翌日、第一艦橋では、出航準備が着々と行われていた。
「罐の調子を万全にしとけ!特にメインエンジンのエネルギー伝導管は入念にチェックしろ!」
「…そうだ。弾薬は三式弾と実体弾を1:1で搭載だ!」
ピリついた空気の中、小西は艦長帽を深々と被り、通路と艦橋を隔てる自動ドアの乾いた音を聞き、艦橋に入った。
「各員、現在の状況、知らせ!」
小西が大声で叫ぶと、艦橋内にいた乗組員はすぐに振り向いて敬礼をしようとする。だが、小西は
「敬礼は不要だ。各員出航準備をしつつ随時状況を報告せよ。」
と言い、準備を続行させた。
やがて、士官クラスを示す肩章を輝かせ、1人の男が艦長席に近づいて来て、敬礼をした後言った。
「航海科、総勢45名、出航準備完了しました!欠員ありません。航海日程および戦闘行動予定も戦隊各隊と共有済みです。」
そう言い、去っていった。その後、彼を皮切りに次々に報告が上がる。
「機関科、総勢68名、配置完了。エンジンの状態も万全です。」
「砲雷科、総勢84名、配置につきました。」
「船務科、総勢44名、準備完了。」
「…技術科、総勢28名、配置につきました。」
そうして、全ての出航準備完了の報告を受けると、小西はマイクをとって、艦内放送を流した。
「全艦に告ぐ。こちら艦長の小西だ。まもなく戦隊全艦の出航準備が完了する。今回の任務は皆わかっていると思うが、航宙模擬艦隊戦闘演習に参加することである。今次訓練を通して、各員の能力向上に努めてもらいたい。以上だ。」
そう言い、マイクを置くと、艦橋メンバー全員が振り返って敬礼をしていた。艦橋メンバーの凛とした顔を一瞥した小西も艦長席から立ち上がって答礼をした。そんな時だった。突如ザッと言う雑音と共に艦内に通信が流れる。
「こちら第8空間宙雷戦隊旗艦、『あまつかぜ』だ。これより演習集合宙域に向け発進する。合流地点は月面沖270キロの空間点。合流地点までの航行中は第二空間警戒航行序列を維持すること。以上だ。」
それを聞いて小西は、指示を出す。
「出航用意!錨を上げろ!」
号令と共に、けたたましく出航の警報音が鳴り響く。いくら宇宙艦の発進といっても、宇宙港からの発進は稀で、基本的には海上もしくは陸上から飛び立つ事の方が多い。我々の母港は海に面しており、我々は海上発進が常であった。波は穏やかで、天気も良く、我々の出航を祝福しているかのようであった。
「補助エンジン、動力接続、スイッチオン!」
「補助エンジン動力接続。…動力の接続を確認。補助エンジン始動…補助エンジン定速回転1600。両舷推力バランス正常、パーフェクト!」
小西の号令に合わせ、西村機関長の手慣れた復唱と報告が艦橋内部にこだまする。
「微速前進」
「微速前進」
小西の号令を航海長である桐原が復唱するとエンジンから炎が吹き出し、艦がゆっくりと前進する。
「メインエンジンにエネルギー注入」
西村機関長がそう言うと同時に、小西の手元のメーターのクォークエネルギー量の項目が上昇を始めた。
…いよいよ、始まる。そう思うと、手が小刻みに震える。手を握り締めて震えを抑えて手元のメーターに注目する。その間も艦は波を割って突き進む。
「補助エンジン、第二戦速から、第三戦速へ。離水可能速度まであと5分。」
桐原がそう言うと、さらにエンジンが唸り、速度が上がる。
「メインエンジン、シリンダーへの閉鎖隔壁、開け!メインエンジン、始動4分前」
西村機関長が続ける。
「メインエンジンクォークエネルギー圧力上昇中。現在エネルギー充填90%」
「補助エンジン、最大戦速!」
「補助エンジン、最大戦速!」
桐原と西村機関長の阿吽の呼吸でエンジン出力に合わせて艦の速度が増していく。お互いの報告、復唱も熱が入っているように聞こえる。…それはそうだ。ここは航海科と機関科にとっては1番の見せ所。熱が入るのも頷ける。そう思い、小西は手元のメーターで艦の状態が適切かしっかりと確認した。
