「オーガスタ」艦橋では、エルンスト中将が防衛艦隊の意図に早くも気づいていた。
「奴らは我々を丁字戦法で封じ込める気だ!第151駆逐戦隊と第98駆逐戦隊、第2戦艦戦隊は第二戦艦戦隊所属「スロイス」を旗艦とし、分艦隊として直ちに敵艦隊正面へ移動。敵艦隊に逆丁字を打ち込んでやれ!」
その指示で5隻の戦艦と20隻の駆逐艦が本体から離れ、防衛艦隊の頭を押さえ込もうと動き出す。

だが、その動きは小西の想定範囲内だった。もとより敵の艦隊が大規模であることも、敵が機動性を生かして逆丁字を仕掛けてくることも予測済みだった小西はある布石を用意していた。そして、3つの戦隊…しかも戦艦を含む…が本隊から離脱した時
「宙雷戦隊全艦、攻撃始め。」
とマイクに向けて静かに言った。瞬間、ディ・イエデの裏側から宙雷戦隊がデルタ陣形を組み、敵艦隊から離脱してきた戦隊へ向けて突撃を敢行してきた。ディ・イエデを一周して敵の下方かつ敵からのレーダーが届かないディ・イエデの裏側に待機していた宙雷戦隊からの突撃は、ある意味では突き上げ攻撃のような様子となった。無防備な敵艦下部目掛けて宙雷戦隊が喰らいつく。
「全艦、VLS、艦首魚雷発射管及び正面砲塔撃ち方用意!撃ち方始め!」
宙雷戦隊旗艦のしまなみCICで杉内が体にかかる凄まじいGに耐えながら大声で叫ぶ。杉内も、この海戦がこの戦争の明暗を分けるということを理解していた。不意を突かれた分艦隊は下部の敵に砲門を指向する暇もなく、次々と爆炎に包まれた。
「戦艦2、駆逐艦4撃沈ないし大破を確認!」
一度目の突撃で6隻の艦を撃沈に至らしめた宙雷戦隊の攻撃はまさに鬼神の如きものであった。だが、宙雷戦隊を敵分艦隊が放っておく筈がない。

分艦隊旗艦「スロイス」艦橋では、スロイス艦長のニコラが怒号を飛ばしていた。
「奴を許すな!分艦隊上方へ退避していく敵宙雷戦隊に砲火を浴びせろ!」
と、離脱していく宙雷戦隊に攻撃しようとするも
「ニコラ!冷静さを欠くな!貴様が今すべきことは敵宙雷戦隊の迎撃ではなく、敵主力戦隊の頭を抑えることだ!忘れるな!奴らには別の駆逐艦隊を派遣する!」
と通信でエルンスト中将から説教され少し苛つきながらも
「…承知いたしました。」
と言い、主力戦隊の頭を抑えることを続行した。


杉内は敵分艦隊が逆丁字を続行していく様子を見て
「クソ、俺達に喰らい付かなかったか!」
と言い、歯軋りした。
「もう一回だ!今度は敵分艦隊上方より突撃を敢行する!全艦、転舵反転!」
そう指示し、再びデルタ陣形をとり、今度は上から突撃を敢行しようとする。
だが、それは敵の思う壺だった。敵艦が宙雷戦隊の射程圏内に入るかというその時
「右舷に敵駆逐艦20、ワープアウト!」
という悲鳴にも似た報告がしまなみCICに響いた。瞬間、突撃の為全てのエネルギーを推進力に割いてきた無防備な宙雷戦隊の至近に敵駆逐艦隊が出現、雨霰というビーム砲、ミサイルの弾幕を浴びせた。爆炎が宙雷戦隊を包む。
「駆逐艦ニオべ被弾、爆沈!朝霧被弾!ダメージコントロール成功なるも機関損傷、操舵不能!戦隊から落伍!アマゾーネ、被弾!戦列を離れる!」
被害報告がすぐに飛ぶがしかし
「進路そのまま!突っ切れ!」
と杉内は指示。ついに敵分艦隊を射程圏内に捉えたが、今度は敵分艦隊が一斉にVLSを放つ。宙雷戦隊は巧みにそれを躱しながら全武装を斉射する。その攻撃で敵駆逐艦8隻を撃沈したが、その代償として背後からは敵駆逐艦隊が迫ってくる。杉内は全力離脱を指示しつつ、先程の敵駆逐艦隊による攻撃の被害を電探士に尋ねた。
