広大な部屋の奥にある玉座にある王冠を深々と被った大男は深く腰掛けていた。不気味な色に髪を染めたその男は脚を組みながら酒の入ったワイングラスをゆっくりと回していた。グラスが回転するごとに中の酒が揺れ、酒がワイングラスの壁面にあたることで不気味な波を生み出す。目の前にはやや低めのテーブルが置かれており、テーブルの上には地図が置かれていた。男は地図を見て何やら気に障ることがあったのか、大きく舌打ちをしてそのテーブルを蹴り飛ばした。テーブルは蹴られた場所で真っ二つになり、遥か彼方の方まで飛んでいった。その様子に満足したのか、大男はフン、と荒い鼻息をつき再び玉座に腰掛けて窓の外を見た。窓の外には何も見えない闇が広がっていたがその様子がむしろその大男の気を落ち着かせた。大男は闇を睨め付けたままゆっくりと酒を飲み込む。酒自体の味は悪くなかったが、彼に酔いが回ってくることはなくそのことが彼に再び怒りを与えた。そんな時遥か彼方の扉からノックの音が聞こえる。大男は
「誰か」
と問うた。すると扉の向こうから
「帝国宰相兼帝国軍事参謀、ティルールにございます」
とはっきりとした声が聞こえた。その言葉に大男は嘆息しつつ
「入れ」
と言った。入室を許可すると扉のほうを睨め付けた。睨まれた男…ティルールは特段動じる様子はなく、大男の前で跪くと告げた。
「例の侵攻計画ですが…未だ抵抗はあるものの計画通りに進んでおり概ね順調です。」
「当然だ。吾輩の立てた計画に遅れなどない。」
「はい。閣下の立案された計画は誠に合理的で誠に芸術的であります。しかし…。」
「しかし、なんだ。貴様、吾輩の計画に異議があるのではなろうな。」
大男は語気を強めながらいう。その事に男は嘆息しつつ
「閣下。何も異議があるとは某まだ一言も言っておりませぬ。某が申し上げたいのはある不確定要素の存在です。」
「不確定要素、だと?」
大男に明らか怪訝そうな表情が浮かび上がる。
「あの劣等星国家のどこに不確定要素があるというのだ。貴様、さては虚言で吾輩を誑かそうとしているのではあるまいな。」
「滅相もございません。某が申し上げたい不確定要素は、ある一隻の駆逐艦の事でございます。」
「何、奴らも遂に駆逐艦を手に入れたのか?ふん、やりよるではないか。まぁ、使い物にならない砲門をいくら積んだところで意味がないが。」
「その駆逐艦に実は、我が軍の駆逐艦が一隻、沈められたのでございます。」
その言葉に大男は眉を潜ませ不機嫌な声で言った。
「何故あの劣等星国家の奴らに我が精強なる駆逐艦が沈められねばならんのだ。」
大男は不機嫌であるととともに不思議だった。
「いや、有り得ん。奴らの文明レベルで我が軍の駆逐艦が沈むなど。」
1人でそう呟いている大男にティルールは報告を続ける。
「沈められた駆逐艦は、沈められる直前、『Japan Cosmo Self-Defense Force』という所所属の艦から転進命令を受けていたようで…。もしかの国家所属であればこのような真似はする筈がございません。…おそらく」
「第三勢力、と言うことか?」
大男の声は最早苛立ちをも含んでいた。
「おっしゃる通りでございます。おそらく、かの国に手を貸したか、それとも日和見に徹するのか…。いずれにせよ我々の前に立ちはだかるのなら容赦はできませぬな。」
その言葉に大男は大きく頷き
「ティルール、わかっているようで、何よりだ。吾輩は彼の国を完全なる形で奪取することを望んでいる。…頼むぞ、ティルール」
と言った。その言葉にティルールはさらに頭を深く下げ、こう言った。
「承知いたしました、我らがシュターリン閣下。」