「たまに言われるんだよ。結人と話して自殺を思い留まりました、とか、先生の弟さんってまだ屋上にいますか? とかね。どこで、僕たちが兄弟だって広まったのかは知らないけど」
「そんなことを先生に話してくる生徒がいるんですね……」
きっと感謝の気持ちを伝えたいんだろうけど、先生からしてみれば不思議な話でしかないだろう。
「最初は、結人が屋上にいるとか意味が分からなかったけど、話を聞いていくうちに意味が分かって……。自分には結人が見えないから、完全に信じてるわけじゃないけどさ。……結人は亡くなったけど、それ以降はこの屋上での自殺者が出ていないんだ。結人がそういう願望を持ってる人たちとたくさん話して、いい方向に導いてくれてるんだなって思ったら、僕も話したくなってさ。まぁ見えないから会えないんだけど」
「そんなことがあったんですね……。私も中野先輩に助けられたうちのひとりです。色々話してくれましたし」
自殺願望があったって話は聞いたけど、本当に自殺してたなんて。
先輩の話によると、確か……親の虐待があったけど、高校生になってからひとり暮らしを始めたとか言ってたはず。
なのに、なんで自殺なんか……。
「先生、その……先輩はなんで自殺を?」
「残っていた遺書には、いじめが理由だって書いてあった。これは本人から聞いた話だけど、小さい頃……僕の父親と彼の母親が再婚する前に、前の父親に虐待されてた時期があって、かなり苦しんでたらしいんだ。でも、高校に入ってからは寮でひとり暮らしをしてなんとか生活してた。だけど、1年の頃に学校での陰湿ないじめがあったみたいで……。僕はまだその頃は、この学校に来てなかったから、知らなかったんだけどね」
今でも信じられないけど、先生の話を聞いてると、こんな悲しい話……嘘だとは思えない。
それに嘘をつく必要もないわけで。
(死角によくいるって言ってたけど、死角に幽霊ってもう……誰にも見えないやつじゃん……)
それに、私と一定の距離感を保っていたのは、触れないんじゃなくて、触れられないからだったのかもしれない……と今となっては思う。
ちゃんと見えてたのにまさか幽霊だったなんて、これだけ話を聞いても……正直まだ信じられない。
先生の話を聞いてると、中野先輩はきっと……命を大切にしてほしいということを伝えたかったのかもしれない、と思った。
* * *
ちょうど、あと一週間後には3年生の卒業式の日だ。
幽霊となって現れてた先輩も、3年の他の先輩と一緒に卒業していくのかな……。
私は中野先輩と過ごした約2ヶ月をこれからも忘れない。
決して、めちゃくちゃ濃い期間ではなかったけど、先輩がいなかったら私はあの日……間違いなく、屋上から飛び降りていた。
私自身も、先輩から卒業して……前を見えて歩いていこう。
数ヶ月後には私も3年生になるから、今よりももっと大事な時期に入る。
辛い時は、我慢せずにまた屋上へ行けばいい。
先輩にはもう会えないだろうけど、屋上で先輩と過ごしたことが、これからの私のことも支えてくれる。
だから……
屋上で運命を変えてくれた先輩には、感謝しかない。
完.
「そんなことを先生に話してくる生徒がいるんですね……」
きっと感謝の気持ちを伝えたいんだろうけど、先生からしてみれば不思議な話でしかないだろう。
「最初は、結人が屋上にいるとか意味が分からなかったけど、話を聞いていくうちに意味が分かって……。自分には結人が見えないから、完全に信じてるわけじゃないけどさ。……結人は亡くなったけど、それ以降はこの屋上での自殺者が出ていないんだ。結人がそういう願望を持ってる人たちとたくさん話して、いい方向に導いてくれてるんだなって思ったら、僕も話したくなってさ。まぁ見えないから会えないんだけど」
「そんなことがあったんですね……。私も中野先輩に助けられたうちのひとりです。色々話してくれましたし」
自殺願望があったって話は聞いたけど、本当に自殺してたなんて。
先輩の話によると、確か……親の虐待があったけど、高校生になってからひとり暮らしを始めたとか言ってたはず。
なのに、なんで自殺なんか……。
「先生、その……先輩はなんで自殺を?」
「残っていた遺書には、いじめが理由だって書いてあった。これは本人から聞いた話だけど、小さい頃……僕の父親と彼の母親が再婚する前に、前の父親に虐待されてた時期があって、かなり苦しんでたらしいんだ。でも、高校に入ってからは寮でひとり暮らしをしてなんとか生活してた。だけど、1年の頃に学校での陰湿ないじめがあったみたいで……。僕はまだその頃は、この学校に来てなかったから、知らなかったんだけどね」
今でも信じられないけど、先生の話を聞いてると、こんな悲しい話……嘘だとは思えない。
それに嘘をつく必要もないわけで。
(死角によくいるって言ってたけど、死角に幽霊ってもう……誰にも見えないやつじゃん……)
それに、私と一定の距離感を保っていたのは、触れないんじゃなくて、触れられないからだったのかもしれない……と今となっては思う。
ちゃんと見えてたのにまさか幽霊だったなんて、これだけ話を聞いても……正直まだ信じられない。
先生の話を聞いてると、中野先輩はきっと……命を大切にしてほしいということを伝えたかったのかもしれない、と思った。
* * *
ちょうど、あと一週間後には3年生の卒業式の日だ。
幽霊となって現れてた先輩も、3年の他の先輩と一緒に卒業していくのかな……。
私は中野先輩と過ごした約2ヶ月をこれからも忘れない。
決して、めちゃくちゃ濃い期間ではなかったけど、先輩がいなかったら私はあの日……間違いなく、屋上から飛び降りていた。
私自身も、先輩から卒業して……前を見えて歩いていこう。
数ヶ月後には私も3年生になるから、今よりももっと大事な時期に入る。
辛い時は、我慢せずにまた屋上へ行けばいい。
先輩にはもう会えないだろうけど、屋上で先輩と過ごしたことが、これからの私のことも支えてくれる。
だから……
屋上で運命を変えてくれた先輩には、感謝しかない。
完.