「寒っ」

 秋の夜はグッと気温が下がる。近頃は息も少し白くなってきている。今年の冬は早いのかな? 私は外套をすっぽり被って集合場所に到着すると一番だった。

「早いな」

 次にアレク。最後にドーンがすぐにやって来た。

「時間です。行きましょうか」

 現在、各門は交代の一時間前で、今日の終わりの点検や日誌を書いたりと門番達は執務室でガヤガヤしている。この転移の魔法陣がある場所はちょうど手薄になっていた。

 三人で西門へ飛び、こそっと門を抜け北側へ進む。

 少し歩いた場所に小さな火が灯っていた。暖を取る焚き火かな? 難民達は重なるように団子になって固まっていた。これは好都合だ。

「ドーン、アレク、ちょうどいい感じに集まってるし『洗浄』をかけてしまうわね」

 うんと頷く二人。

「洗浄」

 魔法がかけられた難民達の周辺がほんのり光る。すると、皆立ち上がってしまった。

 自分の手が、隣人の顔がみるみるキレイになっていく。髪もサラサラになり本来の色が顔を出す。

「な、何だ?」
「どう言う…」
「お、お母さ~ん」
「まぁ! 髪が!」
「”#$%& 女神様、お助け下さい、お助け下さい ”#$%」

 難民の一人がこちらに気が付いたようだ。指差して何かを言っている。

 ドーンがすかさず難民の元へ走って静かに話し出す。

「我々は騎士団の者だ。そなた等を助けに来た。今かけた魔法は身体をキレイにする魔法だ。まずは傷や病気を治したい。そのまま騒がずジッとしていろ。今からポーションを配るので全員飲むように」

 少しどよめきはしたが、ポーションの言葉に難民達は黙った。

 ドーンは、箱に詰まったいくつもの小さなポーションを順番に飲ませていく。私はその間に難民達のテントや荷物にも『洗浄』の魔法をかけて回った。アレクは他に人が居ないか周囲を巡回しに行った。

「何をしている?」

 西門の方向から二人組の騎士がいつの間にかやって来ていた。

 しまった。魔法の光が見えてしまった?

『どうする?』
『私が対応します。団長は口元を布で隠して下さい』

 そう言うと、ドーンはその騎士達の方へ向かって行った。

 しばらくしてドーンとその騎士達は、次は連れ立ってこちらへやって来る。

 ん?

「団長。こやつらにも手伝ってもらいましょう」

「ん? 誰?」

 フードを取ったのはクルスとトリスだった。

「何してんの! え? 後つけて来た?」

「あぁ、俺は後をつけてきた。こいつ、トリスはたまたま西門の応援に来ていて交代する所だったんだ」

「何で? バレないようにしたのに…」

「すまん。どうしても気になってしまって」

「ん~、まぁ、いいけど」

 と、話していると、見回っていたアレクが帰って来た。びっくりして口が開いている。

「後をつけて来たんだって」

「… そうか」

 アレクはそれだけ言って、ポーションを回す手伝いを始めた。

「で? 俺らはどうすればいい?」

「そうねぇ。ドーンに私達が何をしているか聞いたでしょ? まだ、難民達の健康状態がわからないから、ポーションを回し終えたら歩けるかどうか確認して欲しい」

「分かった」「了解」

 二人はアレクの元へ向かう。

「ドーン、さっきの魔法見てなかったって?」

「はい。光を遠目で確認しただけだそうです。焚き火があるので火魔法とでも思っているのではないでしょうか」

「そっ。それならよかったぁ。ふ~、焦ったわ」

「えぇ。では、我々も手伝いましょう。夜はまだ始まったばかりです」

「そうね」

 こうして思わぬ仲間が加わり、元気になった難民達を説得して、東門を目指す。

 西門と南門前は通れないので、ドーンや私、アレクが護衛をしながら難民達と闇の中、少し外れた所を静かに移動した。歩けない年寄りが二人いたので、トリスとクルスがおんぶして運んだ。幸い、門番達に見つかる事もなく魔獣も出なかった。ふぅ。

「みんながんばったわね。ここならすぐには見つからないと思うの」

 子供達の頭をなでながら労を労う。子供達は文句も言わず、泣き言も言わず一晩中歩いたのだ。

 本能でわかったのかしら? 生きる為に歩いているって。

「もうすぐ朝が来るわ。少しだけど後で食糧を運ぶから、また明日の午後に来るわね」

「おい、騎士様達。何でこんなに良くしてくれるんだ? 俺達をどうする気だ?」

 片腕がない小柄な男が勇気を出して声を上げる。恐らくまとめ役なんだろう。難民達はその男の後ろにみんなで固まっている。

「それは、また明日話すわ。あなた達も疲れたでしょう? 少し眠りなさい。テントも荷物も全部キレイにしておいたから。ところであなた、名前は?」

「ケビン」

「私はラモンよ。万が一、ここの門番に見つかったら私の名前を言いなさい」

「わ、わかった。… 色々すまねぇ」

「いいのよ」

 私達は、またこっそり東門の移転の魔法陣まで移動する。

 北門へ帰った頃には朝日が登った後だった。

「アレク、クルス、トリス。今日はありがとう。ドーンもね」

「あぁ… クルスとトリスには俺から詳しい事情を説明しておく。アレは言わないから安心しろ」

「ふふ、アレクを信じてるから! お願いね」

 三人と別れた後、私はドーンと団長室へ一旦戻る。

「はぁぁぁ。スムーズに行ってよかったわ」

「峠は越えましたな。あと一ヶ月で形になる様に持って行きましょう。あと、難民達への差し入れは私が持って行きます。団長は今日は丸一日お休み下さい。調整はしてありますのでご安心を」

「でも… ドーンは帰らないの?」

「ははっ。二、三日眠らなくとも大丈夫です。そう言う類の訓練を受けておりますので。歳とは言え、そのぐらいは問題ありません。それより、団長が倒れては第七が困ります。ゆっくりなさって下さい」

「ごめんね。いつもありがとう」

 私は眠さが限界に来ていたので甘える事にした。

 ふわぁ~。

 朝日が眩しい。でも、私は自室のベットに倒れ込むと一瞬で夢の中に落ちた。

 お休みなさい。