授与式の後の慰労会はあれよあれよと言う間に終わってしまった。はっきり言って全く覚えていない。挨拶をした人が多過ぎて、誰が誰だかわからない状態だ。ちょっと熱出しそうだ。しかも、上位の方達ばかりだったので、全然飲めなかった。楽しみにしてたのに… 王城のお酒。ぐすん。


「おはようございます」

 寮の部屋のドアを開けるとお迎えが居た。

「びっくりした~。あっ、おはようございます。ドーン参謀」

 しまった。副団長なんだった。ちらっと、ドーン様を盗み見るとニコニコ笑顔。セーフ。

「団長殿、ドーン副団長ですよ。早急に慣れて頂かないといけません」

「は、はい。すみません」

「呼びにくいならドーンと呼んで下さい」

 いやいや、そっちの方がハードル高くない?

「いえ、それは… では副団長とお呼びします」

「ははは。ま~いいでしょう。敬語も不要です。いいですね?」

「あっ、はい。でも慣れるまでは勘弁して下さい。追々って事で」

 朝一から心臓に悪い。

 私は今日から職場復帰する。授与式から五日の間に、第二騎士団から第七騎士団の寮へ引越し、家族にも会って来た。

 (ラモン)の家族は気さくな感じだった。バーン子爵一家は王都のタウンハウスに両親と兄夫婦で暮らしている。姉はすでにお嫁に行っていた。治める土地もない、城の事務などをする官僚一家だ。そんな中、(ラモン)だけが騎士団に入った変わり者だそうだ。元々の性格が大人しかったそうなので、明るくと言うかよく喋る様になったと喜んでいた。特に中身が変わったのには気づいていないみたい。何でも、この子(ラモン)は騎士団に入団してから、忙しいと言う理由で実家に二回程しか顔を出さなかったそうだから。昇格については異例過ぎて両親も困惑していたが、とにかく誠心誠意がんばれと言われただけだった。

 って事で、今日は第七騎士団初日だ。

 団長の執務室へ向かいながら副団長と今日のスケジュールを確認する。

「本日は第七の全員を呼び出しています。挨拶をお願いしますね」

「いきなりですか? わかりました。今後ですが、私はどうすればいいんでしょう? なんせ中位騎士だったものですから… 上層部の仕事内容がわからなくて… 団長って何するんですかね?」

「そうですねぇ。団の事は団長が全てを決められます。基本自由です」

「ん? でもそれでは仕事にならないのでは?」

「あ~、割り振られた仕事はしなくてはいけませんよ。何て言うんでしょうか、仕事の仕方や騎士達の編成など、団内部の事は団長が決めていいんですよ。しかも、この第七は団長がコロコロ変わりますからね… 現状統率は取れていないでしょうし、良く言えば真っ白な状態なので団長のお好きな様に作り変えられますよ」

 …

 癖があるとは噂になっていたけど、団長がコロコロ変わるって。

「もしかしてですけど、今回の異例な昇格と人事は第七だから?」

「ふふふ。どうでしょう。しかし、私が居るのでラモン団長はそうそう辞める事はないでしょう。ご安心を」

 いや、安心をって。

「いっその事、ドーン様が団長をされた方が良いのでは?」

「ははは、それは思いつきでも口にされない方が賢明ですよ。王命ですからね。団長だけは陛下が決めますので。それに私、実は以前より引退をお願いしていたのですよ。でも、いつも躱されて… 業を煮やした私に陛下が最後に頼むと、今回の人事を采配したんです。だから私の今回の人事も異例で王命なんです」