「先程も申し上げました、ニオべは爆沈。戦列から離れたアマゾーネ、朝霧も奮闘虚しく先程撃沈されました。他にも駆逐艦ディ・イエデが側面を抉られ中破、夕凪が第二砲塔に被弾したことにより第二砲塔が使用不能、ファルケンが三発被弾するも損害軽微ということです。」
その報告を聞いた杉内は一気に3隻の艦艇を失った杉内は言葉を失うも今ここで悔やんでいる暇はなかった。
「敵駆逐艦隊さらに接近!間も無く敵射程圏内!」
離脱の為、推力へ全エネルギーを割いている宙雷戦隊は主砲が使えない。ここは、エネルギー消費量が少ない魚雷で対抗するしかなかった。
「艦尾魚雷発射管開け!撃て!」
杉内からの号令で宙雷戦隊全艦は艦尾から魚雷を一斉に放つ。それらは一直線に敵駆逐艦隊へ向かって行く。敵駆逐艦隊は迎撃しようとする様子もなくそのまま魚雷の群れへ突っ込んでいった。
「魚雷全弾命中!敵駆逐艦4隻撃沈!」
敵駆逐艦隊は魚雷攻撃で4隻を失うも、先頭の艦が可能な限りの魚雷を受け止めることで駆逐艦隊全体の速度を落とすことなく、犠牲を最小限に魚雷軍を突破した。その様子を見た杉内は
「両舷爆雷投射機スタンバイ、投下始め!」
と指示した。瞬間、艦尾の扉が開き、何やらドラム缶状のものが放り出されたかと思うとそのまま漂い続けた。そして敵駆逐艦隊が近くを通りかかろうとしたその瞬間、大きな爆発とともに起爆した。その爆発は密集隊形で突撃してきた敵駆逐艦にとって大打撃となる。
「爆雷全弾の起爆を確認!敵駆逐艦5隻に命中!その他敵艦艇同士の衝突で6隻撃沈!」
一気に11隻を撃沈された敵駆逐艦隊にはあと5隻しか残されていなかった。だが、それでも敵駆逐艦隊は追いかけるのをやめない。5隻になった敵駆逐艦隊は間隔を広く取りつつも互いをカバーできる陣形を取り直し、さらに接近してくる。杉内は
「奴ら、まだ追いかけてくるつもりだ!目標の奴とは違うが奴らをこのまま主戦闘宙域から引き剥がしたところで撃沈、次の指示を待つ!」
と言い、進路そのままに戦闘宙域より離脱した。


一方の主力戦隊と敵分艦隊、本隊との戦いは地獄の様相を極めていた。主力戦隊の正面には敵分艦隊が、側面には敵本隊が陣取り、熾烈極まりない砲撃を浴びせてくる。主力戦隊各艦はそれぞれの目標に向けてとにかく射撃続けているが、一向に活路が開ける様子はない。
「司令!クォーク振動砲を放ちましょう!このままでは埒があきません!」
通信で羽黒艦長である佐川一尉が小西に具申するも
「ダメだ。クォーク振動砲は発射後に何もできなくなる。一方的に狙い撃たれて撃沈される事になるぞ。しかも、敵艦隊は前回の戦いから学んだのか、艦との距離をかなり広く取っている。いくらクォーク振動砲に拡大作用があるとはいえ、これ程の間隔なら4分の1やれるかどうかもわからない。よって、合理的ではない為その具申は受け入れられない。」
と言った。しかし、このままでは限界を迎える事もまた事実だった。現に、もう既に主力戦隊全艦が魔導艦体防壁を使っており、1番初めに展開したティーティスの展開可能時間は残り5分となっていた。限られた時間の中で打開できる方法を小西は考えていたが、しかし具体的な方策が思い浮かばないまま時間が過ぎていく。やがて。
「ティーティスの魔導艦体防壁、消失!」
という電探士の悲鳴と共にティーティスが爆炎と共に左に傾いた。ティーティスの艦側面が煙をあげ、煙の隙間から大きな穴が空いている事がわかった。敵の砲火が防壁の切れたティーティスに段々と集中していく。正面と左側から砲火を浴びているティーティスは必死に応戦するも敵の砲火は全く減る事なく、砲火がティーティスに雨のように降り注いでいた。
