一方、オーガスタ艦橋ではエルンスト中将が跪き、深々と頭を下げていた。彼の視線の先にはモニターがあり、モニターに大きな男が映し出され、そこから大きな声が響いてきた。
「エルンスト中将、要望通り援軍を連れて来たが、戦況はどうなっているのだ。戦況を報告せよ。」
その声は乗組員を震え上がらせた。乗組員を震わせたものは、恐怖から湧き出たものではなく、士気の高まりから出たものであった。…超巨大戦艦「アザゼル」。あり得ないほどの巨大な艦体を持ち、その巨艦に相応しい大型の主砲を持つこの艦は、約100年前に先々代皇帝が皇帝座乗艦として建造した艦である。相手を威圧し、諸外国を容易く勢力下に置く砲艦外交の先駆けとして造られたこの艦は、見たものを絶望のどん底へ叩き落とし、味方の士気を天まであげる、まさに帝国の切り札であった。エルンスト中将も自らの士気の高まりを感じながら報告する。
「シュターリン皇帝閣下、まずは援軍を閣下自ら率いて来て頂き、誠にありがとうございます。そして私の能力がないが故に閣下に御足労をおかけしたこと、誠に申し訳ございません。」
そうエルンスト中将がいうと
「感謝は良い。それよりも早く戦況を言え。」
とシュターリンは戦況報告を催促する。エルンストはそれに頷き
「では報告致します。我々はこれまでに敵防衛艦隊構成艦4隻を撃沈しました。内訳は、重巡洋艦1、駆逐艦3です。そして、新たに先程の閣下の鬼神の如き一撃で、敵駆逐艦5隻の撃沈を確認致しました。以上より、現在9隻の撃沈を確認しておりますが、未だ戦艦1隻、重巡洋艦3隻、駆逐艦4隻の計8隻が健在であります。」
と報告した。シュターリンは重巡洋艦撃沈と聞いて嬉しかったのか、広角をやや上げながら口を開いた。
「そうか。大義であった。今後はお前らの艦隊も吾輩の指揮下に入れ。以上だ。」
そう言ってシュターリンはエルンストとの交信を終えると、その場にいる味方艦に対して呼びかけを行う為、通信士に全艦通信を指示、準備が整うとシュターリンは矢継ぎ早に話し始めた。
「レミレランド帝国連邦軍の栄えある諸君らに告ぐ。吾輩は第45代レミレランド帝国皇帝、アルフレッド・シュターリンである。諸君らの絶え間ない攻撃により、今や敵防衛艦隊の攻撃意欲は地に堕ち、戦意喪失している!この希望の地を得られる機会は今しかない。吾輩らはこれより敵防衛艦隊を殲滅しにかかる。全艦、弓形陣を敷け。各艦、艦と艦の間隔を狭めろ!」
それを聞いてエルンストは少し疑念を覚え、意見具申する。
「しかし閣下。敵は大量破壊兵器を保持しており、密集隊形での攻撃は非常に危険では…。」
「奴らの大量破壊兵器は長い充填時間が必要である。で、あるならば奴らが充填している間に撃沈してしまえばよかろう。」
エルンストの不安など気にもならないと言った感じでシュターリンはエルンストの質問に返答した。にシュターリンは、他の質問がないことを確認すると
「他に質問はないな。では全艦、所定の行動に入れ。」
と言い、行動開始を指示した。艦隊は、防衛艦隊に近づきながら超巨大戦艦を中心とした弓形陣を展開し始めた。ジリジリと防衛艦隊に近づきながら、防衛艦隊を照準を定める。ターレットリングがキリキリと音を立てながら動き、遂に砲口の中心に防衛艦隊を捉えた。
「間も無く全艦の射程圏内に入ります!」
その報告がアザゼルの艦橋に響くとシュターリンは
「全艦、攻撃目標敵旗艦。攻撃始め。」
と低い声で指示を出した。即座に各艦から一斉に砲撃が放たれ、戦艦諏訪へ襲いかかる。アザゼルからの砲撃で魔道艦体防壁が切れていた諏訪は、数多くの砲撃に晒され被弾が重なる。防衛艦隊各艦は散発的に主砲などで迎撃を行うが、統率のとれていない砲撃などはいくら火力が高くても無意味であり、敵艦に当たることなく、虚空へ突き抜けていった。いけるぞ、ついにこの星を手に入れられる。シュターリンはそう確信し、
