グスタフは腕を組んで敵艦を睨みつけていた。ようやく儂らの出番が来たか、そう言わんばかりに目をギラギラ輝かせていた。今までは防衛砲台だけにしか配属できなかったが、阿部の発案で本採用から外れたオリハルコン製クォーク機関を防衛砲台に接続したことで、従来の半分ほどの人数で砲台を運用でき、余剰分の人数はこうして邀撃部隊に回すことができる様になった。いやはや、これは僥倖じゃ。とグスタフは思いつつ現状を把握する。本土に接近してくる艦は四隻。そして後ろからはしまなみが追いかけているが明らかに間に合わない。これは後で小西を説教せねばならんな、そうグスタフは思いながら
「迎撃ミサイル発射準備!各個に照準!目標、接近してくる敵艦艇四隻!」
と指示を飛ばした。すぐにそれを聞いたそれぞれの砲台の下士官らが
「一号から四号自走迎撃誘導弾、α目標へ!」
「五号から八号自走迎撃誘導弾、β目標へ!」
「九号から十二号自走迎撃誘導弾、γ目標へ!」
「十三号から十六号自走迎撃誘導弾、δ目標へ!」
と受け持ちの砲台が同時に号令し、照準した。そしてグスタフはそれぞれが照準を合わせたことを確認すると
「放て!」
と老体には似合わない大きな声で号令を発した。瞬間、砲台からそれぞれの目標に向けて四発ずつ、迎撃ミサイルが飛翔する。そしてそれらが敵艦へ向けて誘導され、着弾。艦は、燃えながら堕ちていった。
小西はその様子を艦長席から見ていた。…助かった。心の底からそう思った。後で礼を言わねば。そう思いつつ、艦を反転させ敵艦隊へ再び対峙する為
「電探士!主戦線はどうなっている!」
と訊ねた。だが、電探士から帰ってきた答えは小西が期待していたものと違った。
「本艦正面に再び敵駆逐艦ワープアウト!」
そう聞いた瞬間小西は敵が撃ってくることを予想して
「桐原!」
と叫ぶ。意図を理解した桐原は
「ヨーソロー!」
と叫びながらスラスターを全開にし、艦体をロールさせる。だが、敵駆逐艦はしまなみに発砲せず、まっすぐ地表面へ向けて突進し始めた。小西はまさか、と呟いた。すぐに最悪の事態を想定し
「桐原!敵駆逐艦を追え!杉内!今撃てる砲門で奴を撃て!」
と言った。みるみるうちに杉内も桐原も顔が青ざめていき、桐原は急いで敵駆逐艦を追う構えを見せた。だが、ロールしていた為、艦体を立て直すには数秒の時間を要した。艦体を立て直して再び加速し、杉内がビーム砲で攻撃しようと照準を合わせようとする。だが、もう遅かった。敵駆逐艦は地上の迎撃ミサイルの射程外から主砲を放った。敵のビームは、迎撃をしようと照準を合わせていた第一迎撃旅団に無惨にも直撃した。小西たちは唖然とした表情で地表を見つめた。迎撃ミサイルが誘爆し、煙が上げているのが見てとれる。小西は歯軋りをして
「主砲一番撃ち方始め!」
と叫んだ。瞬間、二本の砲身から白い光の帯が飛び出す。敵駆逐艦はというと、一射目では満足せず、二射目を放とうとしていた。そこへ、しまなみが放ったビーム砲が直撃。敵駆逐艦は艦体を燃やしながらそのまま落下していき、迎撃旅団が陣取っていた場所へと墜落していった。
「落下軌道をずらす!下部VLS敵艦下部へ照準!撃ち方始め!」
そう小西は再び叫んだ。まるでせめて最悪の事態だけは避けてくれと言わんばかりに。だが、ミサイルが敵駆逐艦下部に着弾しても落下軌道を変えることはできなかった。
