* * *

 そして、数日後。

 久しぶりに屋上へ行ってみた。
 中野先輩がいなかったから少しの間、行くのを控えていたのだ。またあの先生がいたら厄介だから。

(「何しに来た?」とか聞かれそうだし)


 今日はというと……。

 以前のように、中野先輩がいてホッと胸をなでおろした。
 それと同時に、最近はここに来ない日があるのか中野先輩に尋ねてみた。

「数日前にもここへ来たんですが、先輩いなかったですよね?」

「……あぁ、うん。来ない日もあるからね。……寂しかった?」

「べ、別に……そんなんじゃないですっ!」

「ははっ、そんなツンツンしなくてもいいじゃん。素直になればー? 俺は君と会えて嬉しいけどね」

 顔を覗き込みながら話してくる中野先輩。
 絶対にわざとだ。私が恋をしたことないって話してから、色々ドキドキすること仕掛けてくる。

(でもそれに対して胸が素直にドキドキしてるのも、先輩の手の平で転がされてるようでムズムズするんだよね……)

 それもそれで少し楽しかったりして、私は先輩といると気持ちがフワフワしてしまう。

「……私も、嬉しく思わなくもないです」

「うんうん、素直でよろしい! なんてね」

 先輩はニコニコ笑っていて、とても楽しそうだ。
 そんな先輩の笑顔を見ていると、こっちまで口角が上がってしまう。

「そういえばこの間、ここに先生がいてびっくりしたんです! よく考えたらここって立ち入り禁止でしたよね」

 先輩もいるから、普通に来ちゃってるけど。

「先生……? そうだね、立ち入り禁止! 君も何だかんだ……悪い子だー」

(今、『先生』って言葉に何か反応した? 気のせいかな?)

「先輩だって来てるじゃないですかー!」

「俺は特別だからね」

「同じ生徒に特別もそうじゃないもないと思いますけどー」

「普段は死角にいるって言ったでしょ?」

「それは先輩が好き好んでそこに上ってるだけですよね?」

「……まぁそうだけどさ。っていうか、君も最初の頃に比べて色々言うようになったね?」

 それは先輩のせいです……なんて言えるわけもなく。

 それにしても、最近の先輩はやたら距離が近い。

(話しやすいっていうのもあって、日を増すごとにドキドキも増してる気が……)

 だからといって、先輩から触れてきたりするわけでもなく、そういう面での一定の距離感はずっと保たれている。

(私を怖がらせないようにしてくれてるのかな?)

 だとしたら、とても紳士的だ。

 ……なんて思っていたけど、本当の理由はそうじゃなかった。

* * *

 よく考えたら、3年生はもうほぼ登校していない時期だ。
 そんな3年生の中野先輩が、屋上にちょくちょく来ているのも妙に引っかかり始めた頃……。

 私はここ数日行けなかった屋上へと、久しぶりに行ってみた。
 すると、そこにはまたあの現国の中野先生がいた。
 
 しかも空を見上げながら――。

 不思議に思った私は、今度こそ理由を尋ねようと先生に近づいていく。

「先生……あの……」

「なんだ、また君か……。ここは立ち入り禁止だぞ」

「はい、すみません。でもひとつ聞きたいことがあって」

「聞きたいこと? なんだ?」

「先生はここで何してるんですか?」

 回りくどい聞き方はせずに、ストレートに聞いてみた。
 すると、先生からは予想外の話が飛び出した。

「アイツがいるかもしれないって思ってな……」

 ……アイツ?

「もしかして、3年生の人ですか?」

 私には、ここにいる「アイツ」なんて、ひとりしか思いつかない。

 3年の中野先輩だ。

「あれ? 君も知ってるうちのひとり?」

「君もってことは、私以外にも中野先輩がここに来てることを知ってるんですか?」

「さぁ、詳しくは僕にも分からないんだけどね」

 まったくもって話が見えない。