「ティーティスの被害状況、極めて深刻!このままでは5分と持ちません!」
電探士からの報告は小西を一層焦らせる。どうにかしなければ。そう焦るも何も思い浮かばず、ティーティスの被害は尚も増していくばかりであった。ティーティスが爆炎を上げながら左に傾いていく様子は小西の心を負の思考に引っ張っていく。もうダメか…いや、寧ろここまでの大艦隊相手にここまで戦ってこれた事の方が運が良かったのかもしれん。俺は元々宙雷屋。敵陣に突っ込んで魚雷をばら撒く事しかやってこなかった人間だ。そんな人間が艦隊を率いてここまでやってこれた、それだけでもう十分じゃないか。しかも、俺たちの目的はこの国の人々を全員救うつもりだったのに、逆に死へ赴かせる結果となった。救うつもりの世界にすら裏切られ、もう何もする気も起きない。もういい。後はここで果てるだけ…。そう思い小西が目を閉じた時、目の前に不思議な、しかしどこか見慣れた光景が広がった。
「これは…夢なのか…?」
そう小西が呟く。小西は戦艦諏訪CICの艦長席に座っていた筈だが、目の前に広がっていたのは、やや金色に輝く世界だった。誰もいない世界だったが、モノは様々なモノが置かれていた。そのモノを見て小西は気づいた。ここが艦の艦橋である事を。小西は金色の艦橋を舐め回すように見ながら壁にゆっくりと近づき、しゃがんで足元の壁をよく見る。すると、一部金色が黒ずんでいるのが分かった。…錆びついているのか。そう思った。立ち上がって金色の世界を見渡す。至る所が黒ずんでおり、古めかしい印象を受ける。…コレだけ錆びついている辺り、艦齢は50年を超えているのだろうか。かなりの老朽艦だな、と思った。小西が辺りを彷徨きながらを見回していると不意にある座席を見て思い出す。あぁ。思い出したぞ。コレは。この座席は。この艦橋は。この艦は。忘れもしない、俺の青春の全てが詰まった艦の艦橋だ。練習艦「あすか」…。懐かしい。昔ここで教官からいろんな事を教わったもんだ。そう思いつつ小西は地面にゆっくりと座り込んだ。…所謂これが走馬灯という奴なんだろう。俺は、もう死ぬのだな。確かに、諏訪の魔導艦体防壁ももう切れる。ティーティスの次は旗艦である諏訪が狙われるだろう。少し早い走馬灯なような気もするが、いいじゃないか。そう思って近色の天井を眺めていた時、どこか懐かしい、しかし背筋が震えるような声が聞こえた。その言葉は小西を心から震わせた。
「狼狽えるな!」
何度も、何度も、その声が金色の艦橋に鳴り響く。そうだ。『狼狽えるな』だ。この言葉は昔、あすかが演習中、操艦ミスでブラックホールに引き摺り込まれそうになった時、教官自身が舵を握りながら我々生徒に向けて言った言葉だった。それ以降、教官はことあるごとに『狼狽えるな』と我々に言ってきた。その言葉をどうして忘れていたのだろう。小西はゆっくりとその場から立ち上がる。ここにいちゃいけない。まだやる事がある。そう思ったその瞬間、背後から気配を感じた。それを感じた小西は勢いよく振り返る。そこにいたのは、『教官』だった。体が金色に輝いている為、実際にそこにいるわけではないことは容易に想像できたが、しかし、その『教官』は、小西が防衛学生だった頃に向けていた目と同じ目を向け、何か言いたそうな顔をしながら立っていた。『教官』は何も言うことはなかったが、小西には『教官』が何を言おうとしているのか、わかる気がした。小西は、動くことのない、金色の教官に向けてポツリポツリと話し始めた。
「教官…。分かっていますよ。諦めるなと。意志を最後まで、責任もって貫き通せと。そう言いたいのでしょう。…分かっていますよ。…約束は…守ります。」
