夜、星が煌めき、昼間の喧騒が嘘のような静寂が広がっていた。ここはディ・イエデ。数百年前まで激しい惑星統一戦争をしていたが、それも今の王の先々代の時には終結し、新たに「ディ・イエデ連合王国」として惑星全土が統一され、数年前まではまさしく平和な世の中が続いていた。しかし、数年前のある日、突如雲を切り裂くように猛進してきた「空飛ぶ悪魔」が、この世界の平和を脅かし始めた。その塊は目では追えぬかと思うほどの速さで飛び回り、ビームを放ち、我々の全てを破壊し尽くしている。なんとかしないと。そう思っても、「空飛ぶ悪魔」には今あるモノでは何一つとして対抗できず、この星は滅亡の淵に立たされていた。
「ほんっと、どうしたものかしら…」
そう呟くと、私ははぁ、と大きなため息をついた。連日の攻撃で多くの臣民が死に、生き残った人々も明日は我が身だと憂い、明日を生きる気力を無くしている。先日、宮廷神官からはまもなくこの状況を打破できる「何か」が手に入るだろう、そう告げられたけど、正直そんなものは当てにならない。…神がいるのなら、どうしてこのような酷い仕打ちを加えるのだ。神がいないからこそ、このような悲劇が起こる。だから、私が、私たちがこの世界をどうにかしていくしかない。そう思って窓の近くの椅子で足を組みながら夜空を眺めていると、不意にコンコン、とノックの音が響き渡った。
「誰?」
そう問うと、
「はっ、モンナグ近衛連隊長です。」
と凜とした声が返ってきた。モンナグ近衛兵隊長。幼い頃から私の養育係としてずっと私の側で仕え続けてくれている忠臣だ。だがらそれ故に小言も多く、今もその名前を聞いて、また小言か、と思いつつ
「鍵は空いているから。入って頂戴。」
と言った。すぐに失礼します、という声と共に初老の男性が入ってきた。初老とはいうが、腕は筋肉で太くなり、腹回りは筋肉で引き締まっており、日々猛烈な鍛錬をしていることが伺えた。わたしは、改めてその身体を一瞥した後、再び窓の外に顔を戻し、
「なにか用?」
と素っ気なく言った。するとモンナグは、
「アリア女王陛下、ですから危険な行動はお控えくださいと何度も申し上げているではありませんか…それを今日も幼子を助けるためとはいえ御身を危険に…私はいつ陛下が撃たれてしまうか心配でなりません…お願いですから、明日以降は絶対に王宮から出ないでください。よろしいですか?」
と早口で捲し立てた。それを聞き流すと、私は
「まずあなたに聞きたい事があるのよ。」
と言った。モンナグは、
「…なんでしょう。」
と少し間をおいて返事した。そんなモンナグを睨みつけながら、言った。
「モンナグ、あなたは今、あの少女を助けた私の行動を否定したの?」
すると、彼ははぁ、と嘆息しながら言った。
「陛下、別にそこまでは申し上げていないでしょう…いいですか、私は陛下がおやりになったことは大変立派だと思います。しかし、それで陛下が撃たれてしまったらどうなるのですか。ただでさえこれまでの反攻は陛下、あなたのカリスマ性があってのことなのです。これで陛下に死なれてしまってはいよいよこの国、ひいてはこの星は終わりでございますぞ。」
「だから私に王宮に引き篭もれと言うの?いい?モンナグ。王宮でも戦場でも、いつか死ぬ時は死ぬのよ。今日だって通路に攻撃が加えられて1人身罷られた。そうでしょう?」
「…はい。王室付のメイドが一名、攻撃による壁の崩落に巻き込まれて命を落としました。」
「そうね。であるなら私が戦闘の指揮を最前線で執っても、王宮で引き篭もっていても変わらないでしょう?」
「しかし、王宮で退避なさっているのと最前線にいるのとではお命を狙われる確率が格段に違います!陛下!どうか、ご英断を!」
「…モンナグ。少し黙って頂戴。いい?私は明日も明後日も、この戦いが終わるまで死ぬまで最前線に立ち続ける。それがこの国の女王として私が臣民に対してできる唯一のことなの。」
「陛下…」
問答の末、モンナグは黙ってしまった。…彼の言っていることは正しい。それはわかるが、私が安全なところでのうのうと生き残って、臣民が無惨にも殺されていく…そんな状況だけは絶対に避けたかった。やがて、モンナグは
「また、明日も御身をお護り申し上げます…失礼を致しました。」
そう言って出て行った。昔はモンナグの事を「爺」と慕い、いつまでも一緒にいて、私のことを支えてくれる…そう思っていたのだが、現実は非情だ。戦闘が始まってからというもの、私と彼と価値観の違いなのだろうか、対立が顕になり、今では昔のように親しく話すことも無くなってしまった。
「私も昔は性格がここまで尖ってなくて、もっと丸かった…筈なのだけどね…」
