「は~、こんな騒ぎになっちまって」

「あぁ、本当に、団長は心の底から隊員想いなんですよ」

 食堂の隅に移動した俺達は、腕相撲大会を遠目に眺めている。

 まぁ、はしゃいでいる若い奴らが、毎日生き生きしているのはこっちまで気持ちがうれしくなるんだが。

「で? ハドラーにバレたって?」

「えぇ」

「まぁ、しょうがないか。こんな老いぼれ覚えていたとは… そっちの方がビックリだな」

「そんな風に言わないで下さい先輩。私も古巣に転任して見かけた時はうれしかったんですよ?」

「ふん。どうだか。お前ら二人には本当に手を焼いたからな」

「ははは、若気の至りです」

「ハドラーはしょうがないか。王弟という身分を嫌がっていたからな。騎士になった途端、継承権を放棄して… それで第七に飛ばされて… あの時は荒んでいたな?」

「まぁ。色々ありましたから、あの当時は」

「お前もよくあんなのに付き合ったな」

「これも私の運命ですよ。あいつは親が決めた主君でしたが、幼馴染ですしね。腐れ縁ですよ」

「あれから二十八年… 二十九年か。ハドラーは自分で言った様に這い上がったな。すごいじゃないか」

「ええ、第七(ここ)から始まりましたね。第四に行き、第五に。最後は第一。今は総団長ですから」

「お前も一緒に駆け上がったじゃねえか? 参謀殿。お前も確かにがんばったんだ。自分を誇れ」

「そうですね。そう言って下さるのは先輩だけですね。もう私も歳ですからね。上官が居なくなるのは寂しいものです」

「そうだな… 叱ってくれるやつってのは歳取ってからありがた味が分かるからな」

「ハドラーに『約束は守ったから俺はお役御免だ』と伝えてくれ」

「そんな… まだまだ…」

「いや、俺もこんな歳までやるとは思ってもみなかったさ。ははは、色んなモンを見せてもらったよ。最後にあの小娘団長に着けたのはよかった」

「先輩。弱気にならずに」

「俺も若かったんだな。売り言葉に買い言葉だ、ハドラーのおかげでとんでもない人生だったよ」

「いえいえ。それは先輩の成し遂げた事ですよ。今では『賢者』として後輩達に慕われているじゃないですか?」

「へっ。何が賢者だよ。俺はそんなにオツムは良くねぇのに、ただの嫌味だ」

「頭の良し悪しではないでしょうに… 本当に変わりませんね、先輩も」

「お前もな。こうして二人になれば先輩なんて… いつの時代の先輩だよ。大昔だろ」

「それでも、私にとっては先輩は先輩です」

 そんな昔話をしていたら、団長がニコニコ? いや、薄ら笑いでこっちへやって来る。

「ドーン、例のよ、多分。これ後で見てね、証拠だから捨てずに置いておいてよ。あと、第一に連絡お願い」

「了解しました。十五分です。十五分時間稼ぎをお願いします。すぐに行きますので。くれぐれも無茶はしないように!」

「ええ」

 と、団長は食堂の入り口へ向かった。

「何だ? 急ぎの仕事か? 厄介事か?」

「あはは。アホはどこにでも居るんですよ。では、そう言う事なので失礼します」

「ん~」

 ドーンはそのまま何人かに声をかけて静かに消えて行った。

 食堂では盛り上がって、溢れんばかりの笑顔で埋め尽くされている。

「ふ~。ラモン団長さんよ~。あのうれしそうな面。これじゃぁ、あの約束… 賭けはハドラーの勝ちだな」

 俺はいい気分に酔っ払って最後まで腕相撲大会の様子を眺めていた。

 途中、参加したがすぐに負けてやった。いや、普通に負けたな。はは。


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 次話から第二章スタートです!