第四章 共同戦線

この国の王女と会談した翌日、小西たちは今謁見の間の前の扉にいた。艦橋乗組員とその他合わせて90名。それが3列にズラッと並び全員が正装で待機していた。やがて目の前の大きな扉が開くと、目の前に長い部屋が見えた。両脇に人がズラリと並び、通路のようになっている。その先には昨日の質素な服装とは打って変わって豪華そうなドレスを着て、大きな王冠を被って玉座に腰掛けていた。小西は緊張した顔で一歩一歩、歩を進め、そして玉座がある階段の手前で止まり、膝をついて頭を下げ、言った。
「『宇宙駆逐艦しまなみ』乗組員総勢270名の代表90名、只今参りました。」
そう言うとアリア女王陛下は
「面を上げよ。」
と威厳ある声で言った。それを聞いて乗組員たちはゆっくりと顔をあげる。アリアは真紅のドレスに身を包み、綺麗な茶色の長い髪が肩のあたりまで伸ばし、黄金のステッキを手に携えていた。…絵に描いたような美女だな、と小西は内心そう思っていると儀式が始まった。アリアがゆっくりと口を開く。
「本日より、この者らが我々の聖なる国土を守る為の仲間となってくれた。彼らは我々では到底歯が立たなかった奴らに対し、十分すぎる攻撃力を有している。彼らは間違いなく我々の守護神となり、この国に尽くしてくれるであろう!」
そうアリアが演説すると、左右の群衆から歓声と共に激しい拍手が沸き起こった。もう、この国は安泰だ、とそう言う者もいた。…駆逐艦1隻に背負わせることじゃないだろ…そう思っていると、アリアが
「これより調印の儀式を執り行う!『宇宙駆逐艦しまなみ』艦長、小西慶太二等宙佐、私の前に来なさい。」
そう言った。…おかしいな、そんなこと聞かされてなかったんだけどな。小西はそう思いながら玉座の前まで行き、再び膝をついた。するとアリアは
「立ちなさい。」
と威厳のある声で言った。小西は少し戸惑いつつもビシッと立って敬礼をした。アリアはそれに頷くと、小西の左手を手に取り、小西にニコリと笑いかけて、呪文を唱え始めた。小西たちにはよくわからない言葉をアリアが発し始め、小西は戸惑の表情を隠せなかった。だが、驚くにはまだ早かった。呪文が進んでいくにつれ、小西の周りで真紅の魔法陣が回り始めた。そしてそれらが高速で回転したかと思うと、いきなり小西の中に入ってきた。 
「うぉ!」
びっくりして変な声が出てしまったが、不思議と違和感はなかった。小西は私に向かってにっこりと微笑みながら、手にしていた小西の左手を天に掲げて、告げた。
「今、この瞬間、この者らは神から幸福を授かった!彼らの力と神からの加護でこの者たちは更なる進化を遂げるであろう!」
そう言うとさらに場内からの拍手が強くなった。…俺はこの人たちを護るんだ。命ある限り。そう小西は思い、決意新たに目の前の虚空を睨め付けた。

そして、同盟締結が終わり再び小西と石原は応接間に通された。前回とは違い、護衛の数が半分以下に減っている。それだけ俺たちが信用されたのだな、と小西が思っているとガチャリと扉が開き、まだ真紅のドレスに身を包んだアリアと、そして前回と同じ初老の男性が入ってきた。小西たちはそれに気づくと立ち上がり敬礼する。アリアも、見様見真似で敬礼を返してきた。そしてアリアら3名が席に着くとアリアが話し始めた。
「さて…。急だったけれど、何はともあれお疲れ様ね。」
そう言われたので
「いえ、滅相もございません。こちらこそ陛下の重要なお時間を頂き…」
と言いかけたが、アリアが手を前に出して小西の言葉を遮る。
「やめやめ、こんなやっても意味のないことを話してた方が時間の無駄よ。それよりも早く本題に移りましょう。…改めて自己紹介といきましょうか。私はこの国の女王、アリア・ファリアよ。そして私の左隣にいるのがグスタフ・オットー防衛軍上級大将。まぁ一応貴方たちの直接の上司になるわね。」
そういうとグスタフという男はペコリと一礼した。それに対して小西たちは起立して敬礼で返す。そして小西たちが再び座るとアリアが言葉を続けた。
「そして私の右隣にいるのがモンナグ・シュバッフェ近衛連隊長よ。」
