「で? どこかな? 待合室?」
「いや、馬車で待つと言っとります」
「ふ~ん」
西門に着いた団長は、鼻歌混じりに軽い足取りで馬車へ向かう。儂の後ろにいる見張りは上手くいったとニヤニヤ顔だ。
どうするんじゃ? 団長?
コンコンコン。
馬車をノックして名乗りを上げる。
「第七騎士団団長ラモンです。お呼びと伺いました。いかがされましたか?」
バンっと扉が開き、中からさっきの派手な貴族とデブが出てきた。周りには敵の騎士が数名武器を構えて団長を囲う。儂は見張りに突き飛ばされて、膝をついてしまった。
「大丈夫?」
こんな時なのに団長は儂の心配をするんか?
「いやいや、団長。状況を分かっておいでか?」
「分かってるわよ。剣を向けられているから。それに、見知ってる顔だしね」
「は? 知り合い?」
「あはは、知り合いではないわ。他人よ」
横柄な態度のデブが団長を指差す。
「はははっ小娘、久しぶりだな! だが残念だ、今日がお前の命日だからな! この通り、私は外に出られた。ハハハ、思い知ったか!」
「相変わらずブルブルね、ブルータス? ふふふ、ブルブルのブルータスって… ぷはっ」
「相変わらずは貴様だ! この無礼者が。この方を知らんのか? 貧乏人が」
「はぁ? 知ってますよ。まさかあなたとは思いませんでしたよ。ブルちゃんの親玉が」
「ほほ~。少ない脳みそでも覚えていたか? なら、話が早い。今までの事は目を瞑ってやろう。今後は、ブルータスの指定する荷馬車は検問なしに通すんだ」
「はっ? 公爵様、話が違うではありませんか? 小娘を殺さないのですか?」
「は~、お前はバカか? こんな事で殺すと足がつく。今やこの娘は騎士団では有名だからな」
「そんな~」
「ん? そうなの? 私有名なの?」
「ふん、白々しい。余計な政策などせず第七で埋もれていればいいものを」
「余計なお世話です。それよりなぜそんなに荷物を通したいんですか? 中身って何です? 今後の参考にさせて下さい」
団長がそう言うと、う~んと貴族は少し考えている。何じゃろう?
「『参考』という事は協力するのだな? 小娘、よし、今回だけ特別に教えてやろうではないか」
儂は貴族とブルータス、団長の会話を黙って聞いていたが、西門の上が暗がりだが少し揺らめいたのに気がついた。
チラッと確認すると、何人かの騎士が潜んでいる。
応援が来たんじゃな? は~良かった。これで団長は助かるな。
「何? 薬物系?」
「違う」
「う~ん、小さなかわいい魔獣とか?」
しかし、団長はニコニコと対応しとるがこれも作戦なんじゃろうか? 西門の上には気づいたかな? いや、儂が下手に動くと邪魔じゃな、ここは黙って大人しくするのがええ。
「違う。人だ」
「人?」
「あぁ、隣国では奴隷制度が残っているからな。驚いた事に数万Kで人が買えるんだ。素晴らしい事じゃないか。それをな、私が高貴な趣味の貴族に売るんだよ」
「『私が』って事はあなたが直接パイプ役を? へぇ~。結構なギャンブラーね」
「そうでもない。人間はな、どうしても欲しかった物を手に入れた瞬間や待っている間は、期待と喜びで周りが見えていない事が多い。だから、法を犯して人を買った事実を、その弱みが実は私の、公爵家の手中にある事に後々気づくんだよ。本当にバカが多い。まぁ、そのおかげで稼がせてもらったんだが。ふはははは。そうして、私が何も言わなくても勝手に服従するようになって来るんだよ」
「変な所に度胸があるのね? ちゃんと騎士業を全うすればそれなりに行けたんじゃない? 現に今、あなたは団長でしょう? ねぇ、第四騎士団団長、サイモン?」
さっきまで顔を上向き加減で偉そうに演説していた貴族が怒り出す。
「小娘、調子に乗るなよ? そんなもので私が満足するとでも? 騎士業なんぞただの表の顔だ。世の中は金だ、金があれば全てが手に入る。地位も名誉も何でもな。それより小娘、サイモン様だろう? 公爵家だぞ?」
「いいえ、サイモン。団長は同列。そうですよね? 総団長?」
!!!