「第二射目を…!」
そう小西が叫ぼうとした瞬間、眩いばかりの閃光が小西達を襲った。それを我慢して小西は目を開こうと努めるが、あまりの眩しさに開けることができず、ようやく開いた時には敵駆逐艦は迎撃旅団が位置していた場所へ墜落し、爆炎をあげていた。小西は呆然として目を見開いた。目から涙が零れ落ちかける。だが、それを必死に堪え、
「転舵反転!防衛砲台の援護へ向かう!」
と声を切らしながら叫んだ。スラスターが始動し、勢いよく艦体が方向を変える。そして背後に爆炎を背負い、しまなみは主戦線へ向け再び進路をとった。
主戦線は膠着を極めていた。敵戦艦へ砲撃しても見た限り有効打は与えられず、ひとまず数を減らす為に敵駆逐艦群へ攻撃するしかなかった。敵駆逐艦を撃破している間に敵戦艦はじわりじわりと近づいてくる。それでも、諦めず敵駆逐艦を狙っていない砲門で敵戦艦を狙い続ける。だが、一つ、また一つと砲台が撃破されていく。兵士の誰もがいつまでこのデスゲームを続けろと言うのか、と思っていた。絶望のどん底へ叩き落とされた兵士は皆、顔こそ上を向いていたものの、心は黒く塗りつぶされていた。そんな時、突如眩い光と共にしまなみがワープアウトしてきた。そして主砲を用いて戦艦へ砲撃するもあまり効いている様子はない。効果がないとわかったからか、しまなみは打開策を実行する為にある行動をとった。しまなみは器用にスラスターをふかし、敵戦艦の真正面へ位置した。それを見て
「駄目だ!いくら撃っても効かない!早く離脱するんだ!」
「小西司令!そこから離れてください!危険です!」
「小西司令!杉内さん!」
兵士が口々に叫んだ。だが、それを払いのけるかのようにしまなみは今使える全ての兵器を敵戦艦へ指向し、一気に敵戦艦の艦橋へ向けて放った。瞬間、敵戦艦の艦橋だけが爆炎に包まれた。指揮系統や航行能力を失った敵戦艦は真っ逆さまに海へ堕ちてく。その様子を兵士たちは唖然とした表情で見ていたが、やがてあちこちから歓声が聞こえた。それがすぐに全体へ伝播し、防衛砲台陣地はしまなみコールで溢れかえった。いかなる状況でも諦めず戦えば必ず勝利が訪れる。そう確信した兵士らの顔には希望の色に満ち溢れていた。
そんな地上とは対照的に、しまなみの艦橋内は重苦しい空気に包まれていた。全員の脳裏に敵駆逐艦が迎撃旅団を撃ち滅ぼした様子がまざまざと思い出された。既に報告ではアリア率いる救難連隊が現地入りし、状況を確かめているようであった。現状もたらされている情報では、グスタフ防衛陸軍司令長官兼第一迎撃旅団長の死亡が確認され、その他各自走迎撃誘導弾の砲手や観測手、そして敵駆逐艦の一部乗組員も死亡が確認されたようだった。小西は爪の痕ができるほど拳を強く握り締めた。グスタフ司令にはここに来た当初から気にかけて頂いていて、第二の父親のように接してもらってきた。それなのに…。小西は歯軋りをするが、もう結果は変わらない。目の前にワープアウトした敵駆逐艦の撃破を優先せず、回避行動を先にとる判断をしたのは俺だ。俺が、親父を殺したんだ。小西の頭にはその事しか無かった。やがてしまなみが港に接岸すると、小西は何のためにしまなみに来たのかも忘れ、逃げるように艦橋から出て行った。
本日の戦闘報告
戦績
未確認超弩級戦艦1隻撃沈、軽巡洋艦4隻撃沈、駆逐艦20隻撃沈、強襲揚陸艦4隻撃沈
