい。塔の中に声が響き渡る。何これ! 魔法の放送? 魔法具!?

「ちょっ、ちょっ。しぃ~。止めて~止めて下さい!」

 やばい。ユーキさんに会いたくないから、わざわざ時間合わせて副団長とアポを取ったのに、これじゃぁ意味がない。

 ダッダッダッダッダッダッと轟音が近づいてくる。来たよ… 音がする先にあいつが居た。

「はぁぁぁぁぁぁ。あんな放送するから」

「おい、こら! チビ助ぇぇぇぇぇ」

 私の目の前で急ブレーキで止まる第六の団長、ユーキさんだ。

「… え~っと。副団長は?」

「先ずは俺に挨拶だろうが? こそこそとネイサンと会う算段なんかつけやがって。ここは俺の団だ。用事があるなら一番先に俺に挨拶しろ!」

「… ちっ。バレちゃったじゃん案内人さん。はぁもう面倒臭いな」

「何だと!」

 そこに息を切らせてやって来たのは、副団長のネイサンさんだった。

「一足遅かったか… はぁはぁ、すみません。お待たせしました」

「おい! お前もだ! なぜ会う約束したなら俺を通さない?」

「いや~、だって。私と会う約束なので… 団長には今回用はありませんよ?」

 急にハテナな顔のユーキさん。

「俺に用がない? じゃぁ、何で来たんだお前?」

「別に。ネイサンさんと話があったんです」

「はぁ? ますますわからん。団長が話しつける時は、団長同士が普通だろ?」

「話しつけるって… ケンカじゃあるまいし。ただの相談です。ユーキさんは今回呼んでませんよ」

「は?」

 またポカ~ンとしているユーキさん。ネイサンさん、本当にご苦労様。こんな話の通じないのよく毎日いられるよね。賞賛モノだよこれ。

「まぁ、ここでは何ですので、こちらへ。応接室でもよろしいでしょうか?」

「おい、ちょっと待て。団長室でいいだろうが」

「いや、だからね」

「ダメだ。団長室だ! ほら行くぞ!」

 と、勝手に仕切るユーキさん。ネイサンさんと顔を見合わせて諦める。もう言っても聞かなさそう、こいつ。

『はぁ』と二人で溜息をついてユーキさんに着いて行く。

 バレたくないやつにバレちゃった。あんな魔法具、反則じゃない? でも超便利でうらやましい。

「すみませんラモン団長。もう多分言っても聞かないので…」

「いいです。もう諦めました」

 団長室に通されて私の前にはユーキさん。ネイサンさんはお茶を用意してくれてユーキさんの後ろに立つ。

「で?」

「はい。先ずはこれ。ネイサンさんが甘いものが好きと伺ったので、どうぞ」

 朝一番に並んで買ったケーキ。しかもこいつにあげるなんて… ちっ。

「へ~、気が利くな。ネイサン、頼む」

『頼む』じゃね~よ。脳筋。

「この度はお時間頂きましてありがとうございます。てか、本当にネイサンさんに相談があるんで、ユーキさん、すみませんがネイサンさんと話をさせて下さい」

「ん? じゃぁ、ネイサン、こっちに座れ」

 ユーキさんはソファーの席を少しずれてネイサンさんを横に座らせる。まだ居るんだ。

「相談とは?」

「はい。これを見て下さい」

 私は防犯笛の試作品の設計図を広げた。

「へ~、魔法具ですか?」

「はい。私が第二魔法士団団長にお願いして書いてもらったんですが… 分からない箇所が多すぎて、特許を申請するのに説明が出来ませんで…」

「なるほど、少し見てみますね」

 ネイサンさんが設計図を取ってじっくり見ている。

「何だ? お前、こんなんも分からないのか? 授業で習っただろう? さては学校に行ってないな?」

「貴族が学校行かないとかないでしょう。バカですか」

「じゃぁ、何でわかんね~んだよ、こんなもん。あぁ、そうだった。お前、魔力量が低いんだったな。魔法の基礎理論の授業、聞いてなかったんだな。落ちこぼれか?」

 ムカつくな。あ~言えばこ~言う。マジで、どっか行けよ。お前に用はない。

