敵機の接近は防衛艦隊も察知していた。
「杉内!奴らを主力戦隊に近づけるな!全力で撃ち落とせ!」
それを聞いた杉内は駆逐艦しまなみ艦橋で杉内はめいいっぱい叫ぶ。
「了!直掩戦隊に告ぐ!全艦鶴翼陣!敵機を囲むように陣を取れ!敵機を近づけさせるな!VLS全開放、三式弾撃ち方始め、乱れ撃ちだ!」
それを聞いた直掩戦隊各艦は単縦陣から鶴翼陣に陣形を変更し敵機に向かって突撃していく。
「コスモスパロー照準、敵編隊中心部!一斉撃ち方!撃ち方始め!」
合図により一斉発射されたコスモスパローが敵編隊の中心向かって爆進し、編隊の真ん中で爆ぜる。爆発した破片が周辺の敵機をも巻き込み、一段と大きな爆発を生む。
「敵機52機撃墜!されど未だに敵機編隊戦闘能力保有!」
最初の攻撃で敵機をかなり撃墜したが、それを回避した敵機はまだまだ200機以上いる。まだまだ一息つくには早い。
「コスモスパロー装填の穴を埋めろ!宇宙魚雷撃ち方始め!敵編隊の目の前で自爆させろ!」
艦首から一斉に放たれた宇宙魚雷もまた敵編隊に向けて爆進し、これは敵編隊の目の前で自爆、それによる破片で敵機を撃墜しにかかる。
「敵機69機撃墜!」
「まだだ、敵編隊との距離は!」
「敵編隊との距離168000!三式弾射程まではまだあります!」
それを聞いた杉内は数秒考えて告げる。
「主砲弾種クォークビームへ、切り替え!」
「しかし艦長!クォークビームは一直線上に並んだ敵には効果がありますが、今回のように編隊が広く、薄く広がっている場合では…!」
「それが三式弾射程まで攻撃を実施しない理由になるのか!いいから早くしろ!」
「よ、ヨーソロー!主砲弾種クォークビーム!撃ち方始め!」
コスモスパローも宇宙魚雷も装填中で三式弾射程までまだ距離があると思って油断していた敵編隊は突如放たれたビーム砲に全く対応出来なかった。少し密集し過ぎていた敵編隊は回避行動もままならずビーム砲の餌食となる。だが、それも一発目のみ。二発目以降は敵編隊は間隔を広く取り、殆ど撃墜できずにいた。だがそれも対空兵装が再装填できるまでの間。
「コスモスパロー装填完了!ターゲット照準完了!」
「各艦コスモスパロー1〜8番セル撃ち方始め!続き9〜16番セル撃ち方始め!主砲手を止めるな!撃ち続けろ!」
コスモスパローが再び敵編隊に向けて飛んでいく。
「インターセプト5秒前!4,3,2,1、マークインターセプト!敵機42機撃墜!」
だが敵機もやられっぱなしではない。もっている対艦ミサイルの射程に入るとそれらをとにかく撃ち込み始めた。それは当然直掩戦隊も把握している。CICに表示されている電探の光点を見て電探士が叫ぶ。
「敵編隊攻撃を開始しました!」
それを聞いた杉内は立ち上がって
「各艦、対空防御!近接防御火器始動、魔導艦体防壁展開!」
と指示する。各艦の対宙機銃が火を吹き、しまなみを除く直掩戦隊各艦は魔導艦体防壁を展開する。戦況は直掩
戦隊有利な状況から、敵機編隊有利な状況に一変していた。だが、あくまでも敵編隊の攻撃目標は直掩戦隊ではなくクォーク振動砲を撃ち続ける主力戦隊である。主力戦隊に近づかせんとする直掩戦隊と主力戦隊に一撃入れんとする敵機編隊との戦いは一歩も譲れぬ一進一退の攻防となっていた。直掩戦隊を無視して素通りしようとする敵機に対して熾烈な対宙機銃弾の嵐が降り注ぎ撃墜されていくがなんとしても直掩戦隊を突破せんという敵機の攻撃は魔導艦体防壁の持っていないしまなみに集中し、しまなみにかなりのミサイルや機銃の雨が降り注ぐ。
