スバルさんは私が渡した資料をようやく手に取って要望の聴取をし始める。

「まずは、隊員の増加ですね? 今までの人数で回せていたのなら必要ないのでは?」

「いえ。今まではギリギリで回していたのです。門番の仕事って結構きついんですよ? ウチってキツイ、安い、ダサいの三重苦なんだそうです。私はまずはココを見直そうと思うんです」

「キツイ、安い、ダサいですか… それはどこから?」

「これは現場の声です。今回、団長になるに当たって皆と面接したんです」

「全員ですか? 新人も?」

「はい。平民も貴族も、古参の方も、全員です」

「…」

 スバルさん、またもや絶句している。驚きすぎた変顔が見慣れてきた。ぷぷぷ。

「私自身が団長としてまだまだ未熟ですので、現場の生の声を聞きたくてですね、まずはどんな人達がいるのか面接したんです。いや~、大変でした。はっきり物申す人は限られていましたが、収穫はありました。勤務時間や体制について不満な声が多かったです」

「しかし、全ての意見を拾っていてはキリがないのでは?」

「そうれはそうですよ。皆の意見を聞いて、現場を見て、今一番必要だと思う部分を決めましたよ?」

「いや、しかし…」

「私、思うんです。団長って強くて頼りになるのはそうでしょうけど、騎士ですからね。でも、強いだけじゃ現実は組織を動かせません。しかもこの第七は大したトップが居なかったようですし… 失礼。頼れる側近達も育っていませんし… 私はこの第七では騎士としての強さを追い求めないことにしました。要は雑用係です」

「団長職を雑用などと!」

 ちょっとだけスバルさんの逆鱗に触れたかな? 騎士のプライドかな?

「ははは、語弊があったようですみません。要は経営学の一種です。例えが下手ですが、第七騎士団と言う商店を運営する店主ですね」

「店主…」

「はい。街の商人のお店では店主が従業員の給与や仕事内容、家族など様々な事を考え人を動かします。お店では金を動かしお客様へのサービスを考えて繁盛させる。同じでしょう?」

「まぁ…」

「第七は思った以上に組織としてはポンコツです。私は立て直したいんです! キツイ、安い、ダサいと今後は絶対に言わせないようにしたい! 働き方改革ですよ!」

 前世のニュースでよく言ってた『働き方改革』。この世界では私の感覚の当たり前が出来ていない。

「そうですか… で、人員が不可欠と?」

「はい。勤務体制を変えるに当たり人が足りないんです」

「わかりました。下位騎士でも問題ありませんか?」

「はい。どうせ今から新体制にするんですから、中堅でも新人でも差異はありません。むしろ来てくれるならば誰でも良いです」

「了解しました。恐らく二〇名程になるでしょうが異動は可能でしょう」

「やった~! 二〇名! ありがとうございます!」

「いやはや、これもラモン団長の案でしょうか? 面白い考え方をされますね? しかし異動は来月中旬、約一ヶ月はかかりますので悪しからず」

「十分です!!!」

 私は嬉しくて思わずドーンの両手を掴んでフリフリする。

「良かったですな、団長」

「ええ、ドーン。これで四交代制が実現できるわ!」

「四交代? 朝、昼、夜の三交代では無いんですか?」

「あぁ、それでは休みと鍛錬の時間が十分に取れないので。四交代制です」

「ほぉ? それも資料はありますか?」

「あっ… 詳細は後日まとめます。はい」

 私は思わずフリフリしていた手を収めて縮こまる。資料って苦手なんだよね。集計作業がね、ちょっとね。

「ふふふ。良いですよ。私はお手伝いに入りますので、その時にでも詳しくお話しして頂きましょう」

「すみません」

 スバルさんはもう私に対して『お飾り』的な印象は無いようだ。私の話をじっと聞いてドーンの事を意識しなくなっている。

 よしよし。

「では、次。鉄屑ですがこれの説明をお願いします」

 いよいよ、メインの要望だ! キタキタきたよ~!

「はい。これが一番の希望です。ぜひ許可して頂きたい!」

「内容によってですが?」

 どうぞと、スバルさんは手で話をする様に促してくる。

「私が考案したのですが、門番の仕事をする上で必要と思った武器がありまして。新しい武器ですし、全員に行き渡らせようとすると莫大な予算が必要になります。ですので、鉄屑です」

「? 武器ならば屑では強化面で問題が出てくるのでは? それとも平民用ですか? 第七は平民騎士が多いですからね」

「違います」

 またまた??? なスバルさん。

 へへへ~って『私が考案』とか言いながら前世の知識なんだけどね。

「その名も『十手(じって)』です!」

 ババ~ンっとドヤ顔してみる私。

 ニコニコ顔のドーンとはぁ? って顔のスバルさん。対照的でちょっとシュール。もうちょっと反応が欲しい所。

 まぁ、そうだよね。十手って聞いてもピンとこないか。

 おばあちゃん子だった私は、よく夕方の再放送で時代劇を見ていたのだ。その時に、岡っ引き(当時のお巡りさん的な存在)が持っていた十手。十本の手があるみたいに、応用力がいくつもある鈍器。実際、十通りの使い方があるんだよね。

「う~ん。その十手は新しく作る必要があるんでしょうか?」

「はい。今は槍や剣など殺傷能力が高い武器を携帯していますよね? 門番ですし危険は伴うでしょうが、すぐに斬ったりするのはどうも必要ないのではないかと思いまして。そこで鈍器です。悪党を『殺さず生け捕る』事が容易に出来る武器があれば良いな~と思ったんです」

「ふむ、一理あるな」

「それで新品を買うにしろ作成するにはお金がかかるので、特に素材費が半端ないのでしょう? だから、素材だけでも今ある物で補えないかと思いまして」

「なるほど。しかし実際百人以上の武器を作成するとなると、相当な鉄屑が必要になりますよ? その計算は出来ていますか?」

 しまった。そこ… 考えていなかった。あちゃ~。

 私が固まっているとドーンが助け舟を出してくれる。

「まず、レプリカを作っておおよその作成費を出しましょう。その際に性能の利便性も確認してはいかがでしょうか?」

「そうですねぇ。ではそれを待ってからの返答にしましょうか? この件は保留です」

 ほ、保留。まさかの保留。

「… はい」

「まぁまぁ、団長。人員だけでも先に確保できて良かったとしましょう、ね?」

「そうね、ドーン」

 よしよしと宥めてくれるドーン。優しいイケオジ。マジで有能。

「はははっ、ドーン殿が慰めている… 今日は驚きの連続です、ははは」

 乾いた笑い声のスバルさんは『明後日から来ますね』と言い残し、第七を去って行った。