「メインエンジン、さらにエネルギー注入。現在エネルギー充填100%!」
エネルギー充填率が100%を超えると、艦橋にもエンジンの低く、渋い音が聞こえてくる。小西は、昔のことを思い出していた。
…船乗りは皆、この音を聞いて旅に立つ、と昔まだ俺が防衛学校の生徒で初めての航海の際、教官がそういっていたのを思い出した。あの頃から俺は変わったぞ、と思い、腹に力を込めた。
「メイエンジン点火、 2分前」
西村機関長からの報告でいよいよ発進が近づいてきたと言うことを改めて感じた。小西はマイクを手に取り、全艦放送をかける。
「総員に告ぐ。本艦は間も無く離水し、集合空間座標へ向かう。総員、ベルト着用。離水の際は衝撃に備えよ!」
緊迫した雰囲気。だが、不思議と乗組員の顔に緊張はなかった。
「クォークタービン、始動10秒前」
西村機関長の号令でエネルギー伝動管が開放され、クォークエネルギーがメインエンジンに伝わる。そして…
「メインエンジン、クォークエネルギー充填120%。クォークタービン、始動!」
西村機関長がついにこの号令を発すると、桐原が
「クォークタービン、始動!」
と確認し、クォークタービンが回り始めた。低い音がさらに増大する。だが、不思議と不快感はなく、心が落ち着くようであった。
「メインエンジン点火、10秒前。」
航海長がカウントダウンを始める。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0…」
カウントがゼロになり、桐原が、
「クォークタービン、コネクト!メインエンジン点火!」
と号令を発する。いよいよだ。そう小西は思い、大きく息を吸い込んで、声高らかに言った。
「しまなみ、発進!」
そう言うと同時に艦後部のエンジンノズルから勢いよく火が吹き出し、艦が上を向いたかと思うと太陽に吸い込まれるように艦が上昇を始めた。
「罐の調子を万全にしとけ!特にメインエンジンのエネルギー伝導管は入念にチェックしろ!」
「…そうだ。弾薬は三式弾と実体弾を1:1で搭載だ!」
ピリついた空気の中、小西は艦長帽を深々と被り、通路と艦橋を隔てる自動ドアの乾いた音を聞き、艦橋に入った。
「各員、現在の状況、知らせ!」
小西が大声で叫ぶと、艦橋内にいた乗組員はすぐに振り向いて敬礼をしようとする。だが、小西は
「敬礼は不要だ。各員出航準備をしつつ随時状況を報告せよ。」
と言い、準備を続行させた。
やがて、士官クラスを示す肩章を輝かせ、1人の男が艦長席に近づいて来て、敬礼をした後言った。
「航海科、総勢45名、出航準備完了しました!欠員ありません。航海日程および戦闘行動予定も戦隊各隊と共有済みです。」
そう言い、去っていった。その後、彼を皮切りに次々に報告が上がる。
「機関科、総勢68名、配置完了。エンジンの状態も万全です。」
「砲雷科、総勢84名、配置につきました。」
「船務科、総勢44名、準備完了。」
「…技術科、総勢28名、配置につきました。」
そうして、全ての出航準備完了の報告を受けると、小西はマイクをとって、艦内放送を流した。
「全艦に告ぐ。こちら艦長の小西だ。まもなく戦隊全艦の出航準備が完了する。今回の任務は皆わかっていると思うが、航宙模擬艦隊戦闘演習に参加することである。今次訓練を通して、各員の能力向上に努めてもらいたい。以上だ。」
そう言い、マイクを置くと、艦橋メンバー全員が振り返って敬礼をしていた。艦橋メンバーの凛とした顔を一瞥した小西も艦長席から立ち上がって答礼をした。そんな時だった。突如ザッと言う雑音と共に艦内に通信が流れる。
「こちら第8空間宙雷戦隊旗艦、『あまつかぜ』だ。これより演習集合宙域に向け発進する。合流地点は月面沖270キロの空間点。合流地点までの航行中は第二空間警戒航行序列を維持すること。以上だ。」
