「では、団長。開始の挨拶をお願いします」

 ドーンに促されて、私は厨房のカウンター前に椅子を置きその上に立つ。

「本日はみんな集まってくれてありがとう。団長に就任し、こんな短い時間でみんなと仲良くなれたのが正直一番嬉しいです。今日は、一年の労を労ってもらおうと『第七騎士団第一回腕相撲大会』を企画しました。優勝者には三万Kを用意しています。がんばって下さい。
 しかし、ルールもありますよ? まず一、汚ない罵りのヤジをかけない事。二、負けた者に嫌味を言わない事。三、仲良くする事。ケンカはダメよ? ではトーナメントを組みたいので、トリスとテッセンが持っている箱から番号を引いて下さい。そして、右横に設置した番号に自分の名前を書いて下さい!
 あと、少しですが飲み物も用意しています。お酒があるけど飲みすぎないように!」

 パチパチパチ~。大きな拍手と共にザワザワとくじ引きが開始される。

「だ、団長。いいですか?」

 私と同じぐらい背の低い女性騎士とガッチリした筋肉女性騎士が話しかけてくる。

「ん? どうしたの?」

「私は男性に勝てる自信がないので参加しなくてもいいですか?」

「う~ん。いいけど… でもどうせ負けてもいいなら参加してみたら? 腕を組み合うだけでも楽しいよ? 後々、話のネタにもなるし。他の隊員と仲良くなれるチャンスじゃない?」

「そうですか?」

「そうだね~どうしても嫌なら棄権でもいいわよ? でも番号は引いてね? 数を合わせてトーナメントの紙を作ってしまったから。名前の横に棄権って書いてくれればいいし。でもよく考えてね。勝つ事だけがこの会の目的じゃないし。私はみんなに楽しんで欲しいんだ?」

「わかりました… そう仰るなら挑戦してみます!」

「うんうん。無理はしないでね。応援するよ、がんばって」

 ちょっと気が弱いのかな? 納得してくれたみたいで、その女性騎士はハニカミながらお友達の女性騎士と番号を引きに向かって行った。

「ドーンは? 参加してよ? 私もするし」

「ええ。我々側近は最後に番号を引きましょう」

「了解。私も最後にしよっと。って、速攻で負けてそうだけど。ふふふ」

「私も途中で負けるでしょうね。若い奴が多いですから」

「そうなの? ドーンって結構隠れマッチョじゃないの?」

「そこそこですよ。もういい歳ですから」

「ふ~ん」

 大方、番号を引き終わったようなので私も引きに行く。さてさて、誰が相手かな~。

「D組十七番」

「お~!」
「誰と対戦だ?」
「おい、見えねぇ」

 私のお相手はベテラン男性騎士だった。終わった。あはは、あの腕のヒトコブラクダ。見た目で既に負けたよ。ふえ~ん。一回戦は通過したかったな~。

「アレクは?」

「俺はB組だ」

「クルスは?」

「俺もBだ」

「お~、じゃぁ、追々当たるね~。トリスは?」

「俺はAだよ」

「ドーンは?」

「私もDです」

「え~。じゃぁ、仇取ってね。まだしてないけど、負けそうな相手なんだ~」

「ははは、開始前からそんな事ではいけませんぞ?」

「だって~。って、リックマイヤーは?」

「俺とコリーナはCだ。俺もこんな若い連中に勝てる気がしねぇ。副団長、あっちで飲もうや。コリーナ、あとは頼まぁ~」

「え~、リックマイヤーさん! ずるい!」

 ドーンとリックマイヤーは連れ立って、食堂の隅の席へ移動して若い連中を肴に飲み始める。

「あ~いいな~。私も飲みたい」

「ダメだ。俺らはジャッジ役だろうが。じゃぁ、各組に側近が散らばったからよろしく~。早めに進行してくれ」

 クルスの号令でグループに分かれて腕相撲大会が開始される。

「D組の人集まって~。このテーブルでするよ!」

 トーナメントの紙を外して持って来た。え~っと、一回戦は~っと。

「ウラジールとロキ出て来て。一回戦始めるよ」

 オヤジ騎士のウラジールと新人騎士のロキ。双方目の輝きが違う。キラキラだ。いや、ギラギラか? 多分お目当ては賞金なんだろうけど。気合い入りまくりだな~おい。

「では、双方手を組んで。用意、始め!」

 ウラジールは日に焼けたデカい腕に青筋が立っている。一方、線の細い感じなのに譲らないロキ。結構、力は強いのかもね。

「ウラジール、やっちまえ~!」
「ロキ! がんばれ!」

 双方、ブルブルと組み合っていたがウラジールが勝った。

「勝者、ウラジール」

「クソっ。もう少しだったのに~」
「まぁ、訓練すればお前にも筋肉がつくさ」
「う~、はい」

 勝っても負けてもいい感じになってるな~。よしよし。

「じゃぁ、二回戦、ヨハンナとミッチェル」

 あっ。さっきの小さい女性騎士じゃん。がんばれ~。

「参加してくれたんだね。ありがとう、がんばって」

「は、はい」

「では双方いい? 用意、始め!」

 ガン。

 一瞬で勝負はついたが、ヨハンナは笑っていた。よかった~。

「あはは、手が! ガンって。一瞬です! すごいです! すごいですミッチェルさん!」

「いや~。ごめんよ、力加減が出来なくて。痛くない?」

 ポリポリと頭をかきながらヨハンナを気遣うミッチェル。おやおや? いい感じ?

「ヒューヒュー」
「他所でやれ、他所で」
「団長! 次だ」

「はいはい。じゃぁ、次ね… ん? どうしたの?」

「急ぎの用だそうです」

 誰かが肩を叩く。食堂の入り口を指さされて見てみると、今日代理でやってくれているお爺ちゃん先生の騎士が来ていた。

「了解。誰か代わって?」

「おう俺が代ろう。さぁ、野朗共! 続きだ!」

 さっき勝ったウラジールが代わってくれた。

 私は人混みをすり抜けて、お爺ちゃん先生の所に行く。

「どうしたの?」