「ラモンちゃん、おはよう。じゃぁ行こっか?」

 西門前に立っていた私の前に、豪華な白の馬車が停まる。小窓が空きユーグさんが声をかけてきた。

「はい。よろしくお願いします」

 緊張しながら馬車に乗り込んで向かいに座る。

「し、失礼します」

 ん~!!! 椅子がフッカフカ~! うれしくてついポヨンポヨンしていたらユーグさんに笑われた。

「ラモンちゃん、はしゃぐ気持ちはわかるけどきちんと座りなさい。で? その格好の意図は?」

 ユーグさんは薄いベージュを基調とした上品なダブルのスーツ。対する私はこないだ仕立てたばかりの団長服。

「いや~。私の中で一番高級な服を着てきました。今日、連れて行って下さる所でユーグさんが恥じない様に… ダメでしたか?」

「そう… まぁ、ダメじゃないけど。休みの日まで制服って。あなたいつもどんな格好してるの?」

「どんなって。団長服は今日初めて着ました。いつもは隊服に団長の腕章だけです。こんな豪華な制服、汚すといけないので。あとは部屋着? 簡易なワンピースか、シャツとズボン? でしょうか」

「そう… 普段から無頓着なのね。そう、よ~くわかったわ」

「へ?」

「あのね、あなた華も恥じらう十九歳よね? 早い子なら婚約や結婚をしている歳よ? 彼氏の一人もいないでしょう、どうせ。今日は私が徹底的に叩き込んであげるわ。世間の十九の乙女の仕様を」

 どうせって。そうだけどさぁ。

「お手柔らかにお願いします」

「よし」

 西門を出発して王城の方向へ進む。どこもキレイに舗装されており馬車の乗り心地は最高だ。私達は貴族街の商店が立ち並ぶ区域に着いた。

「ここよ」

 馬車を降りて店の正面に降り立つ。デ、デカい。てか上位貴族のお屋敷みたい。これが商会?

「すごいですね」

「ふふふ、ここは服飾専門のお店よ」

「服の専門店ですか? へぇ~」

 と、呆気に取られているとユーグさんがエスコートしてくれる。

「その服じゃ、様にならないけど一応あなたはレディだから。行くわよ」

「あ、はい」

 おずおずとユーグさんに手をかけお店に入る。

 玄関も広くて本当にお屋敷のようだ。案内人に二階の個室へ通されると、笑顔の女性が迎え入れてくれる。

「ようこそ、ユーグナー様。本日はご指名ありがとうございます」

「いいのよ。それより無理やり割り込んでごめんなさいね。この娘が新年パーティーのドレスが無いって言うから連れて来たのよ」

「ん? お連れ様のですか? 護衛の方ではないのですか?」

「ふふふ。護衛じゃ無いわよ。この娘をよく見てクリスタル」

 ん? とクリスタルさんが私を上から下まで観察する。

「まぁ! 騎士団長様? このお歳で? しかも女性ですか!」

「そうよ、ビックリでしょう? でね、この娘、ちょっとオシャレに鈍感で」

「なるほどそうですか。それでユーグナー様もご一緒に来られたのですね。承知致しました。では、早速こちらへ、お嬢様の事は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」

 言われるがままボ~ッと立っていた私は我に帰る。

「はい、ラモン・バーンです。よろしくお願いします」

「ラモン様ですね。こちらこそよろしくお願いしますわ」

 クリスタルさんの号令で、その他のお針子さん達がワラワラと私を連れ出し、採寸などを開始する。衝立の向こうでは、ユーグさんとクリスタルさんがデザインについて話し始めた。

「お嬢様? 団長様かしら。ふふ、素敵ですね。では制服を脱がせますね?」

「え? 自分でぬ、脱げます」

「ふふふ。大丈夫です。恥ずかしくないですよ」

 と、否応がなしに服が剥ぎ取られる。は、恥ずかしい。真っ赤になっている私に、お針子さん達はやんわり微笑んでくれる。優しい、優しい人達だ。

 下着姿で身体のありとあらゆる所を採寸される。終わったのは一時間後だった。

 上位のお嬢様ってみんなこんな事してるの? ぜぇぜぇ。結構しんどい。

「ご苦労様。こっちへいらっしゃい」

 再び団長服を着た私はユーグさんの隣へ座った。

「ユーグさん… すごいですね。採寸だけで死にそうです」

「ふふふ、面白いお嬢様ですね。では、こちらの中からデザインをお決めになって下さい。ユーグナー様のご意見を踏まえて、即興で書いたので少し見辛いかもしれませんが」

 クリスタルさんは三枚のデザイン画を見せてくれた。

 す、すごい。即興でこんだけのドレスを描くとは。さすが上位貴族御用達。

 どれも見た事のない素晴らしいデザインだ。てか、素晴らしすぎて私には合うのかな?

 う~んと悩んでいたらユーグさんがそれぞれを説明してくれる。

「まずこれはね、あなたの瞳の色とお揃いよ。このスカートの裾がキレイでしょう? これは団長らしく? シンプルながらスカートの広がりがいいでしょう? 生地も少し厚めでね。最後は、今流行りの型よ。スカート部分の刺繍を銀とかにすれば上品になるわよ?」

 正直どれでもいい。どれも着こなせる自信はないけど… お高そうだ。

「あ、あのぅ。クリスタルさん… 言い辛いのですが…」

「あら? お気に召しませんか? 何かご希望はありますか?」

「いえ… あまりこうゆう所に来た事がないので礼儀になっていないかもしれないんですが… その~。予算がですね…」

「あらあら。大丈夫ですよ。ご予算内で納めますので」

 私の懐事情を本当に分かってるんだろうか? お得意様とは違うのに…

 私が焦っているのが伝わったのかユーグさんは肩を撫でながら助言してくれる。

「ラモンちゃん、問題ないわ。ドーンからも言付かってるし。あなたが考えている範囲内よ」

 よかった~! そうだよね? 予算も分からないのにデザインなんて出来ないよね。ユーグさん、事前に聞いててくれてたんだ、ふ~。

「何から何までお世話になります」

「いいのよ。それよりあなたの希望はない? こんなモチーフがいいとかこんな宝石がいいとか?」

 それなら、一つだけある。団長だしね、それっぽいと思うんだ。

「一つだけ」

「あら? 何でしょう?」

 ユーグさんとクリスタルさんは、ちょい前のめりでウキウキと聞いてくれる。

「それはですね、太ももにダガー? と言うんですか? 短剣を仕込める様にして、スカートでもすぐに取り出せる様にして欲しいんです! 団長っぽくないですか? ね、かっこいいでしょ?」

 前世の小説で女スパイが仕込んでいたアレ。アレを是非してみたい!

 ワクワクな私とは正反対に、ユーグさんとクリスタルさんは一気に残念な顔になった。

 え? ダメ?