「攻撃の手を緩めるな!母星の恒星化は刻一刻と迫っているのだ!時間は待ってはくれない。速やかに敵防衛艦隊を攻略せよ!」
と、再び全艦に指示した。



諏訪では、被弾によるアラートが鳴り響き、艦内では非常事態を示す赤色のランプが永続的に点灯していた。艦体が被弾のたびに激しく揺れ、直後に阿部から続々と被弾の報告が飛ぶ。小西は、何も考える事が出来なかった。もう、駄目だ。それだけが小西の頭にあり、諦めの気持ちが小西を支配していた。目の前では、アリアが必死に砲撃命令を出し、航海長が操舵輪に必死にしがみつきながら回避行動を取り続け、阿部が必死のダメージコントロールを続けている。だが、小西の目にはそれすら無駄に見えた。どうせあの超巨大戦艦に打ち勝つ術はないのだ、であればもういいじゃないか。小西は通信士にボソリと呟いた。
「…通信士、超巨大戦艦と交信できるか。」
その言葉の真意に通信士は即座に気付き
「司令、まさか…。」
と信じられない、と言ったような声を出した後大声で怒鳴った。
「司令!いくらなんでもそれは身勝手が過ぎるのではないですか!交信を要求された理由は降伏通信でしょう!?我々が必死になって戦っているのになぜ司令は逃げようとするんです!」
その言葉は乗組員全員を震わせたが、しかし小西にだけはそれは届かなかった。
「…今、降伏すればまだ臣民の多くは生かす事が出来る…。徹底抗戦すれば、俺たちが負けた時に臣民までがその代償を払う事になる。…ここらが引き時だ。臣民を生かす為ならば俺は喜んで首を差し出す。もう一度言う、通信士、超巨大戦艦と交信を準備しろ。」
その言葉にアリアも憤慨し
「小西!いったい何を言っているの!」
と叫んではいたが、小西の言うこともまた一理あり、それ以降小西を糾弾する人は現れなかった。静寂が諏訪のCIC内を支配する。やがて、その静寂を破ったのは航海長の嗚咽を堪えたような声であった。
「…通信士、超巨大戦艦との交信を試るんだ。」
その言葉にアリアは
「やめなさい!」
と声を荒げたが
「…小西司令の言うことも確かです。我々は国土を護る国軍ですが、それ以上に護る対象は臣民なはずです。…彼らを危険に晒してまで国土を護ることは…我々の本意では無いはずです…。」
という航海長の切実な訴えに負け、アリアはフラフラと椅子に沈んだ。再びCICは静寂に包まれた。ただカタカタ、と通信士がゆっくりとキーボードを操作して交信準備をする音だけが響いていた。やがて
「超巨大戦艦との交信準備、整いました…。メインモニターに通信映像投影します。」
との報告があり、小西はゆっくりと頷いて目の前のモニターに目を向けた、その時。突如、地表から敵艦隊に向け、数十本ものビーム砲が飛んでいき、敵艦数隻に命中した。その様子を見た小西の顔はさらに真っ青になる。被弾した敵艦は、燃えながら戦列を離れ、やがて爆沈した。
諏訪のCICでは、発砲した砲防衛砲台を褒め称える声や、これで講和の夢は崩れ去ったと悲鳴を上げる声など、様々な声が飛び交っていた。かくいう小西もまさに交信で講和について話そうと思っていただけに、この事態は想定外だった。CICの混乱が落ち着く間も無く、防衛砲台から通信が入る。
「勇敢なる防衛艦隊諸君!私は防衛砲台臨時指揮官、アレクサンドリアである!諸君ら、何をそうあの超巨大戦艦に怯えておるのだ!ただ図体が巨大なだけのあの艦が我々のこの国を護るという固い決意を砕けるわけが無かろう!奴らは、我々の鋼の意志を前に、攻めあぐねているのだ!諸君!今こそ恐怖心を捨て、敵艦隊へ向けて突撃せよ!諸君らがあの堕天使を再び地に叩き落とすのだ!臆することはない!後ろからは我々が援護する!心配することはない!」