サイモン様がびっくりして辺りを見回している。敵の騎士もザワザワし出した。
それより、第四の団長だと? 近衛じゃないか? どうなっとるんじゃ?
さっき、気配があった西門の上から次々と騎士が降り立って来た。
「語るに落ちたな、サイモン。やっぱりお前はバカだった。そんな事は偉そうに自慢するもんじゃないんだよ、普通。本当の策士はわざわざ自分から出てこないし、まして証拠なんぞ残さない。誰でも『公爵』で黙らせられないのに気がつかないのか? ま~、バカだからわからんか」
「な、何を!!! 貴様! 我が公爵家を敵に回すのか? 王妃も只では済まんぞ?」
ブルータスは連れて来た自分達の騎士の後ろに逃げている。あ~、腹が邪魔しとるな全く隠れられていない。
「構わん。王妃も承知だ。お前はお前の心配でもしていろ」
サイモン様は諦めたのか騎士達と戦闘状態に入る。総団長に剣を向けた後、目の前のラモン団長に剣先を変えた。
「抵抗するな、お前ではラモンにすら勝てん」
そうなのか? そんなのが団長じゃと?
「え? そうなんですか? 弱いの?」
「弱いって言うな~! 小娘ぐらい私の剣の錆に~」
「~長い。敵対している時はサッと済ませないと。そんな口上要りません。隙を見せたら終わりですよ? サイモン?」
団長はお得意の体術と十手でサイモン様を捕縛した。
「お、おのれ! 卑怯だ!!!」
「本当だった… 弱すぎてちょっとショック。こんなんが同じ団長なんて。どうせ爵位でズルしたんでしょう? 騎士でそれをやると苦労するよ? って、だから悪事に手を染めたのかな? まっ、どうでもいいけど」
敵の騎士や連れ立っていたブルータスはあっさり負けた。戦闘というほどのいざこざにもならなかった。
応援に来た総団長と総副団長、ドーン様とアレク様、クルス様、トリス様も弱すぎて手持ち無沙汰な感じじゃ。
「マジで弱すぎでしょ? お前ら、仮にも近衛だろう?」
「え~! トリス、このゴロツキ達って第四なの?」
「あぁ。近衛騎士、通称お飾り坊ちゃん騎士。ぷはは」
「そうなんだ。でも近衛って護衛が主な仕事でしょう? 上位騎士ばかりだと聞いたけど?」
「金で買ったんだろ? 半数はそんな感じだぜ? これも暗黙の了解で結構有名な話だぜ?」
「うぇ~。王様ピンチじゃん」
ここで、捕縛や何やらの指示を出し終えた総団長がうちの団長に近づいて来た。
ごつん。と、ゲンコツが落ちる。
「痛~」
「陛下に対して不敬だ、口を慎め。今回の件は陛下もご承知である。それとな、誤解のないように言っておくが第四の中身改革はヘボ騎士を一掃した後にする予定だ。サイモンを捕縛するのに、今回は私が必要だったからな。その為に泳がしていたんだ。
それより、ラモン、やっぱりお前はいい仕事をするなぁ? うまい具合に『餌』になってくれて手間が省けた」
「『餌』って… 先日言っていた『掃除したい騎士』ってこの人の事だったんですね。って、総団長が必要って何で?」
「ん? お前知らないのか?」
「何がです?」
「私の名を」
儂も団長と一緒につい考えてしまった。何じゃったかな? 大昔に聞いた事があったんじゃが…
「すみません。いつも総団長と呼んでいるので、本名すらわかりません」
「アホか… 私はハドラー・ユナイト、現陛下の叔父。前国王の弟だ。一応、公爵家相手だしな」
そうじゃった、そうじゃった。騎士団に入った途端に王位継承権をお捨てになった人じゃった。儂も記憶がやばいな。歳か…
でも、うちの団長は口を開いたまま固まった。ドーン様が団長の背中をさすっとる。はぁ、ドーン様も世話が大変じゃて。
「おい、ドーン。そいつを連れて明日にでも第一に来いよ。では、皆、今夜はご苦労」
と、総団長と総副団長は固まった団長を置いて帰ってしまった。
さて、儂も同僚達の具合でも見て来ようかの。
「いや、馬車で待つと言っとります」
「ふ~ん」
西門に着いた団長は、鼻歌混じりに軽い足取りで馬車へ向かう。儂の後ろにいる見張りは上手くいったとニヤニヤ顔だ。
どうするんじゃ? 団長?
