ケリーはさっきの事が無かったかの様に、テンションマックスでトリスに目を輝かせている。

「誰なの? ねぇラモン! 紹介してよぉ!」

「え~。やめときな… 他にイイ男はいっぱいいるって」

「酷いな~団長ちゃん。俺にもこの美女を紹介して欲しいんだけどぉ?」

「団長って! まさか、あんたの部下? 第七?」

「… そうです。側近のトリスです。トリス、こちらはケリー。第二の騎士よ」

 ふ~んと、あからさまにテンションが下がったケリーはミゲル先輩に話しかける。

「それより、さっきの男共、酷いんですけど。あんな不良債権」

「ご、ごめんよ~ケリー。まさかトーイを連れて行くとは思わなくて。デューイはイイ奴なんだ。何があったかは知らないけど、ケリーが投げ飛ばすぐらいだし… ごめんよ」

「いいです。これからラモンと飲み直しに行きますので。王城内のカフェランチで手を打ちます。では」

 あれ? ケリーさんよ~トリスはいいのかな? まっいっか。私も今日はプライベートだ。あんな状態のトリスとは絶対いたくない。

 じゃっ! と、別れようとしたらトリスがミゲル先輩の肩を組んで引きずりながらついて来た。

「ねぇ、ねぇ、団長ちゃん。俺も今日非番なんだ~。俺らもその飲み会混ぜてよ~」

「え~。ヤダ、他当たって」

 ねぇねぇ、とトリスは結局飲み屋までついて来てしまったので、しょうがなく合流する事になった。


「では、改めまして。今日の出会いにカンパ~イ!」

 唯一ご機嫌なトリスが音頭を取って異色な飲み会が始まった。

 ケリーはいつも私と飲む感じで酒のつまみを頼んでいる。ミゲル先輩はちょっと遠慮がちにちょこんと座っている。私は、開き直って最初の一杯を一気飲みした。

「ぷは~。うま~い! おかわり!」

「いい飲みっぷりだね~団長ちゃんってお酒好き?」

「ん? 人並みには?」

「ははは、ケリーちゃん? だっけ? さっきはキレイに決まってたね~見てて気持ちよかったよ」

「あぁ? はぁ。まぁ」

 ケリーはあんなにイケメンと騒いだのに塩対応だ。わかりやすい。

「え? え? 俺振られてる?」

「そうですね~。それより、そっちの組み合わせが気になるんですけど。仲良かったの?」

 ミゲル先輩は『ぶはっ』とエールを詰まらせた。

「あ~。正直に言うと、団長ちゃんの事? を聞いてたんだ」

 はぁ?

「なんで? 私、第五(ちょうほうぶ)の監査とか入ってるの?」

「違う違う。個人的にね。まずは周りから固めていこうかな~なんて」

「個人的? 何? 気持ち悪い」

「あはは、結構辛辣ぅ~」

 ケリーも半分ほどのエールを一気飲みして、ミゲル先輩に毒づく。

「それより、あのトーイ? とか言う奴、何なの? 偉そうに」

 ミゲル先輩はトリスを気にしながら答えている。

「だからごめんって。あいつね… 普段はそんなに悪い奴じゃないんだ。ただ、正直すぎる? んだよ。でも、女性を前にするとなぜか尊大な感じになってしまって… わかるだろう? だからあいつも今だにフリーだしな」