この発言を聞いた小西は、思わず立ち上がって怒りをあらわにした。何を馬鹿な事をしてくれたんだ、と。小西は半ば憤っていた。本来、司令である小西が防衛艦隊の指揮命令系統では1番上であるのに、その小西を無視して立場のある第三者が防衛艦隊に指示を出した事で、指揮命令系統が完全に崩れてしまった。小西の制止も聞かず、アレクサンドリアの命令に従い無断で敵艦に突撃していく艦や従来通り小西の命令を待つ艦の2種類に分断された防衛艦隊は、最早完全に統率能力を失った。小西は、確かに超巨大戦艦を前に絶望したり講和を結ぼうとしたりと弱腰な姿勢を見せていたかもしれないが、それでもそれまでは指揮命令系統がしっかりしていたので、ある程度組織的な反抗をすることも可能であった。だが、アレクサンドリアの魔の一言で保たれていた指揮命令系統が崩れ、組織的な反抗をする事が不可能になってしまっていた。…小西がレーダーを見ると、重巡洋艦2隻と駆逐艦3隻が敵艦隊に向け、無断の突撃を敢行し始めている。ただでさえ残存艦艇が少ないこの状況でさらに無断の突撃により戦力を分散すれば、突撃した艦もそうで無い艦も完全に撃ち滅ぼされることは確実であった。通常、このような命令違反が起こった場合は司令官が違反した艦の指揮官に対して軍規違反だとして更迭する事が常であるが、指揮命令系統も完全に潰れた現状ではそれすら不可能だった。このまま突撃して行った艦を見逃せば、彼らは必ず撃ち負け、撃沈される事は必至である。そうすれば、我々は残った3隻でこの後を戦わなければならないがそれは不可能であるし、そこから講和を結ぼうにも、アレクサンドリアがそれを許すとは思えず、命令無視をしてでも防衛砲台を動かし続けるに違いない。…つまり、この時点で講和の道に進むことはもう不可能になったのだ。小西は、もう戦うしか道がないという事を悟り指揮下に入っている艦に告げた。
「…防衛艦隊指揮下の全艦に告ぐ。これより敵艦隊に向けて突撃し、玉砕せよ。」
もうこの戦いで生き残ることは不可能だ。後は、死ぬまで戦い続け、可能な限りこの星の民を護る…。その事を、全乗組員が理解していた。小西の指揮下から外れた艦はこちらからの呼びかけに全く応じなくなった為最早戦隊規模となった残存防衛艦隊はなけなしの3艦で陣形を組むしか無かった。諏訪を真ん中に、左側に大破損害を受けているしまなみ、右側に羽黒を配置し先に突撃をして行った艦を追いかけながら敵艦隊に向けて砲撃を始めた。後ろからも防衛砲台が砲撃を続けているが、小西からすれば焼け石に水のように思えた。前の方を見ると、先に突撃した5隻が、敵艦隊の先頭と交戦を始めていた。だが、残念ながらと言うべきか、当然と言うべきか、5隻程度のではゆうに100隻を超える艦隊相手に具体的な作戦なしに太刀打ち出来るわけがなかった。ただただ陣形の工夫もなしに正面のの敵艦隊に砲撃を開始した5隻は瞬く間に包囲され、砲撃の嵐を浴びせられてしまっていた。
「これ以上艦を失うわけにはいかない。全艦、味方艦の援護へ向かえ。」
小西は、離反した5隻がもう小西の命令を聞かない事は分かりきっていたが、それでも貴重な艦隊戦力を失う訳にもいかず小西は5隻の救出作戦を実行する事を決意する。
「各艦、本艦を先頭に単縦陣を組め。敵の包囲網を一本突破し、その後再び包囲網から離脱する。」
小西は簡潔に作戦を伝達した。3隻は即座に陣形を変更し、敵艦隊に向けて猛進する。それを見つけた敵艦数隻が一斉に小西達に襲いかかるが、各艦の巧みな操艦と、迎撃により、ほとんど被弾する事なく、敵艦隊の包囲陣へ到着した。小西達は、速度を緩める事なく、火力を正面に集中し、一点突破を図った。敵艦隊は突然の攻撃に包囲を形成する艦艇が多少混乱したものの、冷静に対処していく。包囲網の大きさを広げ、小西達も取り込まんとしているが逆にそれは小西の思う壺。小西は離反した5隻に対して呼びかけを行う。
「お前ら、今は何も言わん。助かりたければ俺について来い。」
そう言うと航海長に
「取舵15°、敵包囲下より離脱せよ。」