「ラモン団長。これは高度ですね… 魔法具が小さいので魔法回路が複雑で細かいです。さすがは第二魔法士団」

「そうなんですよ。この部分とか… なぜこうなるのか…」

「う~ん、独特の組み方ですね。第二の団長に直接聞いた方が早いのでは? 私でも少し時間を頂かないとちょっと難しいです」

「そうですか… 時間があれば出来ますか? これ以上お世話になれませんから、出来れば騎士団で処理したいんですよ」

「まぁ。しかし本当にいつになるか… 私も仕事がありますので」

 そうだよね。無理を言っちゃいけないよね。ぐすん。

「ん? ネイサン、お前もまだまだだな。貸してみろ」

 ユーキさんは設計図をじっと見てから、紙に走り書きを始めた。サラサラと次々に書いていく。一分程で書き終えたユーキさんが今度は解説を始めた。

「ここの部分がこうなったのは、先に風を送り込む為の位置と量をここで調整しているからだ。この部分を引っ張って栓が抜ける事によって、この部分とこの部分が引っ付くだろ? そこでここだ。これが回路の要、発動を促し、回路全体が回るようになる。逆に、もう一回差すと回路が断絶されて音が消える。わかったか?」

「…」

「ん? え? 分からんのか? お前本当にバカだな。だからな」

「い、いえ。分かりました。むしろ分かりやすかったです… てか」

「てか?」

「脳筋バカじゃなかったんですね?」

「はぁ? 今、お前、何つった?」

「いやいや、お見それしました。頭良かったんですね」

「当たり前だろう。俺は第六の団長だぞ?」

「まぁ、そうですが… てっきりネイサンさんが…」

「はぁぁぁ。さっきからチビ助。相手を見てモノを言えよ」

 ちょっと真剣に怒っているユーキさん。そうですね。今の態度は私が悪い。反省しなきゃ。

「申し訳ございません。ユーキさんありがとうございます。そして、数々の失礼な物言い許して下さい。あなたの事を誤解していました」

「あぁ、もういい… 許そう。で? これで解決か?」

「そうですね。ネイサンさんもお時間頂いてありがとうございました」

「いえいえ。団長がほとんどやってしまったので。これからも団長の事、相手してやって下さいね。こんな感じですが、ラモン団長の事は気に入っているみたいで、毎回見つけては声をかけてますし」

 ど、どこが?

「おい、バカ、ネイサン!」

 と、顔を真っ赤にしてうろたえるインテリ筋肉。

 マジか。

「ちなみにどこに好かれる要素が? 私いつも嫌味しか言われてませんが?」

「いや~、何だ。弱いくせに俺に楯突く根性は認めてやっている」

 は? いやいや。あれは完全に嫌味と言うかイジメに近いだろ。楯突くとか… ただ単に嫌味で返してるだけで… 私は百パーセントおちょくってる自信はある。

「まさかのかまってちゃん?」

「かまって? 何だそれ?」

「いえ忘れて下さい… 分かりました。ユーキさんは強すぎて口が悪くて友達がいない? 合ってます?」

 と、ネイサンさんに聞いてみる。困った顔のネイサンさんがうんと小さく頷いた。

「誰が! 友達とか! 俺は団長だぞ!」

 … 図体でかい子供とか。友達欲しいとか。もう。しんどい。

「はいはい、私も団長です。じゃぁ、今日から友達になりましょう、これも何かの縁です。ユーキさんよろしくお願いします。って、事でもう嫌味は言わないで下さいね。友達なんですから。あと、ちゃんと名前で呼んで下さい、チビとか止めて下さい」

 ちょっと赤い顔でふてくされて横を向いているユーキさん。何もかもが分かりやすい。

「はい、名前で呼んで下さい?」

「ふ、ふん、そこまで言うなら友達になってやる。お前が望んだんだからな!」

「はいはい、そうですね。私が友達になりたいんです。はい、名前は?」

「ラ、ラモン」

 よく出来ました。

 はぁ~。がんばれ私。