コンコンコン。
馬車をノックして名乗りを上げる。
「第七騎士団団長ラモンです。お呼びと伺いました。いかがされましたか?」
バンっと扉が開き、中からさっきの派手な貴族とデブが出てきた。周りには敵の騎士が数名武器を構えて団長を囲う。儂は見張りに突き飛ばされて、膝をついてしまった。
「大丈夫?」
こんな時なのに団長は儂の心配をするんか?
「いやいや、団長。状況を分かっておいでか?」
「分かってるわよ。剣を向けられているから。それに、見知ってる顔だしね」
「は? 知り合い?」
「あはは、知り合いではないわ。他人よ」
横柄な態度のデブが団長を指差す。
「はははっ小娘、久しぶりだな! だが残念だ、今日がお前の命日だからな! この通り、私は外に出られた。ハハハ、思い知ったか!」
「相変わらずブルブルね、ブルータス? ふふふ、ブルブルのブルータスって… ぷはっ」
「相変わらずは貴様だ! この無礼者が。この方を知らんのか? 貧乏人が」
「はぁ? 知ってますよ。まさかあなたとは思いませんでしたよ。ブルちゃんの親玉が」
「ほほ~。少ない脳みそでも覚えていたか? なら、話が早い。今までの事は目を瞑ってやろう。今後は、ブルータスの指定する荷馬車は検問なしに通すんだ」
「はっ? 公爵様、話が違うではありませんか? 小娘を殺さないのですか?」
「は~、お前はバカか? こんな事で殺すと足がつく。今やこの娘は騎士団では有名だからな」
「そんな~」
「ん? そうなの? 私有名なの?」
「ふん、白々しい。余計な政策などせず第七で埋もれていればいいものを」
「余計なお世話です。それよりなぜそんなに荷物を通したいんですか? 中身って何です? 今後の参考にさせて下さい」
団長がそう言うと、う~んと貴族は少し考えている。何じゃろう?
「『参考』という事は協力するのだな? 小娘、よし、今回だけ特別に教えてやろうではないか」
儂は貴族とブルータス、団長の会話を黙って聞いていたが、西門の上が暗がりだが少し揺らめいたのに気がついた。
チラッと確認すると、何人かの騎士が潜んでいる。
応援が来たんじゃな? は~良かった。これで団長は助かるな。
「何? 薬物系?」
「違う」
「う~ん、小さなかわいい魔獣とか?」
しかし、団長はニコニコと対応しとるがこれも作戦なんじゃろうか? 西門の上には気づいたかな? いや、儂が下手に動くと邪魔じゃな、ここは黙って大人しくするのがええ。
「違う。人だ」
「人?」
「あぁ、隣国では奴隷制度が残っているからな。驚いた事に数万Kで人が買えるんだ。素晴らしい事じゃないか。それをな、私が高貴な趣味の貴族に売るんだよ」
「『私が』って事はあなたが直接パイプ役を? へぇ~。結構なギャンブラーね」
「そうでもない。人間はな、どうしても欲しかった物を手に入れた瞬間や待っている間は、期待と喜びで周りが見えていない事が多い。だから、法を犯して人を買った事実を、その弱みが実は私の、公爵家の手中にある事に後々気づくんだよ。本当にバカが多い。まぁ、そのおかげで稼がせてもらったんだが。ふはははは。そうして、私が何も言わなくても勝手に服従するようになって来るんだよ」
「変な所に度胸があるのね? ちゃんと騎士業を全うすればそれなりに行けたんじゃない? 現に今、あなたは団長でしょう? ねぇ、第四騎士団団長、サイモン?」
さっきまで顔を上向き加減で偉そうに演説していた貴族が怒り出す。
「小娘、調子に乗るなよ? そんなもので私が満足するとでも? 騎士業なんぞただの表の顔だ。世の中は金だ、金があれば全てが手に入る。地位も名誉も何でもな。それより小娘、サイモン様だろう? 公爵家だぞ?」
「いいえ、サイモン。団長は同列。そうですよね? 総団長?」
!!!