と指示した。3隻程度は小西達に撤退同調したものの、後2隻は強情にもそれに反応せずそのまま砲撃を続行している。小西はその2隻には目もくれず
「進路そのまま、可及的速やかに包囲下より離脱せよ。」
と再び指示、どうにかして包囲網からの離脱を試みた。だが、敵艦隊の狙いはあくまでも旗艦である諏訪であり、みすみすと彼らの包囲に嵌った諏訪を逃すはずが無かった。既に先程の超巨大戦艦の砲撃が掠めた事で魔導艦体防壁の耐圧限界値を突破していた諏訪は防壁を展開する事ができず、一方的な砲火に晒された。諏訪も必死の反撃を続けるが次々と被弾してしまう。
「第二デッキに被弾!火災発生!」
「下部VLSに被弾、使用不能!」
「第3主砲に被弾!第3主砲沈黙!」
艦体だけでなく、主砲などの兵装にも敵の砲弾が命中し、大きな火柱を上げる。被弾の度に艦体が大きく揺れ、死傷者の報告が相次ぐ。だが、包囲下におかれた諏訪は何もする事が出来ず、必死に使用可能な砲門で迎撃をしていくしか無かった。敵艦隊は、これぞ好機だと言わんばかりに今度は、諏訪と他の艦との分断を図る。敵艦隊は先頭を行く諏訪の次に位置している羽黒に砲撃を集中させると、羽黒はたまらず後ろへ下がって行く。捕食者となった敵艦隊は生じた隙を逃さない。元々羽黒がいた空間に敵艦十数隻が雪崩れ込み、あっという間に諏訪と他の艦を分断してしまった。諏訪1隻に対して百余隻の敵艦が襲いかかる。諏訪の迎撃を無駄と嘲笑うかの如く、敵艦隊の群れからはビーム砲が降り注ぎ、艦と艦の合間を縫ってミサイルも飛来していく。その様子は、まさに地獄の様相を呈していた。
諏訪は主砲も、宇宙魚雷も、コスモスパローも、更には対宙機銃ですらも動員して迎撃を行うが、それでも迎撃はしきれておらず、次々と被弾していった、その時。一際大きな爆発音が諏訪艦内に響き、艦が大きく揺れた。何事だ、そう小西は言おうと思ったが、目の前のモニターに映された艦首映像を見て全てを察した。目の前には大きな穴が空いており、そこは元々第二主砲があったところだった。これはつまり、第二砲塔が被弾により誘爆し、砲塔が吹き飛んでしまったと言う事を表しており、艦の抵抗力が大きく削られたと言っても過言では無かった。誘爆により、側面にも大きな穴が空き、著しく航行や戦闘に支障が出ている。だが、それを応急修理する余裕すら、諏訪には無かった。被弾があまりにも多く、応急工作班の手が回っていないどころか、応急工作班が作業しているところへ再び被弾するような事が多々ある為、最早修理どうこうと言っている場合ではなくなってしまったからだ。小西は目を瞑り、ここからどうすべきか考えた。だが、この状況で、空間にも制限があるこの場所で打開策を打つ事はできなかった。被弾で艦体が軋む音が何度も小西を襲う。それが小西を一層焦らせるも、やはり何も浮かばない。小西は死んでしまったかのように艦長席で腕を組んで固まってしまっていた。全員が小西司令はもう完全に諦めたのだ、そう思っていた。だが、急に小西は立ち上がると、大きな声で叫んだ。
「機関停止、自由落下に入れ!」
全員がその言葉にギョッとする。ついに気でも狂ったのか、そう思ったのだが
「本艦はこれより自由落下し、海面スレスレまで降下する。高度50を切ったら機関を再始動させ、反転。追撃してきた敵艦を一挙に殲滅、可能であればその後超巨大戦艦へ向けてクォーク振動砲を発射する。その為、自由落下中はクォーク振動砲の充填をしろ!」
艦体の損傷を鑑みるにかなり一か八かの賭けであったが、航海長は質問をする事なくすぐにエンジンの推量を0にし、自由落下に入った。激しいGが乗組員を襲う。
「総員、耐衝撃姿勢を取れ!クォーク振動砲発射準備!」
阿部が乗組員にそう指示するが、それでもかなり苦しい事に変わりはない。
「高度2300…。高度1850…尚も降下中…!」
航海長が歯を食いしばりながら報告を続ける。
