「皆の者、今宵は新年を祝う席に集まってくれて大変うれしく思う。皆も記憶に新しいと思うが、昨年の晩夏、隣国との戦争が我々の勝利で終結した。大変喜ばしい出来事である。これより数十年は戦争がないであろう。平和な世に私も喜ばしく思う。
 さて、早速だが、今夜は王家より重大な発表があるので心して聞くように。子供らよ、前へ」

 陛下は、会場上段のバルコニーから続く階段を見る。階段の上から順に王子達が三人並ぶ。一番下は王女様だ。

 ん?

 ん? ん?

 あれってアレクじゃん! え~?

 階段の上から三番目にアレクがいる。私はびっくりした顔でドーンを振り返り小さく指を指す。

 するとドーンはうんと頷いた。

 マジですか!

「今回、私は終戦に伴い後継を決定した。次期国王は第一王子のミハエルである。今後、皇太子として私の職務を手伝ってもらうので、皆はその様によろしく頼むぞ。他の王子と王女は王位継承権を放棄した。今後は、兄のミハエルを支える礎になろう」

 陛下のドッキリ発言に、会場は盛大な拍手で沸いた。

 ドキドキドキ。私はパチンパチンと空拍手だ。

 でもやっとモヤモヤが繋がった。

 ドーンがなぜかアレクに礼をしていた事。ドーンに先生と言っていた事。それに本人が新年にわかるって言っていたアノ秘密。

 秘密どころの騒ぎじゃない。マジですか… 私めっちゃ不敬な事連発してない? 大丈夫か? 大丈夫だよね? 仕事だもんね? え~、どうしよう。

「団長、大丈夫です」

 後ろからそっとドーンが囁く。

 びっくりした~、エスパーかよ!