そう紹介があった男もまた頭を下げられたので、小西たちもまた立ち上がって敬礼をする。そして座り直し、口を開いた。
「では、改めて我々も紹介をさせていただきます。私が『宇宙駆逐艦しまなみ』艦長小西慶太。そして私の横にいるのが船務長の石原数人です。この度は我々との同盟関係の締結、誠に感謝申し上げます。」
そう言うと、アリアは大きく頷いて
「ええ、こちらこそ感謝するわ。本当にありがとう。この同盟は私たちにとってもとても有益なものになるでしょう…。さて、貴方たちが私たちに防衛力を提供してもらう以上私たちもそれ相応のものを提供しなければいけないと思うのだけど…何か要望とかはあるかしら。」
と言った。それを聞いて小西は少し考えつつ、前々から考えていたことを述べた。
「そうですね…まず我々が望むのは、全乗組員の上陸の許可。それと『しまなみ』停泊の許可。これらは絶対に必要です。」
と答えた。アリアはそれを聞いて頷きながら
「そうね、それは重要だし、こちらとしても許可の準備はできているわよ。」
と言った。それを聞いて安心しつつ
「ありがとうございます。それでここからはこちらからもお願いになるのですが…」
そう言って一度息を吸い込んで言った。
「先程陛下は我々にとてつもない期待を寄せて頂きましたが、正直駆逐艦一隻では防衛はかなり限定的になります。そこで、どうでしょう。我々の技術を供与しつつこの世界でも宇宙戦闘艦を建造してみてはいかがでしょうか。」
言い終わって小西がアリアを見ると、目を丸くして驚かれ、こう訊ねた。
「それは、貴方たちの極秘情報ではないのかしら。」
それに対して表情を変えることなく、こう返した。
「確かに我々が持つ技術…『クォーク機関技術』は地球でも最先端の技術であり、技術供与は認められていません。ですが、」
とそこで一拍おいて続ける。
「ですが、技術を非公開にしてここの防衛に失敗するよりも技術を公開して防衛に成功した方が良いと考えました。」
それを聞いてアリアはまだ信じられない、といったような声を出しながら
「本当…?それはとても嬉しい話なのだけど…。正直まだ…。ごめんなさい、実感が湧かないわ…。」
そう言って頭を抱えた。しばらくして、状況の整理がついたアリアはこう口を開いた。
「それで、技術供与をしてもらったとして…。私たちはいつまでに何をすればいいのかしら。」
そう言われ、小西は
「陛下には今二つの選択肢がございます。本艦のコピー艦を大量に生産する方法、そしてもう一つがコピー艦を量産するよりは数は少なくなるかもしれませんが、しっかりとした艦隊を作ることです。」
と言った。それを聞くと両隣の2人と相談しつつこう聞いてきた。
「貴方的にはどちらがいいとかは、あるの?」
そう訊ねられ、暫く考えた後言った。
「コピー艦を量産する方法は数は揃いますし、今回に限れば防衛に成功するかもしれませんが、正直長期的な防衛戦略とは言えません。逆に艦隊を作る方針では、艦隊戦力が揃うまでそれ相応の時間がかかると思いますが、艦隊が揃えば今回の敵は跳ね返せる可能性がだいぶ高くなりますし、その後も艦隊戦力を維持すれば今後似たような局面に遭遇しても防衛できる可能性があります。しかし、数が揃う前に逆に蹂躙される可能性も捨てきれません。」
と、率直な感想を伝えると意外とすぐに返答が返ってきた。
「艦隊を作りましょう。」
その返答の早さに驚きつつこう訊ねた。
「本当によろしいのですか?先ほども申し上げた通り数が揃う前にやられてしまう可能性も…。」
そう言うと、
「大丈夫よ。数が揃うまでは貴方たちが防衛してくれるのでしょう?あの戦いぶりを見たら大丈夫よ。きっと。」
と返され、少し面食らったが、こりゃ大変に信頼されてるな、と思いながら
「…わかりました、艦隊が揃うまで我々が全力で防衛いたしましょう。」
と言った。それを聞いて安心したのか、
「それが聞けて良かったわ。それで必要な数は?」
と、問うてきてた。それを聞いて考えつつ、言った。