そう言って『教官』を見る。『教官』は動くことはなかったが、小西に笑いかけているように見えた。小西はゆっくりと目を閉じながら思いを整理する。
そうだ。もし、諏訪に俺しかいないのであれば、弱気になろうがならまいが関係はないのかもしれない。だが、現実には諏訪には多くの乗組員がいて、その乗組員には家族もいる。…彼らを無事に家族のもとへ返すのが俺の、司令官としての使命だ。
気持ちを整理し終わり、目をゆっくり開く。小西は『教官』に敬礼をして、教官の前から去ると、ゆっくりと、しかししっかりとした足取りであすかの艦長席へ向かった。小西は艦長席に座ると、覚悟を決めて、ゆっくりと目を閉じた。
目を開けた時、諦めかけて目を閉じた時と何も状況は変わっていなかった。ティーティスは撃沈寸前まで追い込まれ、諏訪の魔導艦体防壁も切れかけている。何も変わらない状況。だが、一つだけ違うものがあった。小西の思いだ。よくわからない空間に引き摺り込まれたおかげで、小西の思いはプラスの方へ向いていた。小西は、何か打開策がないか、考えつつ辺りを見回す。すると、ふと小西はティーティスの被弾痕を見てある事を思いついた。コレなら、いける。現状を打開できる。そう思った小西はマイクをとって告げた。
「全艦に告ぐ。主力戦隊全艦、両方の敵艦隊に対して被弾面積が1番小さくなる方向を向き、最大出力で後退を開始せよ。宙雷戦隊、直ちに主力戦隊戦闘宙域へ合流せよ。」
そう言った後、小西は計画を説明する。被弾面積が1番少ない状況でとにかく主力戦隊は逆噴射で後退する。この間、主力戦隊は可能な限り被弾を避け、砲撃は後回しとする。そこへ、宙雷戦隊が合流し、巡洋艦一隻あたり駆逐艦1隻、戦艦一隻あたり駆逐艦2隻で主力戦隊を曳航、母港までそのまま後退する。というものだった。あまりにも奇想天外な作戦。だが、それを聞いた杉内は、やる気満々だった。
「現在、宙雷戦隊は9隻健在、内一隻が中破状態です。6隻で曳航して3隻で護衛すればいけます!やりましょう!」
そう杉内が叫ぶ。そこへ落ち着いた声が聞こえた。
「小西君。」
声を発したのはティーティス艦長のモンナグだった。落ち着いた声で、淡々と話す。
「本艦の被害は極めて大きく、推力も通常の5分の1ほどになり、使用可能な砲門も主砲1基ほどしかない。…小西司令。我々、重巡洋艦ティーティスがこの場に残り、敵艦隊を食い止める。…その隙に残存する主力戦隊を率いて母港まで撤退し給え。」
その言葉に小西は大きく身を乗り出した。
「モンナグ隊長!」
そう叫んで立ちあがろうとする小西をモンナグは制止する。
「小西司令、良いか。今、何が最善か考えるんだ。この状況で全ての艦が帰還できるわけがない。で、あれば可能な限り無傷な艦を母港へ返した方が良いに決まっている。…小西司令。貴方なら分かるはずだ。この場合の最善策がこれしかないと。」
「モンナグ隊長、お願いですから、戦場に巣食う死に魅入られないで下さい。あなたほど戦場に慣れた人なら分かるでしょう。人は、戦場で窮地に立たされれば立たされるほど周りの人間を救う為に自らを犠牲にする人がいる事を。モンナグ隊長、貴方は今まさにその自らを犠牲にする人になっている。貴方はまだここで死んではいけない人だ。この国の人間は、貴方を必要としているのです!」
「小西司令、そう言ってくれて私は嬉しいよ。だがな、分かってくれ。確かにワシは死に魅入られてているのかもしれん。だが、今ここで誰かが殿を務めねばならん。その役にはもう使い物にならないこの艦が1番じゃ。」
「ではせめて、貴方だけは退艦を…。」