「今宵は王子の婚約者候補も集まってくれているだろう? ようやくミハエルも決断したようだ。夜会の最後に正式な婚約者を発表する。では、皆の者楽しんでくれ!」

 ザワザワと会場が盛り上がっている。年頃のご令嬢達はみんな浮き足立っている。ハンターの様な目付きだ。

「ドーン。私、不敬罪で牢屋行き?」

「ははは、やっぱり。変な事を考えていると思いましたよ。問題なしです」

「そう? 信じるよ? 絶対だよね?」

「はいはい。では、料理コーナーへ行きましょうか? 今なら、と言うか、今日は誰も料理には見向きもしないでしょうから。貸切状態ですよ、きっと」

「うん、そうね。それがいいわ」

 私とドーンは後方の料理の方へ向かう。一方、階段近くはご令嬢の団子状態だった。キャ~キャ~と黄色い声が木霊している。

「第一王子ってどこにいたの? そう言えば今まで見た事ないかも」

「あぁ、ご遊学? いい歳して外国を渡り歩いていた様ですよ?」

「しぃ~。ドーン! 言葉選んでよ! 誰が聞いてるかわからないのに!」

「本当の事です。それに私は陛下のお世話もしましたし、王子達の剣の講師でもありますので。多少の事は構いません」

「げっ。またしてもすごい過去を平気で… ドーン。やっぱりあなたが可哀想になって来たわ。私なんかの下で」

「私は今、人生で一番充実しています。自分で選んだ仕事を謳歌中です。団長は私なんかなどと言わないで下さい」

「そう? もう、何が何だか… 一気に疲れたわ。何かさっぱりした物を食べたいな」

「そうですね」

 ドーンが言っていたように、料理コーナーは誰も居なかった。

「これと、これ。あと、このカルパッチョを多めでお願いします」

 ウェイターの人にお願いして、改めて階段付近を振り返る。

 アレクは相変わらず無表情だな。冷めた視線で令嬢達を射殺している。射殺す? でも案外ご令嬢達も『うふ~』『いや~ん』と腰砕けになってるから、あれはあれでいいのか。

 第二王子様はサラッと営業スマイルでご令嬢達をさばいている。慣れた感じだね。王女様は男性達に囲まれてクネクネ。あ~、そう言うタイプか。

「ん! この白魚うまっ! ドーン、これヤバいから食べた方がいいよ?」

「ん? これですか?」

「うん。すごいね~、王城の料理人。第七に来てくれないかな?」

「ふふふ、それはどうでしょう? 団長は第七にはあと一ヶ月も居られないんですよ? 次の職場の食堂は王城内ですから次を期待しては?」

「そうだった! そうだね。やっと、次の楽しみが出来た。は~、気が重すぎて… 食堂に入り浸りそう」

「ははは、仕事はしましょうね」

「はいはい、ソウデスネー」

 二人で料理を食べながらまったりと話していたら、総団長の御一行がこちらへやって来る。うえ~。

「総団長」

 と、私は今夜はドレスなのでカーテシーで礼をした。

「ん? ラモンか? お? いや~、見違えたな。とてもキレイだ」

「ありがとうございます」

「ドーンも。お前達こんな隅で何をしている?」

「お腹が空いたので… 避難してました」

「ぷはっ。避難か。ま~、お前は興味はないか」

 と、総団長は後ろのあのお嬢様軍団を指差す。

「興味がないと言うか、無縁かと」

「ははは。それより騎士団の編成の発表だが、この後、貴族達の陛下への挨拶が終わったらあるらしい。ラモン、帰るなよ?」

「帰りませんよ! 今日は団長の腕章も着けていますし… 逆に帰ったら変な目で見られてしまいます!」

「ねぇ! そろそろいいかしら?」

 総団長にポカポカと抗議をしていたら、ひょこっとロリ? 同い年ぐらいの、前世で言うゴスロリ系のお嬢様が顔を出した。

 誰だろう? スナッチ副団長をチラッと見るが無視。まぁそっか。さっきも今も無言だしね。

「初めまして。第七騎士団団長のラモンです。いつも総団長にはお世話になっております。総団長のお嬢様でしょうか?」

「「「「はぁ?」」」」

 そこに居た全員の片眉が上がっている。違うの?

「え? 失礼しました。では、誰だろう… あ、愛人とか?」

「バカ! 愛人連れてくる王族とかないわ。本当にバカだな」

 ようやく喋ったと思ったら、スナッチ副団長はバカしか言わない。ムカつくな。

「ふふ、ふふ。あはははは。ひ~、ごめんなさいね。あなたいい子ね。私はキャスリーンよ。第三魔法士団副団長をやっているわ」

 ま、まさかのキャスリーン様! 妖艶な美魔女の噂はどこへ? てか、若っ! ドーンと本当に同期?

「キャ、キャスリーンしゃま! し、失礼しました」

 シュタッ。思わず敬礼をしてしまう、小心者の私。

「あはは、面白いわね。ドレスなのに敬礼とか。ドーンが気にかける子が居ると聞いてハドラーに着いて来たの。ふ~ん」

 と、キャスリーン様は私を上から下まで只今スキャン中です。

「キャスリーン。いい加減にしろ」

「あら? ドーン、殺気を飛ばさないでよ。ラモンちゃん? そのドレス、クリス商会じゃない?」

「え? ドレス… はい、そうですが?」

「ぷぷぷ。そう言う事ね。何ヶ月か前にドーンに聞かれたのよ。『クリス商会のドレスの相場ってどのくらいだ』ってね」

「おい」

「ほほぉ~」

 ニヤニヤと総団長とキャスリーン様がドーンを見ている。てか、そんな事、キャスリーン様に聞いたの? もう、ドーンったら。

「それは… 私が至らないばかりに、ドーンにワガママを言いまして。その節はお手数をおかけしました」

 私の事だし一応礼をする。ごめん、ドーン恥かかせて。

「あらあら~、『ドーン?』。本当に仲がいいのね。ドーンが嫌な顔しないなんて」

「そうだろ? 面白いだろ? あの(・・)ドーンだぜ?」

 二人で私をジロジロ見ながらニヤニヤする。何なんだ。居辛いんですけど。

「もういいだろう。挨拶は済ませたんだ、あっちへ行け」

 おいおい、ドーンさん。いくら何でもそんな言い方…

「まぁ! 私達には相変わらず冷たいのね。まぁ、いいわ。いいもの見れたし。次は王城へ戻るんでしょう? その内また会えるでしょうし。ね? ラモンちゃん?」

「ええ。はい」

「仲良くしましょうね。またね」

 噂とはちょっと違ったキャスリーン様がウキウキで退場した。

「じゃぁ、私も行くよ。またな、ラモンとドーン」

「はい。また後程」

 総団長は上機嫌、スナッチ副団長は最後に『ば~か』と口パクして向こうへ行った。

「腹たつな、スナッチ副団長」

「あれは直にわかるでしょうが、口は悪いですが総団長を敬愛していますので」

「うわ~そうなんだ。じゃぁ、スナッチ副団長の前では余計な事言えないね」

「それがよろしいかと」

 はぁ~。次から次に。心臓がもたない。

 でも、今日は王族主催のパーティーだし。まだ、何かありそう…

「ねぇ、ドーン。ドキドキの連続で… もう体力が限界かも。もうないよね?」

「まだ始まったばかりですよ? ふふふ。極力ココで大人しくしていましょう」

「うんうん、そうしよう」

 私は深呼吸して、カルパッチョの続きを堪能する。もうしばらくは誰も来ないでね。ちょっと落ち着きたい。

「やぁ! 団長ちゃん!」

 いきなり笑顔で現れたのはトリス達だった。

 って、トリスとあなた達!!! 

 ぐすん。しばらくでいいから放っておいてよ。頼むよ~。