「今私の中にある艦隊戦術は大型艦艇で敵の狙いを引きつけつつ、小型艦隊の機動戦で敵艦隊を撃滅する戦術です。この場合ですと最低でも…。狙いを引きつける役として超弩級宇宙戦艦1隻と巡洋艦4隻、そして機動戦等を担う駆逐艦が10隻…それにしまなみを足し合わせた合計16隻は必要かと。」
と言った。それを聞いたアリアは
「最低で16隻…とんでもない艦隊計画ね…ちなみにそれぞれ艦艇を建造するにはどれくらいの期間が必要なのかしら。」
と聞いてきた。それに対して
「そうですね…基本的にはどの艦も基本は5年以上はかかると思います…。戦艦の場合は特に…。ですが、それよりも重要なのが、建造した艦を操れる人間です。砲雷科、航海科、機関科、技術科、船務科は必ず必要になりますが、今の所十分な技量があるのは砲台に勤められていた方が砲雷科に入った場合のみ…残りは全くの未経験ですので、そこの教育も必要になってくるかと思います…」
と返すと
「そう…そうね、兵の再教育の必要もあるの…。」
と言って絶望していた。
「ですがコピー艦を建造したにせよこの行程は逃れられないものでありますので…。もちろん我々も最大限のサポートを致します。ですが、それでもおそらく兵の数が足りません。ですから、全土にさらなる徴兵令を敷いてさらに兵を集めてもらうしか…。」
と言った。それを聞いてアリアは
「ちなみに何名ほど人を集めればいいのかしら。」
と聞いてきたので、
「そうですね…それぞれ戦艦一隻に少なくとも900名、巡洋艦一隻に700名、駆逐艦一隻に200名…と言ったところでしょうか」
と答えると、
「ということは…戦艦1隻と巡洋艦4隻、駆逐艦が10隻だから…5700名…。グスタフ。今動員可能な兵士は何名いるの?」
と必要な人数を算出して現状をグスタフに訊ねる。聞かれたグスタフは暫し指折り数えながら考え、やがてこう言った。
「現在は…把握している戦闘可能な人員は…1500名程度と思われます…。」
1500名。人数があと4200名以上足りない。それを聞いたアリアは
「…それを補うためには徴兵年齢を後どのくらい下げればいいの…?」
とため息混じりに言った。そんな時、小西のインカムにザッという雑音と共に連絡が入った。
「艦長!敵艦隊の接近を確認しました!至急お戻りください!」
それを聞いて小西は素早く立ち上がると
「申し訳ありません、陛下。敵艦隊の襲来です。この話は一旦ここまでで、また明日会議致しましょう。」
と言い、アリア頷いたのを確認すると
「石原!行くぞ!」
と言い、勢いよく扉を開けると昨日のように廊下を疾駆し、内火艇に飛び乗った。そしてCICに駆け込み
「エンジン点火!『しまなみ』発進!」
と言った。すぐに桐原が
「ヨーソローエンジン点火!発進!」
と復唱し勢いよく艦が進み始めたかと思うと急角度で上昇し始めた。
「電探士!敵艦隊艦種識別!」
「敵巡洋艦7、駆逐艦15!かなりの数です!」
多いな、そう思いながら
「杉内!戦闘配備はできているな!?」
と確認する。
「はい、総員第一種戦闘配備で待機済みでしたので全砲門、全魚雷発射管、全ミサイル発射管いつでも撃てます!」
それに頷き、再び情報を精査する。
「電探士!敵艦隊との距離は!」
「敵艦隊との距離およそ148000!本艦主砲射程まで後68000!敵艦隊との相対速度およそ18000!」
その情報に頷くと素早く作戦を立て、それに基づいて指示を飛ばす。
「桐原!面舵8°!第二戦速!敵艦隊の左側を通るような航路を取れ!」
「ヨーソロー、面舵8°!第二戦速!」
「杉内!主砲全砲門撃ち方用意!」
「全砲門撃ち方用意!目標、先行する敵駆逐艦!各砲門照準合わせ!」
「電探士!敵艦隊との距離を再び知らせ!」
「はっ!敵艦隊との距離107000!主砲射程まで後27000!相対速度変わらず!」
それを聞いてそろそろだな、と思うと
「杉内!主砲全砲門最終確認!」
「全砲門異常なし!いつでもどうぞ!」
「よし…電探士!」
「距離80000!敵艦隊本艦射程内!」
「杉内!」
「了!主砲全砲門開け!撃て!」
この号令で再び砲身から眩く光る白い束が敵艦に吸い込まれていく。
「敵駆逐艦3隻撃沈!」
