「今回、スバルが異動願いを出してきた。第七にな」

 は? 寝耳に水なんだけど。

「え、でも。うちですか?」

「あぁ、ラモンの下に行きたいんだと。『総務の鬼』までも手懐けるとは、いやはや恐ろしいな」

 ちょっと待って。ちょっと一旦落ち着こう。

 スバルさん、第七に来ても待遇が… 絶対第一の方が良いはず。

「だから、手懐けるって、人聞きが悪いですね。そんな事一ミリも知りませんでしたよ?」

「しかし、第一としてはスバルは手放せない。そこでだ、今、第一は席が二つ空いている。二人共引退だ」

「引退? ドーンの席じゃなくて?」

「あぁ、ドーンの席には前第四の団長が着いた。戦争が終結したからな、一人は領主として戻るやつと、もう一人は一番年上の爺さんが隠居する。第一は平均年齢が高かったしイイ機会だろう」

「で? その二席がどうかしましたか?」

「あはははは。ここまで言ってピンと来ないか?」

 え? ドーンを返せとか?

「ドーンは返せませんよ」

「違う違う。まぁ、遠からずか」

 ニタっと笑う総団長。え~何~?

「わかりません。降参です」

「ほぉ~。まだ分からんのか? 本当に欲がないんだな」

 へ~へ~、すみませんね~。アホで。

 うんうん悩んでいると、スナッチ副団長が話に入ってくる。

「総団長、察しが悪すぎて… 止めた方がいい」

「そうか? 私は楽しくなると思うけどな」

「はぁ~。楽しいとか要らないんだよ、第一には」

 スナッチさんは大きいため息を吐いて、そのまま自分の机かな? そこへ行ってしまった。

「ラモン、お前第一に来ないか? ドーンも連れて」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 私は思わず立ち上がり叫んでしまった。

「いやいやいや、ないです。ないです。それは無謀な話です。総団長、考え直して下さい」

「ははは、自分で無謀とか。よく考えてみろ、今回の第七の立て直し。この短期間でいくつもの案を捻り出し、しかも金がほとんどかかっていない。始めはドーンの仕業かと思ったが、お前の功績だろ?」

「考えたのは私ですが、ドーンや側近達が居なければ無理でした」

「そうだ、その『考える事』を私は買いたい」

 考えろ、考えろ。これはダメ。私には無理。

「まだ、問題が残っています。無責任に途中放棄したくないです」

「その問題も、ラモンじゃなければいけないのか? 今は指示を出せば誰かが動いてくれる様になったんだろう?」

 まぁ、そうだけど。

「嫌です」

「まだ、駄々をこねるのか?」

「はい。これは王命ですか?」

 …

 しばらく睨めっこをする。怖くないよ。総団長の、鋭い目なんか怖くないんだから!

「いや… 私の提案だ」

「では、今はイヤです」

「じゃぁ、何時なら良い?」

 しまった。答えを間違えた。

「ずっと先です。私は第七が好きなんです」

 はぁぁぁ、とため息を吐いて仰け反った総団長は、手を額に置いてしばらく沈黙した。

「わかった。実はな、新年明けに騎士団の総編成を行う。功労賞の授与式で陛下が仰っていただろう?」

 ん? 言ってた? 言ってたのか?

 ドーンをチラ見したら小さくうんと頷いた。そうだ、私って緊張と驚きであの時の記憶が飛んでるんだった。

「はい」

「まず第一の引退二名とその穴埋めだろ? ある団の掃除。第一王子が立太子する。それに伴う騎士の異動がある。第四の近衛騎士が増員される。あと、第七の騎士三名の異動は決まった」

 ちょっと、内情を漏らしすぎじゃない? どうしても第一に入れたいの?

「それ、止めて下さい。これ以上は聞きたくないです」

「そこは危機感が働くんだな? ははっ。逃げられない様に仕向けたんだけどな」

「気になる部分は、正直あります。第七の騎士三名の異動。でも、聞きません。聞いたら最後、巻き込まれそうで」

「ははははは」

 私は紅茶を飲むフリをして平常心を保つ。

 気になる。めっちゃ気になる、騎士三名。聞きたい。でもダメ。ダメだ、ラモン耐えるんだ!

「ドーンは? 第一に帰る気あるか?」

「ない」

 即答!!!

「そうか。やはりそうなると、ラモンを口説き落とすしかないのか」

「止ーめーてー下ーさーいー! あわわわわ」

 私は耳に栓をして、聞こえないように声で誤魔化す。

「お前は子供か。はぁ、まぁ、いいだろう。今日の所はこれでいい」

 ふ~~~。

「はぁぁぁ。やっと終わった。拷問だ」

「ははは、またその内な。()はいいよ」

 と、ニヤリと笑った総団長。

 今はって言った? 今はって。

 怖い。怖い。逃げられない。

 涙目でドーンを見るが、ドーンは思いっくそ総団長を睨んでいた。

 こっちも怖い。

「では、私はそろそろ…」

 これ以上は長居は出来ない。早々に退出しよう。うん、そうしよう。

 そろっと、立ち上がり業務を続けている皆さんへ挨拶して帰る。

「またな」

「あはは、はい」

 長い王城の廊下をドーンと歩く。さっきからドーンは無言だ。私も何も話す気力がなかったので、第七まで黙ったまま帰った。