「やった~! ごちで~す」

 私は先日の穴埋めで、ミゲル先輩に王城内のカフェへ連れてきてもらった。

「いや、いいよ。俺も話があったし」

「ん?」

 ここでしか食べられない、スペシャル騎士ランチ。エビフライもステーキも一遍に食べられるんだよね。楽しみにしてたんだ~。ここ、王城内の従業員専用食堂は、王城勤務の者がいないと入れないから、このランチは結構貴重なんだよ!

「いやな~、デュークの事、すまなかったな。まさか… トーイ、いやトレバーだっけか? 連れて行くとは。それに、ラモンから聞いたか? トーイは俺達にまで嘘ついてたんだぜ? 『クリス商会の息子のトーイ』って」

「あぁ、それね。本当にバカですよね? すぐバレる様な事。友人すら裏切るなんて。彼女出来ないの自業自得だっつ~の。そいつ人格に難ありですね」

「まぁ、そいつの事はまぁいいや、でさ~あの日トリス様と俺と会ったじゃん?」

「はい。どうせ婚活してる私達の冷やかしでしょ?」

 ミゲル先輩は、急にキョロキョロ辺りを確認してからコソコソ話し出す。

「あの人さ、俺もあの日初めて会ったんだよ。しかも俺は様子を見に行こうと思ってたから、最初から休み取ってたんだけどさ、寮を出たら居たんだよ。待ち伏せされてたんだ」

「はぁ?」

「『団長ちゃんの先輩さん?』って声かけてきてさ。あの人の正体、お前何か知ってるか?」

「私が知るわけないじゃないですか。正体って… 手掛かりでもあるんですか?」

「あぁ… 少しだけ。あの人、俺の二つ上でさ、学校でもまぁまぁ有名だったんだ。見た目がアレだろ? とは別に、彼の人は侯爵家… あの(・・)シュナイダー家なんだ」

「ん? シュナイダー家? すみません、わからない」

 ミゲル先輩は、慌てて正面の席から私の横に移動する。

「お前な~。騎士なのにシュナイダー家を知らないのか? 暗殺者を多数輩出している、親戚のほとんどが第五出身の。あれ? 知らない?」

「え~、暗殺者? 正反対じゃん。あの風貌。チャラい事隠そうともしてないし」

「おかしいと思わないか? そもそも、シュナイダー家の息子が第七だぜ?」

 …何か裏がある? って、考えるのが普通? ん?

「でも、ラモンが入る前から第七に居たんでしょ?」

「あぁ」

「てか、先輩、何で捕まったんですか? そのトリスって人に」

「う~ん。ラモンの過去や家族の事を聞かれたよ。俺がシュナイダー家だって気づいてる事にも釘を刺された」

「何で? 有名な一族なんじゃないの? 今更釘刺す?」

「『団長ちゃんには出自を言うな』って」

「…」

 じと~と、私はミゲル先輩を睨む。

「え? 何で睨まれてるの俺?」

「そんなどえらい事を何で私に言うかな? 巻き込まないで下さいよ、怪しさ満載じゃないですか」

「いやいや、お前、ラモンの親友じゃん。心配じゃないの?」

「… そのトリスって人、実は身辺調査? してるだけで害はないんじゃない? 現に何かあった訳でもないみたいだし」

「んじゃ何か? そう言う家の者だからクセ(・・)で調べてるって?」

有体(ありてい)に言えば?」

「ばっか! そんなんでわざわざ聞きに来るかよ? ラモンの古巣に」

「じゃぁ、何が目的? ミゲル先輩はっきりして下さい」

 ミゲル先輩は口を尖らせて、拗ねている。

 で? 結論は? せっかくのスペシャルランチの味がしない。くそ~。

「暗殺者一家なのに地味に身辺調査だろ? だから、第五は王族とも繋がりあるから、ラモンは上位貴族に目を付けられたんじゃないかって、さ」

「う~ん。もしそうだとしても、どうしようも無いじゃん。先輩、忘れてる様ですが、ラモンは今や団長ですよ? 上位騎士の更に上。何かあっても私達が手を出せる世界じゃない」

「んじゃ~、どうするんだよ」

「どうもしませんよ。今まで通り、プライベートで愚痴聞いてやって朝まで飲む。それが親友の在り方です」

 は~。さぁ、ランチを食べましょう。これで一件落着。

 私が、エビフライをブスッと刺して大きな口を開けた時、目の前にトリス様が静かに座った。

「あ~、いいね。スペシャル騎士ランチ。俺も食べた事無いや~。って、ケリーちゃん、今日もキレイだねぇ」

 唖然だ。ミゲル先輩は顔が青ざめてカタカタ震えている。

 ぼとっとエビフライが落ちる。お皿の上にね、セーフ。

「ミゲル君さぁ、まぁ、多分ケリーちゃんには言うかな~って思ってたけど、まんまじゃん。あはは」

 トリス様はお腹を抑えて笑っているが、目が笑ってない。

「ケリーちゃんはもう分かるよね? 頭良さそうだし。お願いね?」

「ははは、はい。一つだけいいですか?」

「ん?」

「本人に危険は?」

「無い。多分…」

「わかりました。なら私は何も言いません」

「ん、いい子。君もね、ミゲル君」

 ミゲル先輩はこれでもかと言うほど首を縦に振っている。必死だ。ぷぷ。

「は~、じゃぁ、ずっとお預けのランチをいい加減食べてもいいですか?」

 私は何事もなかったかの様に振る舞う。てか、マジで早く食べたい。

「どうぞ、召し上がれ。ケリーちゃん、いいね~君。勇気? いや、根性あるね。さすが団長ちゃんの親友だ」

「どうも。あの子は自慢の悪友ですよ」

 トリス様と私はニコッと営業スマイルで別れた。その後は、放心状態のミゲル先輩を横に一人で黙々と食べる。

 予想通り!

『スペシャル騎士ランチ』 うまし!