今日はドーンと城下街へ来ている。鍛冶屋さんだ。

 カンカンと鋼を打つ音があちこちで響いている。

「おすすめの鍛冶屋さんってココ?」

「はい」

 ドーンが紹介してくれた割には、建物が… なんかボロい。鍛冶屋街の奥にある小さなお店だった。

「ドーンの紹介だから疑うわけじゃないけど… 安けりゃ良いもんでもないよ?」

「ははは。小汚い感じですが、腕は確かです」

 そうなの? 私はドーンに続いて店に入る。

「小汚くて悪かったな」

 第一声がめちゃくちゃ機嫌悪そうだよ。ギロッと睨んだ店主が、肩にかけた手ぬぐいで顔を拭いている。

「聞かれてしまったか、いや~すまん」

 ドーンは不機嫌な店主を余所に店の奥へ進んで行く。

 ちょっ。待って。

「で? 今日はどんな用だ? ん? この娘は?」

「こちらは第七騎士団長のラモン殿。この度、異動があってな。今、私はこの方の下に着いている」

 店主はニヤッと笑って、ドーンに食いつく。

「ははは、第七か? 下と言うと、副団長か? 何やらかしたんだか、左遷ってわけだ、ははは」

 ん~! めっちゃ失礼! 何このおっさん。

「左遷ではないよ。今に分かるさ。それより今日は作って欲しい物があってな」

 下町の店主と仲良さそう? 気さくな感じのドーン。謎だ。

 う~んと私が唸っていると、店主が声をかけてきた。

「お嬢ちゃん、こいつとは身分差はあるが騎士学校時代の同級生なんだ。びっくりしただろう? お貴族様がこんな小汚い(・・・)店に出入りするなんてよ」

 小汚いて言った事ちょっと根に持ってる? ふふふ。

「いえ。今日はよろしく願いします」

「あぁ。まぁ、何だ、座ってくれや。俺はノックスだ。で?」

 私はあらかじめ絵に描いておいた十手の設計図を見せる。

「ほぉ~、変わった形だな。全部鉄か?」

「はい。鉄と言うよりは、剣などの素材の再利用です」

「合金か… ミスリルとかも?」

「どうでしょう? 今ある使わなくなった剣を集める予定ですから」

「ふ~ん。素材はそっちが用意するんだな?」

「はい。ノックスさんには製作だけをお願いしたくて。出来そうですか?」

 設計図をじっと見ながらノックスさんは黙っている。

「まずは試作品を作って欲しいんだ」

 ドーンが騎士団から持って来た折れたり錆びた剣を数本渡す。

 第七の倉庫を見たら、十本ほど使い古した剣が見つかったんだよね。

「わかった。この部分は丸くて良いんだな? 鈍器? になるのか?」

「そうです。全体的に棒円状で持ち手部分上に鉤を作って下さい。この鉤部分で剣を受けたりしますので、ここは強化して下さい。あとは持ち手のお尻部分に紐を通せる穴をお願いします」

「ん。で? 何本必要だ? 今日持ってきた素材なら… 五本ぐらい出来るぞ?」

 五本も? あぁ、剣よりサイズが小さいからだね。

「それでお願いします。いつ頃出来そうですか? ちなみに製作費はいかほどでしょう?」

「そうだな~、素材費がない分安く出来るぞ。一本四千Kぐらいか」

 四千K。安い。だいたい前世と同じ感じの貨幣価値だから、四千円。

「安すぎません?」

「ははははは。安いに越したこたぁねえだろ? 別に安いからって下手なもんは作らねぇよ。安心しな」

「それは失礼しました」

 ノックスはポリポリと頭をかきながら、安い理由を教えてくれた。

「この新しい武器とやらは、今回のは試作品だろ? って事は、上手く行けば今後は大量に生産するかもしれねぇ、だろ? そうなると一本一本作るのは手間だ。剣のように研磨する必要もないしな。型を取って作れば安く済む。流し込めば良いだけだからな。量産する事になれば、ウチとしては大儲けよ。強化面でも継ぎはぎするよりは一本の鉄の塊の方がいいだろうしな、この鉤が(かなめ)なんだろう?」

「そうですね、鉤は大事です。なるほど、そうなると型代は別ですか?」

 真剣な私にキョトンとなるノックス。

「がはははは。込みだよ、込み。まぁ、払ってくれるんならもらうけどな」

 そうなの? やった~!!!

「ありがとうございます! 突っぱねられなくて良かったぁ。ドーンもありがとう。いいお店を紹介してくれて」

「いえいえ」

 ノックスはまじまじと改めて設計図を見ている。

「しっかし、おもしれぇもん考えたな。お嬢ちゃんのアイデアか?」

「はい。ダメでした?」

「ダメって訳じゃねぇが… 特許は取ったのか?」

「ん? 特許?」

「何にも知らねぇんだな。おい、大丈夫かドーン? このお嬢ちゃん」

 ドーンは出されたお茶を飲みながらのほほんと答える。

「その辺りは私がきちんとしている。問題ない」

 え? そうなの?

 私がドーンを見ていると

「心配いりませんよ。今回の件の許可が降りた時点で、技能ギルドで特許を取る手筈になっています。もちろん考案者はラモン団長ですよ」

「はぁぁぁ? いつの間に!」

「ははは、お前が他人の世話をするとはなぁ。随分入れ込んでるんじゃないか?」

 ニヤニヤとノックスはドーンをおちょくっている。

「それはそうでしょう。私の上官ですからね。手助けするのは当たり前です」

「ドーン!」

 私が感動でうるうるしているとノックスが驚きすぎて席を立った。

「しょ、正気か! 人を人と思っていないお前が?!」

 ん? ちょっとすごいセリフが聞こえたんだけど。

「失礼な。ちゃんと人は選んでいます」

「おいおい、そこまでか!」

 ノックスは一変して、私を珍獣を見るかのように上から下まで見る。

 い、居た堪れない。何でこうなった?

「まぁそんな事より、で? いつ出来るんだ?」

「あ、あぁ。七日後だ」

「七日ぁ?」

 キリッと睨むドーン。

「いや、三日だ。三日でする」

「よろしい」

 ドーンは満足そうにうなづいて試作品の製作費を全額前払いした。

 ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、ドーンの性格がわかった気がする。

 と、とにかく、敵にはならないのが自分の為だね。