サイモン様がびっくりして辺りを見回している。敵の騎士もザワザワし出した。
それより、第四の団長だと? 近衛じゃないか? どうなっとるんじゃ?
さっき、気配があった西門の上から次々と騎士が降り立って来た。
「語るに落ちたな、サイモン。やっぱりお前はバカだった。そんな事は偉そうに自慢するもんじゃないんだよ、普通。本当の策士はわざわざ自分から出てこないし、まして証拠なんぞ残さない。誰でも『公爵』で黙らせられないのに気がつかないのか? ま~、バカだからわからんか」
「な、何を!!! 貴様! 我が公爵家を敵に回すのか? 王妃も只では済まんぞ?」
ブルータスは連れて来た自分達の騎士の後ろに逃げている。あ~、腹が邪魔しとるな全く隠れられていない。
「構わん。王妃も承知だ。お前はお前の心配でもしていろ」
サイモン様は諦めたのか騎士達と戦闘状態に入る。総団長に剣を向けた後、目の前のラモン団長に剣先を変えた。
「抵抗するな、お前ではラモンにすら勝てん」
そうなのか? そんなのが団長じゃと?
「え? そうなんですか? 弱いの?」
「弱いって言うな~! 小娘ぐらい私の剣の錆に~」
「~長い。敵対している時はサッと済ませないと。そんな口上要りません。隙を見せたら終わりですよ? サイモン?」
団長はお得意の体術と十手でサイモン様を捕縛した。
「お、おのれ! 卑怯だ!!!」
「本当だった… 弱すぎてちょっとショック。こんなんが同じ団長なんて。どうせ爵位でズルしたんでしょう? 騎士でそれをやると苦労するよ? って、だから悪事に手を染めたのかな? まっ、どうでもいいけど」
敵の騎士や連れ立っていたブルータスはあっさり負けた。戦闘というほどのいざこざにもならなかった。
応援に来た総団長と総副団長、ドーン様とアレク様、クルス様、トリス様も弱すぎて手持ち無沙汰な感じじゃ。
「マジで弱すぎでしょ? お前ら、仮にも近衛だろう?」
「え~! トリス、このゴロツキ達って第四なの?」
「あぁ。近衛騎士、通称お飾り坊ちゃん騎士。ぷはは」
「そうなんだ。でも近衛って護衛が主な仕事でしょう? 上位騎士ばかりだと聞いたけど?」
「金で買ったんだろ? 半数はそんな感じだぜ? これも暗黙の了解で結構有名な話だぜ?」
「うぇ~。王様ピンチじゃん」
ここで、捕縛や何やらの指示を出し終えた総団長がうちの団長に近づいて来た。
ごつん。と、ゲンコツが落ちる。
「痛~」
「陛下に対して不敬だ、口を慎め。今回の件は陛下もご承知である。それとな、誤解のないように言っておくが第四の中身改革はヘボ騎士を一掃した後にする予定だ。サイモンを捕縛するのに、今回は私が必要だったからな。その為に泳がしていたんだ。
それより、ラモン、やっぱりお前はいい仕事をするなぁ? うまい具合に『餌』になってくれて手間が省けた」
「『餌』って… 先日言っていた『掃除したい騎士』ってこの人の事だったんですね。って、総団長が必要って何で?」
「ん? お前知らないのか?」
「何がです?」
「私の名を」
儂も団長と一緒につい考えてしまった。何じゃったかな? 大昔に聞いた事があったんじゃが…
「すみません。いつも総団長と呼んでいるので、本名すらわかりません」
「アホか… 私はハドラー・ユナイト、現陛下の叔父。前国王の弟だ。一応、公爵家相手だしな」
そうじゃった、そうじゃった。騎士団に入った途端に王位継承権をお捨てになった人じゃった。儂も記憶がやばいな。歳か…
でも、うちの団長は口を開いたまま固まった。ドーン様が団長の背中をさすっとる。はぁ、ドーン様も世話が大変じゃて。
「おい、ドーン。そいつを連れて明日にでも第一に来いよ。では、皆、今夜はご苦労」
と、総団長と総副団長は固まった団長を置いて帰ってしまった。
さて、儂も同僚達の具合でも見て来ようかの。