……恋?
話が随分と飛躍した。
「何を急にそんな……っ」
「別に照れることでもないでしょ。高校生だし、恋のひとつやふたつ……ね?」
友達もいない私が、恋なんてしているわけがない。
そんなこと、中野先輩には分からないことだから、別に聞かれたことに対して怒ってるわけじゃないけど。
普通の高校2年生なら、恋のひとつやふたつ……してるのだろうか。
「……ないです。見てのとおり、ぼっちなんで。恋なんて異次元の話ですね」
「ははっ、異次元かー。まぁ、それはそうかも。俺もできなかったし」
「できなかった? まだ今からでもできるのでは?」
「あっ、いや……まぁ、そうなんだけどさ。ほら、受験とか色々? 忙しいし」
「それもそうですね。3年生は忙しいですよね」
この時の違和感は、一瞬で消え去ったため、気にも留めていなかった。
だけど、正直な話をすると……この時、私は少し嬉しかったのだ。
最近はもうクラスメイトどころか、先生や家族以外、誰とも会話をしていなかったから。
こんな私に、一瞬でも興味をもってくれる人がいるなんて思いもしなかった。
しかもこんな、タイミングいいやら悪いやらの場所で話しかけられて。
なんの取り柄もない私に声をかけてくれた中野先輩に、少し興味をもったのは言うまでもない。
もちろん、好きとかそういう感情じゃなく、「なんでわざわざ私に声をかけてくれたんだろう?」っていう興味。
それこそ、死角にいるなら、こんな面倒くさいこと……見て見ぬふりすることだってできただろうに。
(変な人だなぁ……)
中野先輩と話していると昼休みが終わるチャイムが鳴った。
「……教室へ戻る? 俺はもう少しここにいるけど」
「……戻ります」
(死に損なったので……なんて言えないけど)
「うん、いい子いい子!」
そう言って、中野先輩は私に笑いかけてくれた。
(調子狂うんだけど……)
目と鼻の先の場所から、真っ逆さまに飛び降りようとしてた相手に「いい子いい子」って……。
ほんとよく分からない先輩だ。
* * *
その後も、私は、昼休みになるとちょくちょく屋上へと足を運んでいた。
先輩はいる日といない日があったけど、いる日は色々話した。学校のことだったり、勉強のことだったり。
話しているうちに、私にとって先輩ではあるものの、「友達」の感覚に似た存在になっていた。
先輩に直接そう言ったことはなかったけど。
でも、不思議なことに、校舎内で遭遇することは一度も無かった。
うちの学校は生徒数がかなり多いマンモス校だから、同じ学年でも会わない人だっているし、ましてや、学年が違えば会わなくても不思議ではない。
私は屋上に行くと中野先輩に会えるという、ある種のイベントみたいに思っていて、いつの間にか自殺願望はだいぶ薄れていた。
今は、先輩に会って話すのが楽しみになっているから。ある意味、先輩に救われたようなものだ。
* * *
そんなある日。
いつも通り、昼休みに屋上へ行くと先輩はいなくて、代わりに、珍しい男性がいた。
現国の中野先生だ。
(なんでこんな場所に先生が……?)
屋上は基本、立ち入り禁止のため、私は先生にも見つからないよう……そっと出入り口からそのまま立ち去ろうとした。
その時、急いでいた私はドアに足をぶつけてしまい音を立ててしまったため、先生に気づかれた。
「そこで何をしてるんだ? 君は……2年の葛原だな」
「はい……あの、すみません。何か用事があったとかそういうのじゃないんで……戻ります」
「おい、ちょっと待て。葛は――」
先生に呼び止められた気がしたけど、聞こえなかったふりしてそのまま教室へと戻った。
(用事がなきゃ、屋上なんて行かないよね……。先生も何してたんだろう?)
その後も、私は中野先生が何故あそこにいたのか、気になっていた――。
話が随分と飛躍した。
「何を急にそんな……っ」
「別に照れることでもないでしょ。高校生だし、恋のひとつやふたつ……ね?」
友達もいない私が、恋なんてしているわけがない。
そんなこと、中野先輩には分からないことだから、別に聞かれたことに対して怒ってるわけじゃないけど。
普通の高校2年生なら、恋のひとつやふたつ……してるのだろうか。
「……ないです。見てのとおり、ぼっちなんで。恋なんて異次元の話ですね」
「ははっ、異次元かー。まぁ、それはそうかも。俺もできなかったし」
「できなかった? まだ今からでもできるのでは?」
「あっ、いや……まぁ、そうなんだけどさ。ほら、受験とか色々? 忙しいし」
「それもそうですね。3年生は忙しいですよね」
この時の違和感は、一瞬で消え去ったため、気にも留めていなかった。
だけど、正直な話をすると……この時、私は少し嬉しかったのだ。
最近はもうクラスメイトどころか、先生や家族以外、誰とも会話をしていなかったから。
こんな私に、一瞬でも興味をもってくれる人がいるなんて思いもしなかった。
しかもこんな、タイミングいいやら悪いやらの場所で話しかけられて。
なんの取り柄もない私に声をかけてくれた中野先輩に、少し興味をもったのは言うまでもない。
もちろん、好きとかそういう感情じゃなく、「なんでわざわざ私に声をかけてくれたんだろう?」っていう興味。
それこそ、死角にいるなら、こんな面倒くさいこと……見て見ぬふりすることだってできただろうに。
(変な人だなぁ……)
中野先輩と話していると昼休みが終わるチャイムが鳴った。
「……教室へ戻る? 俺はもう少しここにいるけど」
「……戻ります」
(死に損なったので……なんて言えないけど)
「うん、いい子いい子!」
そう言って、中野先輩は私に笑いかけてくれた。
(調子狂うんだけど……)
目と鼻の先の場所から、真っ逆さまに飛び降りようとしてた相手に「いい子いい子」って……。
ほんとよく分からない先輩だ。
* * *
その後も、私は、昼休みになるとちょくちょく屋上へと足を運んでいた。
先輩はいる日といない日があったけど、いる日は色々話した。学校のことだったり、勉強のことだったり。
話しているうちに、私にとって先輩ではあるものの、「友達」の感覚に似た存在になっていた。
先輩に直接そう言ったことはなかったけど。
でも、不思議なことに、校舎内で遭遇することは一度も無かった。
うちの学校は生徒数がかなり多いマンモス校だから、同じ学年でも会わない人だっているし、ましてや、学年が違えば会わなくても不思議ではない。
私は屋上に行くと中野先輩に会えるという、ある種のイベントみたいに思っていて、いつの間にか自殺願望はだいぶ薄れていた。
今は、先輩に会って話すのが楽しみになっているから。ある意味、先輩に救われたようなものだ。
* * *
そんなある日。
いつも通り、昼休みに屋上へ行くと先輩はいなくて、代わりに、珍しい男性がいた。
現国の中野先生だ。
(なんでこんな場所に先生が……?)
屋上は基本、立ち入り禁止のため、私は先生にも見つからないよう……そっと出入り口からそのまま立ち去ろうとした。
その時、急いでいた私はドアに足をぶつけてしまい音を立ててしまったため、先生に気づかれた。
「そこで何をしてるんだ? 君は……2年の葛原だな」
「はい……あの、すみません。何か用事があったとかそういうのじゃないんで……戻ります」
「おい、ちょっと待て。葛は――」
先生に呼び止められた気がしたけど、聞こえなかったふりしてそのまま教室へと戻った。
(用事がなきゃ、屋上なんて行かないよね……。先生も何してたんだろう?)
その後も、私は中野先生が何故あそこにいたのか、気になっていた――。