「え? 引退ですか? ちょっと早くないですか?」

「これでも私はもうすぐ四十五です。騎士団は体力が一番ですからね。もう歳って事ですよ。一番下の子供も成人しましたしね」

「お子さんが成人ですか! 見えませんね!」

「ふふふ、ありがとうございます。一番上は領主代行をしていますし。いい加減世代交代です」

「いやいや、四〇代なんてまだまだ現役バリバリですって。後十年はお願いします! 辞められると私が泣きます」

「ははは。私も今回の人事は面白くて、辞めたい決意がどこかへ飛んで行きました。ラモン団長と組めた事はちょっとした楽しみなんです」

 はははと和やかになった私達が団長室に着くと三名の騎士が休めの体制で立っていた。

「あっと…」

 副団長をチラッと見るがニコニコするだけで私の出方を待っている。

 う~。

「おはよう。この度第七騎士団長に就任したラモン・バーンです。よろしく」

 無言。誰も話さない。き、気まずい。

 正面に立ち三人を見る。背のでっかいヤ●ザ風、顔が恐ろしく整っている冷たそうな短髪イケメン、ニヤッとしているこれまたイケメンのヤリ●ン風。

「団長、この者達は今までの第七のまとめ役です」

 副団長が口添えをしてくれた。

「そうですか」

 ふっと見ると、右端のニヤッとしているヤリ●ン風が肩を揺らして含み笑いをしている。

「ぷぷっ」

「え? 何? 何かついてる?」

 ん? 身だしなみは初日だから入念にチェックしたのになぁ。

「ぶはっ。はははははは。もうダメだ。ヤバい。ひ~」

 含み笑いから一転、爆笑しているヤリ●ン。

「トリス、止めろ」

 ギロッと睨んだ副団長の一声で笑い声が止む。

「えっと… トリス? 何がおかしいのかな?」

「はっ。ぷぷ。申し訳ございません」

 と、必死に笑いをこらえるトリス。

「いや、だから、何がそんなに面白いのか聞いてるんだけど?」

「すみません。団長の名前がおかしくて… 他意はありません。申し訳ございません」

「はぁ? 名前?」

「はい。だって… ぶはははは。ラモン・バーンって、ラ モンバーン… まんまじゃないですか! 門番って! あはははは」

 一気に顔が赤くなる。ゆでだこだよ!

 そんな事気がつかなかった。確かに第七は王都の城門係だけどさ。

 門番、もんばん、モンバーン…

「もう! 笑い過ぎ!!!」

「ははは。すみませんね。で、俺はクビですか? あはは」

「… そんな事でクビにはしません。もう言わない様に!」

「へ?」

 トリスと他の二人が目を丸くしてキョトンとしている。

「え? 名前ぐらいでクビにはしません。何驚いてるの?」

「いや、だって… 曲がりなりにも上官を笑い者にしましたので」

「あぁ… でもいいです。今回限り見逃します。次はないので」

「へぇ~」とヤ●ザ。「ほぉ」と冷徹イケメン。「ありがとうございます」とニコニコなトリス。

「ごほん。いいかな? 私は副団長のドーン・イングラッシュだ。本日一時間後に演習場で顔合わせをする。皆を集合させておけ。非番の者もな」

「「「はっ」」」

「あっ、あとの二人も名前を教えてくれる?」

「はい、俺はクルスです」とヤ●ザ。「私はアレクです」と冷徹イケメン。

 二人は大人な感じでそれだけ言うとさっさと退室した。

「団長ちゃん、また後でね~」

 と、ひらひらと手を振りながらトリスも続いて退出して行った。

「はぁ~。何となく団員達の色がわかりましたね? みんなあんな感じでしょうか?」

「恐らく… しかしあまり舐められるのは示しがつきませんから、今後はきちんと処罰はして下さいね。只でさえ、十九歳の女性って事で下に見る者がいると思いますから」

「あ~。ま~、それはしょうがないと言う事で。女性は辞められませんし、歳も早く成長する薬があるわけでもないですし。その都度対処していきましょう。多分面倒でしょうが、これもこの歳で団長になった私の仕事の内ですね」

「ほぉ~、仕事ととりますか。わかりました。団長の意思に添います」

「助かります。で、今思いついたのですが、副団長は慣れないと思いますが、今後は親しみやすい団長を目指したいと思います。歳を逆手にとって団員の心を掴みましょう。でも、締める所は締めないといけませんので、最後の最後は副団長にお願いしますね」

「ははは。了解しました。しかし、仲良しごっこでは騎士団は動かせませんよ?」

「手厳しいですね~。大丈夫です。ただただ馴れ合うつもりもありませんから」

「それならば良いでしょう。では、顔合わせまでに第七の仕事内容を説明します。その他は実際見て回りましょう」

「はい」

 それから副団長に第七のレクチャーを受けた。