それを聞いて小西は、指示を出す。
「出航用意!錨を上げろ!」
号令と共に、けたたましく出航の警報音が鳴り響く。いくら宇宙艦の発進といっても、宇宙港からの発進は稀で、基本的には海上もしくは陸上から飛び立つ事の方が多い。我々の母港は海に面しており、我々は海上発進が常であった。波は穏やかで、天気も良く、我々の出航を祝福しているかのようであった。
「補助エンジン、動力接続、スイッチオン!」
「補助エンジン動力接続。…動力の接続を確認。補助エンジン始動…補助エンジン定速回転1600。両舷推力バランス正常、パーフェクト!」
小西の号令に合わせ、西村機関長の手慣れた復唱と報告が艦橋内部にこだまする。
「微速前進」
「微速前進」
小西の号令を航海長である桐原が復唱するとエンジンから炎が吹き出し、艦がゆっくりと前進する。
「メインエンジンにエネルギー注入」
西村機関長がそう言うと同時に、小西の手元のメーターのクォークエネルギー量の項目が上昇を始めた。
…いよいよ、始まる。そう思うと、手が小刻みに震える。手を握り締めて震えを抑えて手元のメーターに注目する。その間も艦は波を割って突き進む。
「補助エンジン、第二戦速から、第三戦速へ。離水可能速度まであと5分。」
桐原がそう言うと、さらにエンジンが唸り、速度が上がる。
「メインエンジン、シリンダーへの閉鎖隔壁、開け!メインエンジン、始動4分前」
西村機関長が続ける。
「メインエンジンクォークエネルギー圧力上昇中。現在エネルギー充填90%」
「補助エンジン、最大戦速!」
「補助エンジン、最大戦速!」
桐原と西村機関長の阿吽の呼吸でエンジン出力に合わせて艦の速度が増していく。お互いの報告、復唱も熱が入っているように聞こえる。…それはそうだ。ここは航海科と機関科にとっては1番の見せ所。熱が入るのも頷ける。そう思い、小西は手元のメーターで艦の状態が適切かしっかりと確認した。
「メインエンジン、さらにエネルギー注入。現在エネルギー充填100%!」
エネルギー充填率が100%を超えると、艦橋にもエンジンの低く、渋い音が聞こえてくる。小西は、昔のことを思い出していた。
…船乗りは皆、この音を聞いて旅に立つ、と昔まだ俺が防衛学校の生徒で初めての航海の際、教官がそういっていたのを思い出した。あの頃から俺は変わったぞ、と思い、腹に力を込めた。
「メイエンジン点火、 2分前」
西村機関長からの報告でいよいよ発進が近づいてきたと言うことを改めて感じた。小西はマイクを手に取り、全艦放送をかける。
「総員に告ぐ。本艦は間も無く離水し、集合空間座標へ向かう。総員、ベルト着用。離水の際は衝撃に備えよ!」
緊迫した雰囲気。だが、不思議と乗組員の顔に緊張はなかった。
「クォークタービン、始動10秒前」
西村機関長の号令でエネルギー伝動管が開放され、クォークエネルギーがメインエンジンに伝わる。そして…
「メインエンジン、クォークエネルギー充填120%。クォークタービン、始動!」
西村機関長がついにこの号令を発すると、桐原が
「クォークタービン、始動!」
と確認し、クォークタービンが回り始めた。低い音がさらに増大する。だが、不思議と不快感はなく、心が落ち着くようであった。
「メインエンジン点火、10秒前。」
航海長がカウントダウンを始める。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0…」
カウントがゼロになり、桐原が、
「クォークタービン、コネクト!メインエンジン点火!」
と号令を発する。いよいよだ。そう小西は思い、大きく息を吸い込んで、声高らかに言った。
「しまなみ、発進!」
そう言うと同時に艦後部のエンジンノズルから勢いよく火が吹き出し、艦が上を向いたかと思うと太陽に吸い込まれるように艦が上昇を始めた。