<場面的には47話からの続きです>


「結局魚釣れなかったね~。ミロ怒るかな?」

「大丈夫っす。あとで俺がうさぎでも捕って来るっす」

 はぁ~、うさぎか。ちょっとかわいそう。あのウルウルした目。食べるとか… これも生きてく為だし。

「じゃぁ、私も臭い消しの香草を採ってくるよ」

「うっす」

 夕方近くになり、魚釣りは諦めてグローと小屋に帰る。

「あれ? 馬車だね… 嫌な予感… 王都から?」

「団長はあの木の影に隠れて下さい。俺が様子を見て来ます」

「え~? 刺客かな? ヤバいじゃん!」

「それを俺が見て来るんで。団長! 早く隠れて!」

 グローとわちゃわちゃしていたら小屋のドアが勢いよく開く。

 そして中から!!!

「え? うそ!」

 私は思わず持っていた釣り道具や何やらを落としてしまった。目の前はもう涙で見えない状態だ。

「ラモン!」

 満面の笑顔で駆けつけて来たのはドーンだった。

「ラモン! 会いたかった! ラモン!」

 ドーンは何度も名前を呼んで私を抱き上げクルクル回す。

「ド、ドーン?」

「あぁ、ラモン! 迎えに来た!」

「え? 迎え?」

「そうだ! 国はもうラモンを追っていない! 話はきちんとつけたから安心していい」

 クルクルを止めて私を正面に立たすが、ドーンの手は私の腰から離れない。

 今更だけど、ち、近いし、呼び捨てって。

「てか、ドーン。本当に若くなったんだね。髪が黒い。ちょっと印象が…」

 黒いドーン。しかも肌も若返って… ド・ストライクです! はい!

 「ん? 前の方が好みか? あと十年歳を取ればまた元に戻るが…」

 と、ドーンはシュンとしてしまう。

「い、いや、違うの。… かっこいいなぁと思って」

「ははは。そうか! ん? 顔を上げてくれ。ちゃんと顔を見たい、ラモン?」

 きゃ~。恥ずい。

 『ん?』とか! どんだけよ!!!

 こんなにかっこいいドーン… それに比べて… 私は…

 フリフリと首を振って私は思わず両手で顔を隠してしまう。

「ラモン?」

 ドーンが私の手を取って無理やり顔を露にして覗き込む。

「ラモン? どうした? ん? まさか… 迎えは他の者がよかったとか?」

 ドーンが手を離し一歩後ろに下がってしまった。

「ち、違うの… 私… 老けてしまって… ドーンに釣り合わないんじゃぁ」

「は? 何を言っている? ラモンはラモンだろ? 人はどの道歳を取る… 今のラモンも大人びてとても魅力的だよ。それに私は顔であなたを選んだ訳じゃない。あなただから愛しているんだ」

 愛してる… って。わーーーーー。

「でも… ちょっと前までピチピチの二〇歳だったのに…」

「はぁ~。ラモン?」

 ドーンはうつむいている私の前に膝で立ち私の両手を優しく包み込む。

「ラモン。私のラモン。こうしてあなたに助けられ、私は十歳も若返る事が出来た。反対にラモンは歳を… 輝ける二十代を奪ってしまって申し訳ないと思っている。しかし、私は女神様よりこの世界で誰よりも素晴らしいプレゼントをもらったんだ。だから私は決して諦めない! 未来永劫手放すつもりはない!」

「プレゼント?」

「ラモン。私は女神様に毎日感謝している。この瞬間も! これから先、あなたと過ごせる時間が増えたんだぞ? 一緒に時を過ごし横で笑っていられる時間が。一秒一分でも側にいたいのに、十年も増えたんだ! 奇跡なんだ! だから、ラモンが三〇歳だろうと関係ない! 今、私はこの上なく幸せなんだよ!」

「… 本当に私でいいの? 急に歳取った上に地味だし…」

「あぁ。ふふ、さっきからそう言っている。それよりラモンはどうなんだ? 十年もの時間を奪った相手を、こんな私を愛せるのか?」

 と、私を下から覗き込むちょっとハの字眉毛になっているドーンが… 愛おしい。

 うん、好きだ。

 女神様、いいんだよね? 私、この世界で幸せになって、本当にいいよね。

「ふふ。わかってるくせに。あはは。私、しょうもない事で悩んじゃって… ドーンはいつでも『こうだ!』って決めたら止まらなかったんだったわ。でも、もし私が一緒にいられないと言ったらどうしてた?」

「それは… どんな事をしてでもラモンを、心を私に向かせてみせたさ! 私は何と言っても『稲妻ブレーン』なんだから。私がラモンを愛した時点で、もうあなたは私のものなんだよ? ふふふ」

「あはははは、怖~い。でもそうだね、どっち道私はドーンからは逃げられない! あはは。ドーン。私はもうドーンのものだ」

「ラモン!!!」

 ドーンは立ち上がり私をギュッと抱きしめる。ドーンの心臓の音がドクドクと伝わって、こっちも釣られてドキドキが止まらない。

「ドーン。私のあなた。これからもよろしくね」

「あぁ、こちらこそ。私のラモン」

 と、向かい合いドーンの手が私の頬を撫でる。うっとりと見つめ合いキスをしようとした時、

 『バキッ』と、枝が折れる音がした。

 そろ~っとそろ~っと、その場を離れようとしていたグローが『しまった』という顔しながら変な格好で止まっている。

「おい、小僧、死にたいのか?」

「ひぇっ! え? いや… す、すみません」

 ミロが『あちゃ~』という顔で小屋から見ている。が、グローを救出しようとはしてない。

 蛇に睨まれた蛙だね。グローは完全に石化して止まっている。

「ぷっ。ふはははは。グロー、本当にあなたって間が悪いよね~。ぷぷ」

「いや、そ、その~。ワザとでは…」

「ふふふ、いいのよ。ドーン、続きは二人きりになった時にね。そんな怒らないの! 私を守ってくれていたグローとミロを紹介するわ。行こ?」

 私は静かに怒っているドーンの手を取り、恋人繋ぎをして小屋へと引っ張る。

 ドーンも『ふ~、しょうがないですね~』と言いながらも笑顔に変わっていた。


【第二章 完】