第七章 終わりの始まり

会場内は多くの人で埋め尽くされていた。沿岸を一望できる位置に建てられた観覧席。そこからは、青い海が一望できた。だが、観客の狙いはそれでは無かった。会場のアナウンスが告げる。
「間も無く、第一防衛艦隊が到着致します。今暫くお待ちください。」
しばらくして、水平線の向こうに黒い点が現れた。その数、16個。それが見えた瞬間、その場にどよめきが起こった。それは水上艦艇とは思えない速度で観客席の方へ向かってきていた。
5分後、その場にいた全員が自然に立ち上がって大きな拍手と共に思い思いの言葉を叫んでいた。
巨大な艦を先頭に、両側面にやや小型―――と言っても、観客からしたらとても大きく見えた―――が、大きな波飛沫を上げながら進んでいた。巨大な艦の正面には大きな2つの砲口が穿たれ、観客を圧倒した。観客のムードが最高潮に達した時、アナウンスが響いた。
「我がディ・イエデ連合王国臣民の皆様、ようこそお越しくださいました!ただ今より、第一回王国防衛艦隊観艦式を行います!」
観覧席から大きな歓声が轟いた。やがて、それが落ち着くとアナウンスが再び入る。
「それでは、我が聖なる領土を護る、優秀な艦艇をご紹介致します!」
「第一防衛艦隊旗艦を務めます、諏訪型超弩級宇宙戦艦、諏訪!」
そのアナウンスがあった瞬間、諏訪は観客の目の前で大きく回頭した。大きな艦側面が観客の目に止まる。大きな3連装主砲塔。これでもかと張り巡らされた対空機銃。隙間なく刻まれた魔導艦体防壁の呪文。禍々しい印象を与える宇宙魚雷発射管やVLS。その全てが観客の目の前に迫り、観客は頼もしさどころかある種の恐ろしさも覚えた。諏訪が通り過ぎると、後続艦の紹介アナウンスが入る。
「続きまして、主力戦隊所属艦を紹介致します!ジュレーゼン型宇宙重巡洋艦、ジュレーゼン、羽黒、青葉、ティーティスです!」
紹介された4隻が順に観客の前を通り過ぎる。ジュレーゼン型は正面にクォーク振動砲を一門備え、通常武装には連装主砲塔上部正面二基四門、下部正面一基二門、上部後方一基二門を備え、多くの対空機銃やVLS、宇宙魚雷発射管を備え、艦側面には当然のように魔導艦体防壁の呪文が刻まれていた。戦艦と比べるとやや小型だが、それでも重要な中核打撃戦力となるのは、観客から見ても明らかだった。大きな歓声に包まれ、巡洋艦四隻は観客の前を通り過ぎていった。
「続きまして、宙雷戦隊の紹介です!まずはディ・イエデ型宇宙駆逐艦、ディ・イエデ、アマゾーネ、ニオベ、セティス、オスヴァルド、ファルケンです!」
紹介された6隻が綺麗な単縦陣で観客の前まで来たかと思うと、それぞれ少しズレたタイミングで回頭し、斜線陣になった。ディ・イエデ型宇宙駆逐艦には、クォーク振動砲は搭載されていないものの、上部正面に連装主砲塔一基二門、下部正面一基二門、上部後方一基二門を備え、側面には多数の側面宇宙魚雷発射管、正面、そして後方にも宇宙魚雷発射管を備え、見るからに重雷装艦であった。VLSの数は戦艦や巡洋艦ほどはないものの、対宙機銃の数はとても多く、単艦でも十分な対空射撃性能を持つ、とても優秀な艦であった。やがて、目の前をティ・イエデ型6隻が通り過ぎると、正面に、見慣れた艦影が見えた。それを見た観客は大きくどよめく。それを増長させるかのように、アナウンスが入る。
「それでは皆様、お待たせ致しました。観艦式の紹介最後を飾るのは同じく宙雷戦隊所属、我が国の希望、しまなみ型宇宙駆逐艦です!」
今までにないほど多くの歓声が観客席から吹き上がった。たった一隻で防衛艦隊が建造できるまでの間、この星を護り続けた、国民から最も信頼された艦。彼ら観客は、「しまなみ」を見るために集まったと言っても過言では無かった。そして、そんな彼らをさらに興奮させたのが、「しまなみ」の同型艦が建造されたという事実である。守護神「しまなみ」の同型艦がいるのであれば、必ず、此度の戦は勝てるであろうと、その場にいた誰もがそう思った。アナウンスが紹介を続ける。
「しまなみ型は合計で6隻!しまなみ、綾波、敷波、朝霧、夕凪、神風です!」
上部正面に連装主砲塔一基二門、上部後方に連装主砲塔二基二門を備え、前方や後方など、至る所にVLSがある。宇宙魚雷発射管の数は控え目だが、それでもこの星の守護神として十分すぎるくらいだった。全ての艦の紹介が終わると、第一防衛艦隊が輪形陣を組み、再び観客の前に現れた。観客は何が起こるのかと固唾を飲んで艦隊を見守っていた。やがて防衛艦隊全艦の主砲が海側の方へ向き、仰角が最大まで取られる。
「只今より、祝砲を発射致します。皆様、事前にお配り致しました、耳栓の方をご装着ください。」
アナウンスが鳴り、観客は大慌てで耳栓を装着する。しばらくして、警報音が鳴ると地を切り裂くような大きな音が聞こえた。その瞬間、主砲発射の影響で、海面には大きな波が立った。あまりにも大きな音に観客は吹き飛ばされるのではないかと思った。21回の祝砲射撃の後、主砲が元の位置に戻った。観客はあまりの大きな音に驚いたが、やがて一人が拍手を始め、二人、三人とそれが広がり、やがて観客全員から、これまでで1番大きな拍手が轟いた。それが聞こえたのか、しまなみから大きな汽笛が聞こえた。しばらくして、防衛艦隊が間隔を広く取り始めた。アナウンスが響く。
「これより、第一防衛艦隊全艦が発進します。皆様、吹き付ける風にご注意下さい。」
アナウンスを確認した第一防衛艦隊は、すぐにエンジン出力を最大まで上げた。それぞれ、艦体が徐々に加速する。そして。全艦が離水速度に達し、飛翔した。壮麗な艦影が恒星の光に照らされ、身に纏った海水を反射しながら艦が空へ舞い上がる。艦尾から炎の尾を引きながら、艦隊は宇宙へ昇って行った。その様子に観客の全員は立ち上がって惜しみない拍手を送り続けた。