「桐原!あとどの程度耐えられる!?」
「わからん!だが状況が最悪なのは事実だ!正直今からでも戦隊旗艦をオスヴァルドにでも移すことを薦めるが。」
「アホ抜かせ!お前俺よりも長くこの艦で航海長してんだろ!その腕の見せ所を作ってやってんだ!感謝しろ!」
「ケッ、そう言ってくると思ってたぜ!全く、人使いの荒い砲雷長だな!」
「砲雷長じゃなく艦長だ!いい加減にしろ!てかお前そんな軽口言ってる位ならさっさと敵弾を回避してくれ!」
「ほんっとに人使い荒いな、この野郎!」
他の乗組員が冷や汗を流しながら指示を出しているのに対し、杉内と桐原だけは軽口を叩きながら回避行動をしたり指示を飛ばすという余裕ある行動を見せていた。その様子に他の艦橋乗組員は頼もしさを覚えながらそれぞれの部署に指示を出す。だが状況はやはり圧倒的に直掩戦隊が不利であり、未だ一機も主力戦隊に近づけていないものの完全に防戦一方であり、既に敵編隊は三式弾の射程に入り直掩戦隊も三式弾を乱射しているもの状況は改善せず、やはり一進一退の攻防が続いていた。


一方、オーガスタ艦橋では、攻撃隊隊長の僚機から送られてきた映像を見てエルンスト中将は憤慨していた。
「こんな簡単な子供騙しに我々は混乱させられていたのか…!」
彼は自身に苛立ちを隠せなかったが、しかし今は戦闘中であり怒っている暇などない。エルンスト中将は今の防衛艦隊の様子を艦隊所属の各艦に送信し今後の方針を話す。
「敵防衛艦隊の作戦はこのような単純なものであった。我々はこんな戦術に踊らされていたのだ。俺の指揮能力の低さを責めてくれ。本当に申し訳ない。」
そう言ってモニターの前で深々と頭を下げる。そしてゆっくりと頭を上げると魂の籠った大声で言った。
「だが、その代わりと言ってはなんだが俺は奴らの兵器の弱点を見出した!奴らの大量破壊兵器は威力が絶大な分、充填までそれなりの時間がかかり、高速で接近する物体を照準することは殆ど不可能に近い!我々はその弱点を突く!全艦、敵防衛艦隊に向けて、突撃!防衛艦隊を包囲せよ!」

その掛け声と共に全ての艦が防衛艦隊に向けて突撃を開始した。防衛艦隊は冷静にクォーク振動砲を発射するが、放たれたクォーク振動砲はやはり超高速で接近する敵艦一隻たりとも仕留めることは出来なかった。

「敵艦隊に動きあり!敵艦隊、超高速で移動中!本艦隊を包囲する構えです!」
諏訪のCICに電探士からの報告が響き渡る。
「敵艦隊、さらに増速!間も無く敵艦隊の射程内に入ります!」
さらに電探士は報告を続ける。小西は矢継ぎ早に報告される情報を聞きながら頭をフル稼働させ、今取るべき行動とその後どうするべきかを考え
「全曳航艦に通達!全艦、一斉曳航開始!第二防衛ラインまで後退せよ!直掩戦隊に告ぐ!全艦、敵編隊との交戦を切り上げただちに主力戦隊と合流せよ!その際、敵機が漏れてきても構わない!主力戦隊全艦、クォーク振動砲エネルギー充填中止!通常電力の復旧急げ!」
そう命令する。それを聞いた直掩戦隊…第一宙雷戦隊指揮官杉内は
「聞いたな!各艦、煙幕展開!転舵反転!主力戦隊と合流急ぐぞ!」
と各艦に指示した後
「桐原!この艦が壊れても構わない!最大戦速で主力戦隊へ戻れ!」