損害
しまなみ
艦首魚雷発射管に被弾するも死傷者なし
第一迎撃旅団
防衛陸軍司令長官兼第一迎撃旅団旅団長グスタフ・オットー他隊員2500名戦死
自走迎撃誘導弾発射器「ヴィローグ・スティンガー」5基壊滅
王都防衛砲台
防衛砲台14基壊滅、95名戦死
「迎撃ミサイル発射準備!各個に照準!目標、接近してくる敵艦艇四隻!」
と指示を飛ばした。すぐにそれを聞いたそれぞれの砲台の下士官らが
「一号から四号自走迎撃誘導弾、α目標へ!」
「五号から八号自走迎撃誘導弾、β目標へ!」
「九号から十二号自走迎撃誘導弾、γ目標へ!」
「十三号から十六号自走迎撃誘導弾、δ目標へ!」
と受け持ちの砲台が同時に号令し、照準した。そしてグスタフはそれぞれが照準を合わせたことを確認すると
「放て!」
と老体には似合わない大きな声で号令を発した。瞬間、砲台からそれぞれの目標に向けて四発ずつ、迎撃ミサイルが飛翔する。そしてそれらが敵艦へ向けて誘導され、着弾。艦は、燃えながら堕ちていった。
小西はその様子を艦長席から見ていた。…助かった。心の底からそう思った。後で礼を言わねば。そう思いつつ、艦を反転させ敵艦隊へ再び対峙する為
「電探士!主戦線はどうなっている!」
と訊ねた。だが、電探士から帰ってきた答えは小西が期待していたものと違った。
「本艦正面に再び敵駆逐艦ワープアウト!」
そう聞いた瞬間小西は敵が撃ってくることを予想して
「桐原!」
と叫ぶ。意図を理解した桐原は
「ヨーソロー!」
と叫びながらスラスターを全開にし、艦体をロールさせる。だが、敵駆逐艦はしまなみに発砲せず、まっすぐ地表面へ向けて突進し始めた。小西はまさか、と呟いた。すぐに最悪の事態を想定し
「桐原!敵駆逐艦を追え!杉内!今撃てる砲門で奴を撃て!」
と言った。みるみるうちに杉内も桐原も顔が青ざめていき、桐原は急いで敵駆逐艦を追う構えを見せた。だが、ロールしていた為、艦体を立て直すには数秒の時間を要した。艦体を立て直して再び加速し、杉内がビーム砲で攻撃しようと照準を合わせようとする。だが、もう遅かった。敵駆逐艦は地上の迎撃ミサイルの射程外から主砲を放った。敵のビームは、迎撃をしようと照準を合わせていた第一迎撃旅団に無惨にも直撃した。小西たちは唖然とした表情で地表を見つめた。迎撃ミサイルが誘爆し、煙が上げているのが見てとれる。小西は歯軋りをして
「主砲一番撃ち方始め!」
と叫んだ。瞬間、二本の砲身から白い光の帯が飛び出す。敵駆逐艦はというと、一射目では満足せず、二射目を放とうとしていた。そこへ、しまなみが放ったビーム砲が直撃。敵駆逐艦は艦体を燃やしながらそのまま落下していき、迎撃旅団が陣取っていた場所へと墜落していった。
「落下軌道をずらす!下部VLS敵艦下部へ照準!撃ち方始め!」
そう小西は再び叫んだ。まるでせめて最悪の事態だけは避けてくれと言わんばかりに。だが、ミサイルが敵駆逐艦下部に着弾しても落下軌道を変えることはできなかった。
「第二射目を…!」
そう小西が叫ぼうとした瞬間、眩いばかりの閃光が小西達を襲った。それを我慢して小西は目を開こうと努めるが、あまりの眩しさに開けることができず、ようやく開いた時には敵駆逐艦は迎撃旅団が位置していた場所へ墜落し、爆炎をあげていた。小西は呆然として目を見開いた。目から涙が零れ落ちかける。だが、それを必死に堪え、
