ニヤッとしたドーンは大きく剣を一振りすると、三人にこいこいと手で合図した。

 わざと挑発してる?

 ドーンと対面する三人は目配せし一斉に飛び出した。

 トリスが思いっきり十手を投げつける、ドーンがそれを薙ぎ払い剣先が下に落ちる。と、両サイドからクルスとアレクが同時に十手を振りかぶった。

 え~あれ! 思いっきり振りかぶってない? いくら何でも当たったら致命傷になるんじゃぁ…

 思わず握ってしまった自分の両手に力が入る。

「あっ! 当たる! 危ない!」

 さっ、ガリ。

 クルスを避けアレクの十手を剣で抑える。そのままアレクを突き飛ばし、返した剣でクルスの脇に寸止め。そのまま流れるようにクルッと周り、アレクの背中を寸止め。

 すごっ。

 ドーンすごっ! え~! めっちゃかっこいい! すごいよドーン!

「ね? 大丈夫だったでしょう?」

 スバルさんはの両手を腰の後ろに組んで、のほほんとその様子を見ていた。

「第一って騎士のトップですが… 今まで誤解をしていました。それぞれ色々な分野に特化してる集団だと思っていたのですが、腕も確かだったんですね」

「まぁ、それはそうですよ。別に頭脳明晰な者は他にもいます。まぁ、ドーン程の逸材は限られますが、曲がりなりにも騎士ですよ? それに総騎士団の看板を背負っているんです。何も総団長だけが強いわけではありません」

「え? では、スバルさんも剣技が凄いんでしょうか? あっ、失礼しました」

「あはは、いいですよ。面と向かって言われるのって新鮮ですね。そうですね、一応は第一ですので、それなりに」

 え~、スバルさん、数字が強くて剣もすごいって。さすが第一。ちょっとだけ見直しました。はい。

「へぇ。私も含めて誤解している平騎士は多いと思いますよ? なぜ広めないんですか?」

「広める必要がないからです。騎士団の中で強い強くないは、戦争では必要ですが、上層部では求められる事ではありません。私達はある種専門職ですからね。まぁ、強いイコール団長という図式を壊したくないのもあります。我々が団長各位と同格、またはそれ以上の剣技だと分かると、各騎士団達の覇気が低くなるでしょう? やっぱり自分の団の団長は誇れる者でないと。いかんせん、ここは騎士団です。脳筋が多いのでしょうがないですね」

 いや~、まぁ、そうだけど。それ言っちゃうと私って、なんちゃって上位騎士。元々は中位騎士の実力だから肩身が狭いな。

 しょんぼりしている私にドーンが近づいてくる。

「いかがでしたか? 十手の有効性は証明出来ましたかな?」

「ははは、ドーン、強すぎです。ちょっと検証には向いてませんね」

「そうですか、残念です。おい! お前達、三人で打ち合いしていろ! ん? どうされました? 体調でも悪くなりましたか?」

 しょんぼりしていたのが顔に出てたかな? ドーンは指示を出す傍ら、私を心配してくれる。

「ん? 何でもないです。ドーンの強さに引いてた所です」

「引くって… しかしいい運動になりました。少々鈍ってしまったようで、歳ですなぁ」

「いやいや、あれで歳とか… 私は団長として隊員に顔向け出来ないよ」

 そんな私の弱音を聞いたドーンは汗を拭きながら急に笑い出した。

「ははははは。団長はそのままでよろしいですよ。何も強さが団長の証明ではありません。あなたはあなたの良さがあります。そこは他の団長に引けを取りません! むしろ騎士団一の団長です」

 ははは、言い過ぎでしょ。第一って自分が強いからあまり強さにこだわりがないんだろうか?

「やっぱり強いに越した事はないじゃない? 今度鍛錬に付き合って。むしろ指導して下さい」

「まぁ、いいでしょう。しかし、そんなに強くならなくてもいいですよ? 私が命に変えてお守り致しますので」

 キラ~ンと汗と爽やかスマイル。い、イケオジ!!! 鼻血出そう。

「な、何言ってるの! 私は曲がりなりにも団長なんだから!」

「ははは、そうですなぁ」

 スバルさんも一緒に笑っている。子供扱い? いや、可愛い孫を温かい目で見守ってる感がすんごいする。

「もう、いい。さぁ、検証よ! アレク達の所へ」

 私は恥ずかしくなった顔を隠すように、早足にアレク達の所へ向かって誤魔化す。

 はぁ、赤面の嵐だよ。最近ドーンは紳士? いやキザ? ちょっとドギマギするような事を平気で言うようになった。距離が近くなったのはいいけど、時々どうしていいかわからなくなる。

「団長ちゃん!」

 こっちこっちとトリスが手を振っている。

「どう? 十手を上手く使いこなせそう?」

「さっきの見てた? オヤジ殿、ヤバくない?」

「トリス。そのオヤジ殿ってやめなさい? 副団長でしょ? さっきのでわかったでしょ? 本当にドーンはヤバいんだから、舐めてかかると怪我するわよ」

「ぷぷぷ。団長ちゃんまでヤバって。まぁそうだけどね。今度、稽古つけて欲しいな~。団長ちゃんからもお願いしてよ」

「そうね… ドーンの稽古は隊員達にはいいかも」

「そう来なくっちゃ!」

 珍しくクルスもこっちを見て私達の話に頷いている。

 そっか、みんなやっぱり強い人には憧れるか。

「んで? どう十手は?」

「あぁ、この鉤の位置をもう少し上にした方がいいな。斜めに剣を受けたら手に当たりそうになった」

 アレクは真面目に検証結果を報告してくれる。

「俺はこの紐を細い鎖にしたい」

 クルスは紐か。

「理由は?」

「こうして後ろを取った時に、鎖で首を絞められる。普段は二重にするなりベルトに掛けていてもいいな。落下防止だ。長さはもう少し短くてもいい」

 ふむふむ。鎖で首を絞めるか。

「クルスが思い付いたの? 了解」

「俺はやっぱりいらないや。この紐? 鎖にするんだっけ?」

「要らないなら要らないでいいよ。これは各自の判断に任せるわ。それぞれ戦闘形式が違うでしょうから」

「ん? そうなの? ふ~ん」

 三人は気安くあれこれと言ってくれる。ありがたい。初対面の時なんて、全員結構ぶっきらぼうだったのに。

「どうですか、団長?」

「うん、改良は必要ね。でも概ねこれで行けそうよ。みんなはどう? 今後、団の武器として採用してもいいと思う?」

「いいんじゃないか?」
「いいと思う」
「OK」

 よっしゃ~! これで十手問題がクリアしそうだよ。