「うわ~、拗らせてんな。てか、あいつもって、()って何ですか! 一緒にされたくない~、てか二度と会いたくない」

「団長ちゃんは? もう一人いたよね男子?」

「私もどっちもいいや。今日の事は忘れる事にする。そもそもケリーに会いに来たんだし」

 ケリーはノリでイエ~イと私とエールをガシャンと打ち合う。

「てか、トリスさん? だっけ? ラモンの何が知りたいのぉ?」

「ん? そうだな~元彼とか? なんてね」

 トリスはウィンクしてケリーの話に乗っているが、あれは本気じゃないよね。多分。

 私はエールを飲むふりしてミゲル先輩をチラ見したが、目線が泳いでいる。怪しい。

「それより、ラモンは第七でどうですか? ちゃんとやれてます?」

「ん~。それはもちろん。団長ちゃんは第七のアイドル的存在かな。もう馴染んでるし、みんな団長ちゃんの事好きだよ」

「アイドルとか。ぷっ。何やったのよ~! あはは。でもそっか~良かった~。風の噂で、襲われたって聞いたからさ~」

 あ~。あの騎士の事か…。

「ケリーにまで届いてるの? 他(の団へ)も回ってるのかな~?」

「あぁ、私が心配であんたの情報を聞き回ってただけだから。そんな有名な話でもないよ。それよりそれって本当の事なの?」

「あぁ、うん。ちょっとね~、夜勤続きの苦労騎士で、ちょっとした行き違い? 今は解決したし大丈夫よ」

「ふ~ん… まっ内部事情は話せないか。あんたがいいならそれでいいよ」

「あはは、ありがとう。それより、ミゲル先輩大人しいですね? 珍しい」

「え? そう? てか、俺はそろそろ… 明日早番だし…」

 ミゲル先輩はトリスを気にしながら、早々に逃げようとしている。

「え~、もう帰っちゃうの? 先輩! 久しぶりじゃないですか! 飲みましょうよ~」

「そうですよ! 私的にはトリスとの関係が気になるんだけど~。私の就任祝って事で付き合って下さいよ~」

 ん~、と言いながらミゲル先輩は帰り支度を始めている。隙を見て絶対帰る気だ。


 それから何の話をする訳でもなく、新人時代や第二時代の思い出話に花が咲いた。いつの間にか、ミゲル先輩が帰り、ケリーも帰りと、トリスと私は二人になったので解散となった。


「は~、団長ちゃんってイケる口だったんだね?」

 トリスとふらふらしながら帰る。

「そうかな? 普通じゃない? それよりミゲル先輩の事、話せない?」

「ん~。ごめん。こっちも色々あってさ」

 …

「わかった。トリスってチャラいけど仕事はきちんとするしね。信じるよ」

「ん」

「てかさぁ、あの苦労騎士って結局どうなったの? ドーンは言葉濁してさ。『謹慎処分です』で終わったんだ。ちょっとドーンのオーラが、それ以上聞ける雰囲気じゃなくて」

「あぁ、あいつね。あいつは男爵家の長男でさ、団長ちゃんもわかると思うけど、あんまり裕福じゃなくてさ。父親はいないし母親が病気がちで… いつも夜勤を連続してやって稼いで、昼は母親の面倒見てって。たまに他のやつの代わりにさらに夜勤に入ったりしてな。母親のポーション代がバカにならないらしい。それでさ、あの給与の変更だろ? 思い詰めてしまったんじゃないかな?」

「そっか… 顔色、超悪かったもんね。ポーション代か… 高いって事は結構重い病気なんだね」

「そうだろうな。母一人子一人だからな。がんばりすぎた糸がプツッと切れちまったんだな」

 …

 面接ではそんな事一言も言わなかったのに。上官を信じられなかったのか、過去頼ったけどダメで諦めてたのか。今はもうわからないけど。

「謹慎っていつまで?」

「四十五日。もう直ぐ出てくると思う。副団長も団長ちゃんを気遣ったんだろ? その… 大丈夫か?」

「ん? うん。理由を聞けば納得よ。何かいいアイデアがあればいいんだけど… 特別待遇も出来ないしね」

「いや、謹慎だけじゃ普通軽すぎない? 更に懲罰とか?」

「え? 何で? もう謹慎処分になってるんでしょ? 十分でしょ」

「へぇ~。そっか。それならいいんだ」

 トリスは優しい笑顔で私の頭を撫でる。

 月夜に秋の夜風が酔っ払いには心地いい。鼻歌を歌いながらトリスと寮まで帰った。