「クソ、一発外したか!」
「杉内!落ち着け!まだ距離はある!」
そう杉内を落ち着かせていると
「敵艦隊、発砲!」
と電探士から報告があった。
「⁉︎桐原!回避行動!」
「ヨーソロー!回避行動!取舵40!右舷スラスター最大出力!機関、最大戦速!」
そう言うが早いか艦が左へ回頭を始める。本艦左舷を敵のビーム砲が掠めるとすかさず杉内が
「主砲2番、3番敵艦を再照準!1番、撃ち方始め!」
指示を飛ばす。少しして2番と3番の砲塔旋回と再照準が終わると
「続いて2番、3番、撃ち方始め!」
と言い、再び閃光が眩いた。
「敵駆逐艦4隻撃沈!」
再び電探士が報告する。すると再び敵艦隊から砲火が飛んできた。
「面舵3°!左舷スラスター最大出力!」
そう言いながら回避行動をする。やがて、敵艦がついに我々の宇宙魚雷の射程内に入った。
「右魚雷発射管開け!一斉撃ち方!」
そう言うと右舷の魚雷発射管が開き、4本の宇宙魚雷が空気を切り裂いて進み、それぞれ2本ずつ、敵駆逐艦に命中した。
「敵駆逐艦2隻撃沈!」
これまでの撃沈数は駆逐艦9隻。ギアを上げていかないと地上が射程内に入ってしまう。そう思い、少し焦りかけるが、落ち着かせる。大丈夫。この艦のシステムを持ってすれば大丈夫だ。と自分に言い聞かせ、杉内と桐原に指示を出す。
「桐原!面舵37°!速度そのまま!敵艦隊の進路を塞げ!杉内!全武装開放!本艦が敵艦隊に飲み込まれる前に全艦、撃破せよ!」
それを聞いた桐原と杉内は少しギョッとしたような表情を浮かべたが
「よ、ヨーソロー、面舵37°速度そのまま、最大戦速!」
「了!主砲全砲門、全魚雷、ミサイル発射管順次撃ち方!撃ち方始め!」
そう言い的確に指示を出す。敵艦隊が近づくにつれ、敵艦隊からの砲火も激しくなるが、それをなんとか間一髪で交わしながら
「主砲目標各個に照準!各砲座の指示で自由撃ち方!」
と杉内が指示を飛ばし続ける。自由撃ち方の指示が降りた主砲塔はとにかく敵艦を撃沈せんと撃ち続ける。
「艦首魚雷!目標正面の敵重巡洋艦!一斉射!」
ビーム砲が飛び交い、敵艦が一隻、また一斉と爆炎に包まれながら堕ちていく。
「敵艦隊!残り1隻!」
その電探士からの報告に無言で頷き、窓の外を見据えた。丁度その一隻に向かって杉内の指示で発射された対空対艦両用ミサイル「コスモスパロー」が上部VLSから放たれ、艦橋の前を通り過ぎていった。そして、敵重巡洋艦に吸い込まれるようにミサイルが突き進み、やがて最後の敵重巡洋艦に着弾、爆炎に包まれた。撃沈したか、そう思ったが、突如爆炎の中から砲火が飛んできた。いきなりのことで反応が遅れ、桐原が必死の思いで回避行動をとるも、無惨に左舷の第一デッキあたりを抉り取っていった。艦内に非常事態を告げる警報音が鳴り響く。被弾した。そう理解するのにそう時間はかからなかった。
「左舷第一デッキに被弾!負傷者多数!」
と阿部が状況を報告する。
「被弾箇所の隔壁を閉鎖!急げ!船務科救護班及び技術科応急工作班は直ちに第一デッキへ!負傷者の搬送及び被弾箇所の応急補修を!」
と指示を飛ばす。すぐに被弾場所の隔壁は閉じられたが、何名かは外の気圧と艦内の気圧の差により生じた気流の流れに炎と共に巻き込まれ、隔壁が閉まる前に艦外へ吹き飛ばされてしまった。最後の一撃と言わんばかりに砲撃してきた敵重巡洋艦は爆炎の中から痛々しいほどの損傷を受けながらもよろよろと出てきた。…アイツか。そう思うが早いか、
「杉内!主砲1番撃ち方始め!」
と言った。杉内は素早く
「主砲1番撃て!」
と復唱した。既に手負いの敵重巡洋艦は瞬く間に爆発四散した。そうして電探士から
「…付近に敵の艦影認められず。」
と報告が上がると、それに頷いて
「了解した。敵艦隊の撃滅を確認。対艦戦闘、用具納め。」
と指示を出し、再び母港付近の海面へと降下を始めた。

本日の戦闘報告
戦績
敵重巡洋艦2隻撃沈、敵軽巡洋艦5隻撃沈、敵駆逐艦15隻撃沈。
損害
左舷第一デッキに被弾し2名死亡、3名重軽傷、3名行方不明。行方不明者は被弾の際に艦外に放り出されたものと思われ、捜索は困難。