と桐原へ叫ぶ。
「任せとけ!」
頼もしい声を響かせて桐原が返事する。敵編隊攻撃開始からすぐ標的にされていたしまなみは中破の損害を被っていたが、逆に言えば桐原でなければ中破で留めておくことは出来なかったかもしれない。杉内は改めて桐原の操艦の腕に感嘆すると共に他の艦艇の被害状況についてもざっと目を通す。
「しまなみ、夕凪が中破、オスヴァルド小破、神風は無傷、か。」
そう呟いた杉内は改めて残存艦艇の少なさに絶望しかけるがまぁ敵機も通さなかったし上出来だと思いつつ主力戦隊へ急ぐよう重ねて指示した。
一方、曳航を担当する第二宙雷戦隊の旗艦ディ・イエデでは、戦隊指揮官堀が後退位置の確認を再確認し各艦に通達していた。
「全艦、指示通り第二防衛ラインへ!先程射撃を行った主力戦隊第二群を曳航する各艦は通常の2倍の速度で曳航を開始、主力戦隊両群を急ぎ合流させよ!」
曳航艦各艦は艦尾から炎を噴き出しとにかく急いで後退する。猛烈な速さで後退していく主力戦隊の様相は敵艦隊から見ると異様なものに映った。すぐに曳航艦の働きでひとまず主力戦隊は合流するが
「敵駆逐艦戦隊急速接近!数20!既にVLS射程内通過!あと30秒で接触!」
主力戦隊と第二宙雷戦隊の各艦のCICにそれぞれの電探士からの報告が飛ぶ。
「直掩戦隊、合流まであと5分!直掩戦隊による迎撃は不可能!」
諏訪CICでは追加の報告が飛ぶ。全員が混乱しかける中、小西は冷静だった。元宙雷戦隊司令官としての勘なのか、小西には駆逐艦隊を絶対対処できるという自信があった。だが、時間がない、ギリギリの戦いなのは変わらない。
「主力戦隊各艦、主砲実体弾装填!各艦、個別に照準、統制射撃を実施!復唱は要らん!」
「主砲1番2番照準合わせ!目標、敵駆逐艦隊3番艦!」
「各艦からの照準情報出揃いました!重複認められず!」
「よし!全艦、主砲撃ち方始め!」
「撃て!」
主砲から発砲炎が立ち上り、敵駆逐艦隊へ向けて砲弾が突き進む。
「敵駆逐艦8隻撃沈!されど残存する12隻、尚も接近!」
「主砲再装填急げ!尚、以降再装填完了した艦から各個自由射撃を実施せよ!返事は不要だ!」
「敵駆逐艦隊からの魚雷発射を確認!数40!」
「対宙機銃、全力射撃!対宙防御!」
主力戦隊各艦から激しい機銃の嵐が放たれる。猛烈な対宙射撃は1本、また1本と魚雷を撃墜していく。
「敵魚雷無効化を確認!続き羽黒の砲撃で敵駆逐艦1隻撃沈!」
「主砲再装填完了を確認!」
「主砲照準完了!撃ち方始め!」
「敵駆逐艦1隻撃沈!されど敵駆逐艦からの砲撃及び魚雷発射確認!敵砲火あと3秒で弾着!」
「曳航艦各艦へ伝達、取舵3°、回避行動急げ!」
だった3秒で何ができる…。主力戦隊のどの乗組員も被弾を覚悟したが、意外にも敵の砲火は曳航艦の巧みな操艦により主力戦隊の側面スレスレを通過、被弾は免れた。その様子に主力戦隊乗組員は大いに沸き立つ。
「回避行動成功!しかし、このままではジリ貧です!」
だが、電探士には絶望の表情が滲み出ていた。電探士だけではない。CICにおり、否が応でも現実を突きつけられる艦橋乗組員には、絶望と、疲れが織り混ざったような顔を浮かべていた。しかし、小西は逆に笑みを浮かべている。その様子に艦橋乗組員は不審がる素振りも見せた。だが、その理由はすぐに全員の知るところとなった。