「ははははは。これはいいな」

 ブンブン振り回して三〇分も対戦した総団長はご機嫌だった。ドーンも攻撃が効かないとは言え、顔が笑っている。楽しそうだ。

 結論を言うと、十手だけの総団長が圧勝で終わった。あのドーンもスナッチ副団長も武器と魔法を駆使したが、総団長の前では傷一つつけられなかった。

「つ、強い。てか、強すぎじゃない? どこ目指してるの?」

 ぼそっと呟いた私の言葉にアレクが続く。

「アレはただの戦闘狂だ」

 アレクは私に答える感じではなく、前を見てぼそっと呟いた。目が、目がちょっと憎しみがこもっている。

 お~い、アレクさんや。大丈夫?

 私がボ~ッとアレクを見ていたら、総団長達は引き上げて来ていた。対面の向こうの方で観戦していた騎士達は大はしゃぎだ。ギャーギャーうるさい。

「十手、使い勝手がいいな。盾にもなるし鈍器にもなる。スバル、私の分も用意してくれ」

「わかりました」

 総団長は軽くジャケットを羽織って身支度を整えると私に手を差し伸べる。

「では、ラモン。行こうか?」

 え? この手を取るの? 本気? ドーンを見るとうんと頷いている。

「えっと~、ありがとうございます?」

 総団長のエスコートで私も立ち上がる。

「この人数じゃ、第七の団長室は狭いだろう。第一まで来てくれるか?」

「はい、了解しました。アレクかトリス? 団長室に今日は就業まで帰らないから各自で上がってって言っといて?」

 アレクが手を挙げて了承する。しかし、ここでスナッチ副団長に止められてしまった。

「ラモン団長、その格好で来るつもりか?」

 私は自分の姿を上から下まで確認する。平騎士と同じ制服に団長の腕章。軽装すぎかな? でも制服だよ? 一応。

「え? ダメでしょうか」

「は? 訓練着だろう?」

 訓練着ではないけど… うわ~。そうなの? ダメなの?

「すみません。私は常にこの格好でして。執務もこれでしてます。団長服に着替えるとなると少々時間がかかってしまいます」

「え?」

 目が点になったスナッチ副団長。ははは、すみません。服に無頓着で。

「なぁスナッチ、服なんてどうでもいいじゃないか」

 総団長的には別にこれでいいらしい。セーフ。

「ダメです。第一の団長室は王城内にあります。せめて清潔な服でお願いします。先程の演習で汚れてしまっているでしょう?」

「あぁ。はい。替えでいいなら直ぐに着替えます。でも先に行ってて下さい」

「まぁ、いいだろう。三〇分以内にお願いする」

「了解です」

 こうして総団長達御一行とは演習場で一旦解散した。


「ドーン、王城っどんな所? 私がウロウロしても大丈夫?」

「そんな構えるほどの所でもないですよ。ちょっと高級品に囲まれているだけです」

 高級品。それが私にはハードル高いんだよ。

「じゃぁ、ちょっと見張ってて。ささっと『洗浄』をかけてしまうし。てかドーンは汚れてないんだね。不思議」

「あぁ、風魔法で周囲に膜を張ってましたので、そのせいかと」

「総団長も、スナッチ副団長も。あれだけ動いたのに汗かかないとか同じ人間なの?」

 私は小言を言いながら演習場の着替え室で魔法を使う。

「よし、行こっか」


 コンコンコン。ドーンが入室の掛け声をかける。

「失礼します。第七騎士団団長ラモンが参りました」

「どうぞ」

 と、ドアを開けてくれたのは何と! 侍女ちゃん! めっちゃかわいい。

 あまりのかわいさにポッと頬が熱くなる。

 唇プルプル~、髪も銀髪でおしゃれ~、なんかいい匂いするし。

 私は思わず自分の匂いを嗅いで臭くないか確認してしまった。

「ごほん」

 ドーンが呆れて咳払いをする。いけない、今第一に来てるんだった。

「総団長、お待たせしました」

「いや、いいんだ。そこに座ってくれ」

 総団長室はめっちゃ広い。

 入ってすぐの応接セットの後ろにはババ~ンと団長の執務机。その机の左右に六セットづつ、これも中々大きい机と壁にびっしりある本棚が、応接セットを挟む感じで配置されている。

 すげ~! あのソファー、長いやつ。私なら十人ぐらい座れるんじゃない?

「では、失礼します」

 うわ~、ふっかふか~。

「あぁ。お茶を」

 総団長がそう言うと扉前に控えていた執事? みたいなお爺さんとさっきの侍女、もう一人の侍女がテーブルにセッティングをし始めた。美味しそうなお菓子まである。

 うわ~、豪華~。あれ食べてもいいのかな?

「ま、飲んでくれ。早速だが、色々報告書を見た。これは全部ラモンの考えか? それとも何かの文献からか?」

「私の考えをドーンが形にしてくれました、文献は見ていません。第七の過去の収支報告書は目を通しました」

「そうか… 先程の十手だが、騎士団に広めようと思う。まずは城下街警備の第二と王城警備の第三だ」

 そうだね、警備系なら十手は活躍しそうだね。

「いいと思います」

「ほぉ? 反対しないのか? 第七の独占ではないと?」

「はい。別に独占するつもりは始めからありませんから。それに、設計図の特許なら新しい武器だったので既にドーンが手配済みですし」

「ふ~ん。欲が無いんだな?」

「え? ありますよ。総騎士団が十手を採用してくれれば販売個数も増えますからね。自ずと私の懐に幾らか入ります。めっちゃ助かります」

「ははは、助かります? その程度か?」

「はい、その程度です」

「そうか」

 総団長は何故か上機嫌だ。そんなに十手が欲しかったのか?

「よし。次だ」

「はい」

 こんな調子で、給与の算定方法、交代制の勤務体制、新人教育の仕方、平民騎士の底上げ方法、あとは難民対策についての見解を話し合った。

「まだ他にあるか?」

「まぁ、無くはないですが」

「それも団に関してか?」

「ん~、まぁそうですね。第七では始めてますが」

「言ってみろ」

 え~。でもこれって良いのか悪いのかわかんないんだよな。騎士の副業は違法ですとか言われたらどうしよう。

「副業の斡旋です」

「副業?」

「はい。今回の給与算定で減った者が多少居まして、その者達向けに団内の雑用を休日を使ってやってもらおうかと。何せ、人手不足ですから。余った時間で副業をしてもらってます」

「例えば?」

「簡単な手伝いです。武器を磨いたり、倉庫の掃除、料理人の手伝いとかです。一回三時間程度で三千Kです」

 ここで、後ろに立っていたスナッチ副団長が口を挟んで来た。

「貴族騎士もか?」

「はい。平等に同じ副業をしてもらってます。でも上位の方々はしてませんね。下位貴族のちょっと貧しい者達や平民騎士が多いです」

「そうか… それも平等に計算するのか。あとはあるか?」

「今は特には。難民問題がまだ片付いていませんし、商業ギルドともちょっと話し合いがあると思います。問題がまだ残っています」

「わかった。では、本題に入ろうか?」

 え? まだ本題じゃないの? 私、めっちゃ色々話したけど?