そこまで言って小西は口を塞いだ。…この発言は、命の分別に繋がる。こんな事は考えてはならない。寧ろこんな事が頭に浮かんだ俺が恐ろしい。そう思っていると
「小西司令、それができない事は君が1番分かっているはずだ。…ここは、私らに任せて、君達は行き給え。」
静かな世界が諏訪のCICに訪れる。小西は肩をわなわなと震わせながら自らの指揮能力の無さを叱責した。そもそも、所属艦が5隻しかいない状況で丁字戦法をするなど無理があったのだ。例えば宙雷戦隊の援護があったとしても。その間にもティーティスに砲撃が集中し、ティーティスが爆炎を上げる。モンナグは小西が自らを責めている様子を見てゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…小西君。私は君はどちらかと言えば軍人というよりも人格者だと思っとるよ。…君に人殺しは似合わない。…この戦争が終わったら、陛下の手助けをしてやってほしい。よろしく頼む。」
その言葉にアリアも立ち上がって叫ぶ。
「爺!」
その言葉にモンナグは笑顔を返し
「やっと、その名前で呼んでくれましたな。陛下。…実に10年ぶりですぞ。……死ぬ前にその言葉が聞けたこと、このモンナグ、一生の喜びとなりましょう。」
「爺、貴方はまだ逝ってしまってはいけない人よ。お願い…。」
「陛下、時に人は痛みを伴いながら成長していくものです。今から私は死にます。…それが陛下の子守役としての最後の仕事となりましょう。この私の死が陛下をさらに成長させると願っております。では。」
そう言い残しティーティスからの通信が途切れた。
「爺!爺!お願い!帰ってきて!」
アリアはマイクに向かって叫び続けるがティーティスからの応答はない。そんなアリアを横目に小西は命令を下す。
「宙雷戦隊の曳航担当の各艦、錨を下ろせ。錨ロケットエンジン点火、曳航する艦の側面に絡ませろ。ティーティスを除く主力戦隊各艦、機関逆進、後進最大出力。現宙域より離脱する。」
その言葉にアリアは小西を睨みつける。
「小西…!」
それを無視した小西は指示を続ける。
「主力戦隊、後進しつつ面舵5°、被弾面積を最小にせよ。」
「味方宙雷戦隊、本戦隊直上!突っ込んできます!」
電探士が報告してすぐ、宙雷戦隊は全速力で主力戦隊のもとへたどり着かんとしていた。体全体にかかるGを受け止めながら、杉内は叫ぶ。
「艦首艦底部スラスター、最大出力!全艦、主力戦隊の後ろにつけろ!」
そう叫んだ瞬間、艦に今まで経験したことのないようなGがかかる。杉内他宙雷戦隊全乗組員は必死に歯を食いしばってそれに耐える。死ぬほど長い時間にも思われたが、それもやがて終わり、艦が水平になった。杉内は矢継ぎ早に指示を出す。
「錨下ろせ!ロケットエンジン噴射角87°!曳航該当艦に巻き付けろ!」
宙雷戦隊各艦よりそれぞれ2本ずつ錨が放たれる。数秒間は虚空を漂い続けるも、ロケットエンジンに火が入った瞬間、物凄い勢いで加速、曳航該当艦の安定翼に巻き付いた。
「綾波、曳航準備完了!」
「敷波、曳航準備完了!」
「ファルケン、曳航準備完了!」
「アマゾーネ、曳航準備完了!」
「セティス、曳航準備完了!」
曳航を担当する5隻が配置につき、そして
「しまなみ、曳航準備完了しました。」
その報告を聞いた瞬間、杉内は叫ぶ。
「全艦、最大出力で曳航!一発たりとも被弾するな!」
その言葉に呼応するかのように、宙雷戦隊所属の各艦はエンジンノズルから火を大量に噴き出しながら加速していった。乗組員全員がティーティスに敬礼を送りつつ防衛艦隊は母港に向け爆進して行った。