「おう、よく来た。座ってくれ」

 と、総団長が書類と葛藤しながら私に手で挨拶する。

 しかし、ドーンと第一へ訪れた私の目に映ったのは、一人掛けのソファーで優雅にお茶を飲む陛下だった。

 ピシっ。

「時間を改めます。失礼致しました」

 私は敬礼して逃げようとしたけど失敗した。分かりやす過ぎたか、とほほ。

「座れ。ラモン」

 陛下は一言だけそう言って目で座るように促す。

「… はい。御前を失礼致します」

 長~いソファーにちょこんと座る私。緊張と居た堪れなさで目の前の陛下を直視出来ない。う~、早く~解放して~。

「まぁ、そう身構えるな。楽にしていい。ここには私用で来ているからな」

「… はい。恐れ入ります」

「ラモン、そなたは私が予想していた以上の働きをしているそうだな?」

「申し訳ございません。何事か拝察致しかねます」

「は~、固いな。もっと普通に話せ、肩が凝る」

「すみません」

「当初は第七を立て直す為に、ドーンを遣わせたのだがラモンがやってのけるとは、面白い、なぁ?」

「お、恐れ入ります」

「で、だ、ハドラーより聞き及んでいるだろう? 新年の騎士団の編成の事を?」

「はい。少しですが」

 陛下は私の後ろのドーンを一度見てから、また私に視線を戻しニヤッとした。

「そなた、第一には行きたくないそうだな?」

 … どう答えるのが正解? 正直に『はい』? それとも『そんな事は…』って濁す?

「どうなんだ?」

「まぁまぁ陛下。そう追い詰めるなよ、ラモンが焦ってるじゃねえか」

 と、ようやく事務作業を終えた総団長が話に加わる。ふ~、ちょっと助かった。

「おいおい、ドーン、陛下に殺気を飛ばすな。お前達は本当に相変わらずだな」

「さぁ?」

 おいおいドーンさん。私越しにそんな適当な返事をするなよ。怖いんだけど。

「それでな、ラモン、お前はやっぱり他へ異動させる」

「え? 正式に決まったのですか?」

「あぁ、私が許可をした」

 陛下と総団長は息がぴったりだ。しかも横に並ぶと結構顔が似ている。やっぱり私の聞き間違えではなかったようだ。

 ハドラー総団長は陛下の叔父さん。

 二人がニヤニヤと話しているのを眺める。目が似てるのかな? いや~眉毛? う~ん。

「… モン。ラモン! おい! 聞いてるのか?」

「はっ。すみません、ちょっと違う事を考えていました」

「ははは、緊張しているのかと思えば、平気で妄想するとか… ドーン、本当にこんなヤツがお気に入りなのか?」

 陛下は『肝が座っているのか何なのか』と、絶賛大爆笑中だ。

 ふん。ちょっと似てるから色々見てただけじゃん。

「… で… だ。だからラモン、そう言う訳だからな」

 総団長が言い放つ。って、また聞いてませんでした。

「え? え? 聞いてませんでした」

「あはははは」

「お前… はぁ陛下、笑い過ぎだ。だからな、ラモン、お前は新年明けに異動だ。一月中に引き継ぎを終わらせて二月から新しい職場だ。他の者もな」

「え~~~! どこですか?」

「第三だ」

「はぁ? あ~、第三? まぁ、ユーグさんの下ならいいか。第七は好きでしたが上の命令ですから致し方ありません。はい」

「ちょっと勘違いしてないか? 本当に聞いてなかったのだなお前? はぁ~呆れたヤツだ」

 さっきまで大爆笑していた陛下も残念な子を見る目に変わっている。すいませんんね~! 妄想好きで。

「総団長、何が違うのでしょう?」

「詳細は新年明けだが、第三のユーグナーは第1に異動、その後にお前が入る。ドーンもな」

「私?」

「あぁ、第三の新団長にラモン、副団長にドーンだ。お前らはセットにした方が、色々と効果がありそうだからな。本当は第一に来て欲しかったんだが… まぁ、王城勤務なんだ、少しづつ慣れればいいさ」

 何に? 第一とか言わないでよ?

「ははは。私が団長なのはどうなんでしょう? この際、平騎士に戻してドーンを団長にしては?」

「それはない。そなたの功績は大きい。今回もまた大活躍だったそうじゃないか?」

 大活躍か? 誰でも予測できるアホな陰謀に乗っかって、第一と組んだだけじゃん。しかも関係者はめっちゃ少数だし。相手が高貴なのにアホすぎただけなんだけどなぁ。

「私はただの『餌』だったので活躍とは言い難いかと…」

「まぁ、いいじゃないか? 団長で色々と功績を残したんだ。普通に出世したんだよ。素直に喜びなさい」

「はぁ、まぁ。ありがとうございます?」

「はは。今回の騎士の編成は大掛かりだからな。新年のパーティーで発表するから必ず出席するように」

「はい」

「ドーンもな。って、お前は異動については反対しないのだな? えらく静かじゃないか? 当初の約束通り、第七は立て直されたし引退するか?」

「引退は撤回致します。私はラモン団長にお仕え出来ればそれでいいので」

「へぇ~そこまでか。オヤジキラーなのだな? ラモン。スバルもだと聞いたぞ?」

 ムキー! 確かにオヤジ共に好かれてる感は否めないけど! ちょっと陛下でも言い過ぎ!

「… それこそ妄想じゃないですか?」

 弱っ。私、反撃、弱。笑

「ははは。最後の最後でやっと少し慣れたか? 今後は王城勤務だし、何かと会う機会もあるだろう。今の様に気軽にな、よろしく頼むぞ?」

「はい。了解です」



 王城勤務かぁ。

 考えただけで頭痛い。お腹も痛いかも。

 大雪降って新年のパーティーが中止にならないかな~?


【第一章 完】

 ※間話を数話挟んでから、第二章は新年のパーティー場面より始まります。