「どこでもいいから座れ」

 ドーンが大きな声で呼びかけた。今日は第七の全員を呼んで新体制の説明会だ。

 食堂にぎっしり詰め込まれた騎士達。みんなガヤガヤと私の話を待っている。

「ごほん。みんな静かにしてくれる? 今日は集まってくれてありがとう。現在、門番をしている者は後から説明するわね。料理担当の方達もこちらへ来て聞いて欲しいんだけど」

 料理人のお爺ちゃん達も私が見える場所へ移動してもらった。

「まず、勤務体制について話します。よく聞いて下さい。皆を四部隊に分けます。それぞれ二〇名です。新人、入隊一年以内の十二名はこの部隊には厳密には入れません。では、今から言う者は前に出て来て下さい」

 ガヤガヤと騒がしくなった。

「静まれ!」

 ドーンの一声でまたもや静かになる一同。

「アレク、クルス、トリス、コリーナ、テッセン、リックマイヤー」

 呼ばれた者達が私達の横に整列する。

「この者達は私の側近になります。先程の四部隊に含まれません」

「おいおい、俺達は? 除け者か?」

 誰かがヤジを飛ばした。

「ここにいるのは特に能力がある者を選出しました。先日面接したでしょう? 他の皆さんは各門の守衛ですよ、今まで通りです。しかし、勤務時間や交代周期を変更しています」

 ガヤガヤとまた騒がしくなる。収まりつくかな? どうしよう。しょうがない、一丁やりますか。

「静かに! 静かに! お前らぁ! 全部の説明を聞いてから文句を言え! まずは聞け!!!」

 私は大声でお上品とは言えない口調で怒鳴った。まぁ、静かになったからいいか。

「ごほん。勤務時間ですが八時間の四交代です。各部隊でさらに四つに分け、三日勤務したら午前は休みで午後は鍛錬です。例えば、Aが朝六時から二時まで、Bは二時から十時まで、Cは十時から翌朝六時までの夜勤です。Dはその日は休みです。翌日は、Dが朝六時から、Aは二時から、Bは十時から、Cは休みとなります。ここまでいいですね?」

 誰も文句がない。じっと話を聞いている。

「それを各部隊で実施してもらいます。東西南北、四の門があるので、四部隊は各門へ行って下さい。但し、今月は北門なら翌月は東門、次は南門と言う風に、担当する門を固定しません。まぁ、これには訳がありますが。心当たりがある者がいるでしょう?」

 ちょっとだけ肩をビクッとさせた者や、目線を下げた者がいた。やっぱりね。

「勤務時間と勤務地をコロコロ変えるのは、商人との癒着をなくす為です。今後、発覚した場合は除隊処分にします」

「除隊?」
「いきなりか!」

「そうです。除隊です。そんな騎士はうちには必要ありません。わかりましたね?」

 しーん。

「恐らくですが、その者達は進んで悪事に手を染めたとは考えにくい… 私はそう願います。ですので給与も変更しました」

 私はドーンと用意した基本給が書かれた紙を貼り出す。食堂の後ろの方にも見えるように大きな紙に書いた。

「これを見て下さい。給与の算出方法です。読み上げますね」

 みんな紙を凝視している。

「新人:基本給二〇万K、
第一等級:二三万K、
第二等級:二六万K、
第三等級:二九万K、
第四等級:三二万K、
第五等級(以上はない):三五万Kから能力に応じて」

「はい! 貴族階級の考慮はないのでしょうか?」

 ん? 貴族の人かな?

「ありません。皆同じ仕事内容なんです。身分は関係ありません」

 貴族騎士達は一斉に凍りついた。

「しかし、貴族階級の人達は元々第二等級以上が多いでしょう? それに比べて平民騎士は一から三に多い。何ら問題はないと思いますが?」

「し、しかし… いや、でも… はい」

「後これに、色々な手当が毎月付きます。まず全員が取れる手当が皆勤手当です。その月、一日も休まず遅刻せず勤務した者に三千K加算されます。
 次に役職手当です。部隊長、側近、副団長、団長などです。あとは、婚姻手当や子供手当などもあります。
 詳細は紙に書いていますので、後で確認して下さい。この紙は常に食堂に張り出しておきますので、いつでも確認出来ます」

「ほい、いいか? 団長さんよ?」

 ちょい悪風のオヤジが爪楊枝を噛みながら手を挙げる。

「どうぞ」

「俺はちなみに給与はどれだけになるんだ?」

「名前は?」

「グレコだ」

 グレコ、グレコ…

「グレコ、第三等級騎士。基本給:二九万K、皆勤三千K、部隊長一万K、結婚五千K、子供二人で六千K… 合計三一万四千Kです。あとは夜勤がある月、先程の勤務時間Cですね、その日かける千Kが支払われます。だいたいですが三二万K前後です」

「へ? そんなに?」

 グレコは睨んでいた顔が一転、気が抜けたようにぼてっと椅子に尻餅をついて座ってしまった。

「これは当然の給与です。ですので、給与に見合った仕事をきっちりお願いしますね」

 みんなの目はさっきとは打って変わって輝いている。自分の給与はどのくらいかと計算し始めた。

「ドーン、しばらく待とう。みんな喜んでくれて嬉しい、がんばった甲斐があったね」

「そうですな」

 私とドーンはニコニコしながらみんなを見る。チラホラと眉間に皺を寄せている者がいるけど…