「ラモン団長、手を」

 馬車を降りる私をエスコートしてくれたのはドーンだ。

 黒のスーツにグレーのズボン。渋い。てか、ロマンスグレーなイケオジだ。上品な仕草が更に艶めいて見える。

 いかん、いかん。ちゃんとしなければ。ボ~ッと見とれていてはいけないんだった。

「ありがとう、ドーン」

「団長、目立ちたく無いと仰って居ましたが… 他の華など枯れ草に見えましょう。とてもおキレイです」

 さりげなく褒めてニコッと笑うドーン。

「やだ~、余計緊張して来た。今日はそんな会話が飛び交うのよね? 私ちゃんと褒め言葉いえるかな?」

「ふふふ。本心ですよ。ごほん、そうですな、表裏が入り乱れる会話でしょうな。私がお側に居りますのでご安心を」

「そうね。ドーンがいるから大丈夫か。は~、隅にいようね? 隅か料理コーナー。でも料理コーナーでも端っこにしよう」

「おや? ダンスはされないのですか?」

「されません」

「せっかくの王城ですよ? 今回の会場のシャンデリアは本当に素晴らしいのです。その下で踊る団長はさぞ輝いて美しいでしょうに、勿体ない」

「ちょっと、さっきからさドーン? ちょいちょいお貴族モードだよね? 私には社交辞令とかいいよ? 普通に行こうよ」

「本心なんですがね? まぁ、いいでしょう。普通にか… いつも通りフランクな感じで、ですね?」

「そうそう」

「了解しました」

 ふ~っとやっと緊張の肩が一旦降りる。

 会場へ入るとまず隅をチェックだ。って、隅って、護衛と警備騎士でしょ、あとはでっかい花瓶達に占領されていた。

「しまった。どうしよう」

 私がぐるぐると悩んでいるとドーンが席を外すとか言ってくる。

「飲み物をもらって来ます。少し待っていて下さい」

「え~… 一人に」

 言い終わる前に、さっさと行ってしまった。

 どうしよう。こう言う場合って、ただ立ってればいい? 早く帰って来て。壁際へそろっとそろっと移動だ。

「ラモンちゃん?」

「あ~、ユーグさん!!! 神か!」

「どうしたの? 変な子ね。それより、よく似合ってるわ。ふふふ、その耳飾りも」

「あっ。ありがとうございます。ユーグさんも彫刻のような美しさです」

「ぶっ。彫刻って。あはは、ありがとう。ラモンちゃんなりに誉めてくれたのよね? うれしいわ」

 ユーグさんは薄い水色に白のネクタイ、白のパンツスーツ。めっちゃキレイ。この色を着こなすのってマジ尊敬する。

「それより一人? ドーンは? あのオヤジが離れる訳ないものね? 用かしら? その耳を見たらわかるし」

 と、キョロキョロと会場を見回すユーグさん。

「耳が何ですか? ドーンは飲み物を取りに行きました。マジで一人でどうしようかと… ユーグさん一緒にいて下さい!」

 私はユーグさんの手を取り懇願する。

「まぁまぁ困った子ねぇ… って、ドーン居たの… ラ、ラモンちゃん、ちょ~っと手を離そうか? 私の命の危機よ」

 振り返るとドーンが戻って来ていた。手にはジュース。

「ユーグ殿、()かありましたか?」

「いえ、何も」

 ドーンは手を凝視したままユーグさんに話す。

「そうですか… 紳士がする行為ではございませんよ。離して下さい」

「いや、私じゃなくて… すみません、はい」

 ユーグさんはバッと私の手を振り払った。

「え? ドーンもしかして怒ってる? それより、そうだ! これからどうする? 何する? 早く帰りたいぃ」

 ドーンは笑顔に戻って飲み物を渡してくれる。

「そうですね~、通常ですと、陛下が開会の挨拶をして王妃とのダンスが始まります。その後、自由な歓談時間に入り、王族への挨拶に列に並んで、最後に新年のお言葉を頂いて終わりでしょうか」

「そうね、でも、今回は騎士団の事にも触れるから、順番がわからないわ。それに、王妃様って謹慎中でしょう?  立太子の件もあるし… 今日は本当にわからないわね。このまま隅に居ればいいわよ?」

「ここが隅? 結構真ん中じゃないですか?」

「隅よ。ダンスするわけでもなし、壁に近いんですもの。他を見てみなさい? 皆立ち話してるけど、結構部屋の中心寄りでしょ? 王族の近くに居たいのよ普通は。こんな壁際の椅子がある場所なんて、足の悪い老人ぐらいよ」

 足の悪い老人って。まぁ、いいや。隅っこならそれで。

「ドーン、まさか、今日はこのお嬢さんのワガママに付き合う気? あなた侯爵家はいいの?」

「はい、私は副団長ですので今日は団長と共にいます。家の事は上の息子に任せているので問題ありません」

「へぇ~。ま~いいけど。じゃぁねラモンちゃん。またね~」

 と、ユーグさんはあっさり去って行った。

「ドーン、ごめんね。付き合わせちゃって」

「問題ないと言ってるでしょう? 私はあなたの副団長です。要らぬ心配は止めて下さいね。それより、始まったら料理を見に行きましょう。王城の料理は流石と言える物ばかりです」

「そう? そうね。料理食べよう。でも、一応総団長とかに挨拶しなくていい?」

「まぁ、会えればでいいです。会場はこんなに広いですし… って、覚えてないんですか? 総団長は前王弟ですよ。挨拶に行くなら王族関係は中央で目立ちますよ?」

 目立つの嫌だなぁ。

「わかった。でも、やっぱり上官だし。挨拶はしないとね」

「いやいや、団長同士は同列です。そんな事、適当でいいんですよ」

「それ、副団長が言っていいセリフ? 今日のドーンはちょっといつもと違うよ? 大丈夫? 無理させてない?」

「大丈夫です」

 パッパカパ~ン。

 私達の会話を遮って、パーティーが始まるラッパの音が響き渡った。