団員の面接が全て終わったのは四日後だった。

「ふ~、やっと終わったわね」

「はい。少し希望が持てますかな?」

「そうね、少しだけど、騎士以外の技能がある人が居たし」

「では、その者達を別途呼びましょうか?」

「いえ、その前に編成を形にしたいわ。もう一踏ん張りだけど付き合ってね」

「もちろんです」

「では、明日は団長会議があるそうだからその話を先にしましょうか? あとは、私がめちゃくちゃ気になっている事をしてもいい?」

「気になっている事ですか? 何かありましたかな?」

「あのね寮の事なんだけど、ちょっとね。ドーンは通勤組だからわからないでしょうけど…」

「? 寮ですか? 部屋が手狭ですかな?」

「いやいや。部屋は広いぐらいです。団長室ってすごいのね? びっくりしちゃったって、違う。建物全体の事よ。ちょっと、いや、かなり汚くない?」

「ははは。そんな事ですか? あはは、いや~まぁ、汚いですか? 男衆ばかりですし古いですからね」

「そうなのよ。第七って城壁の中に寮や執務室とか色々あるでしょう? 建物って言うか壁自体が建物? ん? 言い辛いんだけど… どうにかしたいのよね」

 第七の寮と騎士団の建物は、全て壁の中にある。王都を取り囲む塀が分厚く出来ていて、中で生活出来るようになっている。ついでに言うと、東西南北の各城門へは移動の魔法陣で移動する。なので、騎士団の拠点は北門になっている。ここは王城と王宮の裏手に当たるので、城門自体の人の出入りはあまりない。よく利用されるのは王都の玄関口である南門。東門は森が近いのでギルド関係者が多い。最近は、移民や難民が増えてきているせいか、他国との玄関口である西門の外が少し治安が悪い。

「どうにかと言っても… 掃除夫でも雇いますか?」

「そんな予算はないわ。私が魔法で綺麗にしたいのよ。今なら皆出払っているし、チャンスじゃない?」

「ははは。魔法で掃除でもするんですか? そんな事に魔力をお使いになるとは… 面白いですね。魔力が続きますかな?」

「ふふふ。お楽しみよ。遅かれ早かれドーンには私の能力を知っておいて欲しかったし。ついでに掃除するわ」

「へぇ~。では今から行きますか?」

「そうね」

 私達は昼食を兼ねて寮の食堂へ移動する。

 この数日で分かった事だが、皆ご飯は必ず食堂へ戻って来ていた。まぁ、タダだしね。平民が多いからかな? 肝心の料理は不味くはないんだけど、美味しくもない。う~ん。

「私は今日のおすすめで」
「では、私はAセットで」

 食堂の席は基本自由なんだけど、団長だけは団長席なるものがあった。って、一番端の一番奥なんだけどね。

 ドーンが近くの団員に頼んで、私達は食事が来るのを待つ。

「ねぇ、この持って来させるシステムも廃止したいんだけど、どうかしら?」

「いいんじゃないですか?」

「よし、これも変更事項に付け加えましょう。この席もね。ぶっちゃけどこでも良くない?」

「ははは、そうですな。どこで食べても一緒です。あぁ、あと、式典やらで着る団長の正装を作りますので。仕立て屋は明後日の予定です」

「了解。団長服かぁ、着こなせる自信がないわ~」

「これも慣れですよ。存分、着てみれば何て事はないですよ」

「そうですかねぇ~」

 と、目の端に、先日面接で印象深かったテッセン君が目に入った。彼は、料理を一口食べる毎に、う〜んと首を傾けている。

「副団長、あの子覚えてます?」

 と、コソコソとテッセン君を指差す。

「あぁ、料理が得意と言っていた。確か実家が食堂だとか?」

「そこまで! そうそう、その子。さっきからう~んって唸ってるんだけど、料理がお眼鏡にかなわないんだろうね」

「そうでしょう。ここの料理は美味しく無くはないんでしょうが… 腹に入ればいいと言う感じですからね」

「そうなのよ。この料理もできれば変更したいんだけど… 予算がね… あの子、騎士の(かたわら)、料理してくれないかしら?」

「それは… 条件にもよるでしょうが… 基本は騎士が仕事ですしね」

「はぁぁぁ、どっかにミシュランシェフが落ちてないかな?」

「みしゅ?」

「ごめんなさい。腕のいい料理人」

「あぁ。こればっかりは追々ですね」

 食事を終えた私達は今後の事を話し合いながら、お茶を飲みつつ食堂から人が消えるのを待つ。

 二時過ぎ、ようやく誰もいなくなった。厨房の料理人達も休憩をしに出て行った。

「副団長、誰もいない?」

「ええ。気配は周囲五メートルは感じません」

 めっちゃ有能! 気配とか!

「では、私の秘密を見てもらいます。副団長、信頼しているからお願いね」

「はい、団長の秘密は守ります」

 私は食堂のちょうど中心になる机の上へ登る。行儀は悪いけど、今だけね。

「洗浄」

 水魔法と光魔法の合わせ技だ。寮へ引っ越してきた時に、自分の部屋をどうにか綺麗にしたくて編み出した魔法だ。水魔法で汚れを洗い流し、光魔法で除菌・漂白する。転生したおかげで除菌の概念が私にはあるので、魔法での想像がつきやすかった。

 私を中心に光が広がって食堂全体を包み込む。床や壁、天井、机や椅子など、あらゆる物が綺麗になっていく。

「ほぉ。すごいな」

 副団長は思わず口走っている。

 そうなの。すごいでしょ? 女神様のギフトのおかげなんだよ。

 私は残りの二つのギフトを『光魔法』と『魔力UP』にしてもらったのだ。まずは、騎士という職業だったので、回復魔法を使えるように光魔法をもらった。だって死にたくないし、痛いの嫌だしね。しかし、魔力が元々少ないので、回復力も期待出来ないかもと言われ、それならばと魔力を増幅してもらったのだ。って、めちゃくちゃ魔力が増えたんだけどね。増えすぎて誰にも言えないレベルになってしまった。

「ふ~。綺麗になった」

 腕で汗を拭いて机から降りる。

「これが秘密ですね。なるほど… これは先天的なものですか? それとも?」

「後者です。なので秘密でお願いします。下手すると魔法士団か教会へ捕まりますので」

「興味はないと? 名誉と金が得られますよ?」

「ははは。私もバカじゃありません。それと引き換えに失くす物が私にとっては死と同義ですので」

「自由がないのは死んだも同然ですか… わかりました。誓いましょう。私ドーン・イング~」

「ちょっちょっ! 神誓は必要ありません! もう! びっくりするじゃないですか!」

「しかしこんな大事。ただの口約束では…」

「そこは、団長と副団長の絆と言うか、信頼と言うか… 問題ありません」

「それはそれは、そこまで買って下さっているとは」

「当たり前です。こんな小娘に本当に良くして下さっていますので。ま~、バレても副団長なら良いかなって」

「そこは信じていただかないと! しかし嬉しいです。死守しますのでご安心を」

 ここ数日で副団長とは良い仲になった。昔からいる相棒のような、心地よい関係だ。副団長は年の功か元々頭がよろしいからか、(いち)言えば十伝わる感じがある。とてもやり易い。私のような若輩者に尽力してくれる心の広い御仁だ。

「副団長には居てもらわないと困りますので、これは人質ですよ。これで私と言う面白いオモチャを手放したく無くなったでしょう?」

「はははっ。自分を質にですか? あはははは。本当にあなたと言う人は! ははははは」