「転舵反転!防衛砲台の援護へ向かう!」
と声を切らしながら叫んだ。スラスターが始動し、勢いよく艦体が方向を変える。そして背後に爆炎を背負い、しまなみは主戦線へ向け再び進路をとった。
主戦線は膠着を極めていた。敵戦艦へ砲撃しても見た限り有効打は与えられず、ひとまず数を減らす為に敵駆逐艦群へ攻撃するしかなかった。敵駆逐艦を撃破している間に敵戦艦はじわりじわりと近づいてくる。それでも、諦めず敵駆逐艦を狙っていない砲門で敵戦艦を狙い続ける。だが、一つ、また一つと砲台が撃破されていく。兵士の誰もがいつまでこのデスゲームを続けろと言うのか、と思っていた。絶望のどん底へ叩き落とされた兵士は皆、顔こそ上を向いていたものの、心は黒く塗りつぶされていた。そんな時、突如眩い光と共にしまなみがワープアウトしてきた。そして主砲を用いて戦艦へ砲撃するもあまり効いている様子はない。効果がないとわかったからか、しまなみは打開策を実行する為にある行動をとった。しまなみは器用にスラスターをふかし、敵戦艦の真正面へ位置した。それを見て
「駄目だ!いくら撃っても効かない!早く離脱するんだ!」
「小西司令!そこから離れてください!危険です!」
「小西司令!杉内さん!」
兵士が口々に叫んだ。だが、それを払いのけるかのようにしまなみは今使える全ての兵器を敵戦艦へ指向し、一気に敵戦艦の艦橋へ向けて放った。瞬間、敵戦艦の艦橋だけが爆炎に包まれた。指揮系統や航行能力を失った敵戦艦は真っ逆さまに海へ堕ちてく。その様子を兵士たちは唖然とした表情で見ていたが、やがてあちこちから歓声が聞こえた。それがすぐに全体へ伝播し、防衛砲台陣地はしまなみコールで溢れかえった。いかなる状況でも諦めず戦えば必ず勝利が訪れる。そう確信した兵士らの顔には希望の色に満ち溢れていた。
そんな地上とは対照的に、しまなみの艦橋内は重苦しい空気に包まれていた。全員の脳裏に敵駆逐艦が迎撃旅団を撃ち滅ぼした様子がまざまざと思い出された。既に報告ではアリア率いる救難連隊が現地入りし、状況を確かめているようであった。現状もたらされている情報では、グスタフ防衛陸軍司令長官兼第一迎撃旅団長の死亡が確認され、その他各自走迎撃誘導弾の砲手や観測手、そして敵駆逐艦の一部乗組員も死亡が確認されたようだった。小西は爪の痕ができるほど拳を強く握り締めた。グスタフ司令にはここに来た当初から気にかけて頂いていて、第二の父親のように接してもらってきた。それなのに…。小西は歯軋りをするが、もう結果は変わらない。目の前にワープアウトした敵駆逐艦の撃破を優先せず、回避行動を先にとる判断をしたのは俺だ。俺が、親父を殺したんだ。小西の頭にはその事しか無かった。やがてしまなみが港に接岸すると、小西は何のためにしまなみに来たのかも忘れ、逃げるように艦橋から出て行った。
本日の戦闘報告
戦績
未確認超弩級戦艦1隻撃沈、軽巡洋艦4隻撃沈、駆逐艦20隻撃沈、強襲揚陸艦4隻撃沈
損害
しまなみ
艦首魚雷発射管に被弾するも死傷者なし
第一迎撃旅団
防衛陸軍司令長官兼第一迎撃旅団旅団長グスタフ・オットー他隊員2500名戦死
自走迎撃誘導弾発射器「ヴィローグ・スティンガー」5基壊滅
王都防衛砲台
防衛砲台14基壊滅、95名戦死