そう言い、再び虚空を見つめた。…今日身罷られたメイドは、私によく仕えてくれていた。仕事が良くでき、本当に助かっていた。彼女の死を聞いた時、今にも身体が優れ落ちそうであったが、なんとか堪えた。あの世から見ていてくれ、私が、お前の代わりにこの世界を救い、この世をもっと良くするから。そう心の中で念じると私はゆっくりと椅子から立ち上がり、寝室の方へとゆっくり歩いていった。
「ほんっと、どうしたものかしら…」
そう呟くと、私ははぁ、と大きなため息をついた。連日の攻撃で多くの臣民が死に、生き残った人々も明日は我が身だと憂い、明日を生きる気力を無くしている。先日、宮廷神官からはまもなくこの状況を打破できる「何か」が手に入るだろう、そう告げられたけど、正直そんなものは当てにならない。…神がいるのなら、どうしてこのような酷い仕打ちを加えるのだ。神がいないからこそ、このような悲劇が起こる。だから、私が、私たちがこの世界をどうにかしていくしかない。そう思って窓の近くの椅子で足を組みながら夜空を眺めていると、不意にコンコン、とノックの音が響き渡った。
「誰?」
そう問うと、
「はっ、モンナグ近衛連隊長です。」
と凜とした声が返ってきた。モンナグ近衛兵隊長。幼い頃から私の養育係としてずっと私の側で仕え続けてくれている忠臣だ。だがらそれ故に小言も多く、今もその名前を聞いて、また小言か、と思いつつ
「鍵は空いているから。入って頂戴。」
と言った。すぐに失礼します、という声と共に初老の男性が入ってきた。初老とはいうが、腕は筋肉で太くなり、腹回りは筋肉で引き締まっており、日々猛烈な鍛錬をしていることが伺えた。わたしは、改めてその身体を一瞥した後、再び窓の外に顔を戻し、
「なにか用?」
と素っ気なく言った。するとモンナグは、
「アリア女王陛下、ですから危険な行動はお控えくださいと何度も申し上げているではありませんか…それを今日も幼子を助けるためとはいえ御身を危険に…私はいつ陛下が撃たれてしまうか心配でなりません…お願いですから、明日以降は絶対に王宮から出ないでください。よろしいですか?」
と早口で捲し立てた。それを聞き流すと、私は
「まずあなたに聞きたい事があるのよ。」
と言った。モンナグは、
「…なんでしょう。」
と少し間をおいて返事した。そんなモンナグを睨みつけながら、言った。
「モンナグ、あなたは今、あの少女を助けた私の行動を否定したの?」
すると、彼ははぁ、と嘆息しながら言った。
「陛下、別にそこまでは申し上げていないでしょう…いいですか、私は陛下がおやりになったことは大変立派だと思います。しかし、それで陛下が撃たれてしまったらどうなるのですか。ただでさえこれまでの反攻は陛下、あなたのカリスマ性があってのことなのです。これで陛下に死なれてしまってはいよいよこの国、ひいてはこの星は終わりでございますぞ。」
「だから私に王宮に引き篭もれと言うの?いい?モンナグ。王宮でも戦場でも、いつか死ぬ時は死ぬのよ。今日だって通路に攻撃が加えられて1人身罷られた。そうでしょう?」
「…はい。王室付のメイドが一名、攻撃による壁の崩落に巻き込まれて命を落としました。」
「そうね。であるなら私が戦闘の指揮を最前線で執っても、王宮で引き篭もっていても変わらないでしょう?」
「しかし、王宮で退避なさっているのと最前線にいるのとではお命を狙われる確率が格段に違います!陛下!どうか、ご英断を!」
「…モンナグ。少し黙って頂戴。いい?私は明日も明後日も、この戦いが終わるまで死ぬまで最前線に立ち続ける。それがこの国の女王として私が臣民に対してできる唯一のことなの。」
「陛下…」
問答の末、モンナグは黙ってしまった。…彼の言っていることは正しい。それはわかるが、私が安全なところでのうのうと生き残って、臣民が無惨にも殺されていく…そんな状況だけは絶対に避けたかった。やがて、モンナグは
「また、明日も御身をお護り申し上げます…失礼を致しました。」
そう言って出て行った。昔はモンナグの事を「爺」と慕い、いつまでも一緒にいて、私のことを支えてくれる…そう思っていたのだが、現実は非情だ。戦闘が始まってからというもの、私と彼と価値観の違いなのだろうか、対立が顕になり、今では昔のように親しく話すことも無くなってしまった。
「私も昔は性格がここまで尖ってなくて、もっと丸かった…筈なのだけどね…」
そう言い、再び虚空を見つめた。…今日身罷られたメイドは、私によく仕えてくれていた。仕事が良くでき、本当に助かっていた。彼女の死を聞いた時、今にも身体が優れ落ちそうであったが、なんとか堪えた。あの世から見ていてくれ、私が、お前の代わりにこの世界を救い、この世をもっと良くするから。そう心の中で念じると私はゆっくりと椅子から立ち上がり、寝室の方へとゆっくり歩いていった。