「敵艦はどうなっている!」
そう小西が尋ねると
「敵艦約100隻、本艦上方から追いかけてきます!」
と言う報告。相手はまんまと小西の策略に嵌ったのだ。小西は安堵しつつ気を失うまいとGに耐え続け、やがて
「高度50、エンジン再始動、上昇、転舵反転!」
と言う報告と共にエンジンに再び火が入り、エンジンノズルから火を噴き出しながら諏訪が降下から上昇へ転じた。その際に生じるGはこれまでのものより遥かに厳しかったが、それでも乗組員全員が歯を食いしばって耐え、遂に追撃してきた敵艦を照準に収めた。
「全兵装使用自由!撃ち方始め!」
アリアが敵艦が照準に収まった事を確認すると間髪入れずに叫んだ。使用可能な1,4番主砲や側面宇宙魚雷発射管、VLSから一気に弾が飛び出し、敵艦へ向け爆進していく。そして、命中。降下しながらの追撃で回避など碌に考えていなかった敵艦はモロに攻撃を喰らい、他の艦を巻き込みながら爆沈した。だが、それでもまだ追撃してくる敵艦の数は多い。奴らの射程に入る前に全艦撃沈せねば、ここまで耐えてきた意味がなくなる。小西は
「限界を超えてもいい。射撃速度を20%上げろ。」
とアリアに指示、アリアはそれに頷き、各砲座へそれを指示する。射撃速度を20%上げた事で敵艦の撃破数は格段に上がっていったが、しかしそれは艦の限界を超えての射撃でありいつかリバウンドが来る。小西はそれをわかっていつつもとにかく敵艦の撃破を優先した。暫くして
「追撃してきた敵艦、全滅!」
との報告が入った。艦内はたちまち大歓声に包まれるが、この作戦はまだ終わっていない。
「航海長、艦首を敵超巨大戦艦に向けろ。砲雷長、スペースサイトオープン、コスモスクリーン展開。敵超巨大戦艦を照準に収めろ。」
すぐに小西はそう指示し
「宜候。右回頭85°、操艦を砲雷長へ委譲します。」
と航海長が艦を操る。次にアリアが
「スペースサイトオープン。コスモスクリーン、展開確認。目標、敵超巨大戦艦。エネルギー充填120%。照準誤差修正-1,3、照準固定。」
と報告、超巨大戦艦を照準に収めた。小西は間髪入れず
「クォーク振動砲、発射!」
と叫ぶ。すぐにアリアが引き金を引き、諏訪の傷ついた艦体から極太のクォークの束が放たれた。螺旋状の純白の束は超巨大戦艦へ向けて爆進し、命中。大きな音ともに付近に大きな閃光を放った。周りからは煙が漂い、いくつかの破片が飛び散っているのが見える。
「やった!遂に、やったのよ!なんだ、大した事無かったじゃない!」
アリアが閃光防御ゴーグルを勢いよく取りながら大はしゃぎする。他の乗組員も、勝利を確信し、背もたれにぐったりともたれかかる人や額に滲んだ汗を安堵の表情を浮かべながら拭う人もいる。小西も、大きく息をついて、もう一息だ、意外となんとかなりそうだ、そう思っていた。
しまなみでも、超巨大戦艦にクォーク振動砲が命中した事を確認すると歓喜の声が湧き上がった。乗組員が叫び回る中、杉内と桐原も無言で拳を突き合わせる。まるで、やったな、と言わんばかりに。だが、勝ち誇った瞬間も夢のまた夢だった。突如、閃光の中から巨大なビーム砲が飛来し、諏訪の側面を掠めていった。掠めただけであるのにも関わらず、凄まじい振動が諏訪を襲い、再び非常事態を示す赤色灯が灯り、アラートが鳴り響く。それと同時に、掠れた声で電探士が言った。
「…敵…。超巨大戦艦の健在を…確認…。」
その言葉に全員が戦慄した。
「嘘…。嘘に決まってるわ…。クォーク振動砲の直撃を受けて生きているなんて…」
アリアは信じられないというように震えた声でそう言い、ヘナヘナとその場にへたり込んだ。絶望に飲み込まれたのはアリアだけではない。小西も、阿部も、CICで勝利を確信した誰もが、何度目かわからない絶望のどん底へまた叩き落とされた。



超巨大戦艦アザゼルの艦橋内では、シュターリンがこれは愉快とばかりに不気味笑っていた。