ちょうど太陽が真上に登ったころ、俺たちは街道から少し離れた高台の上から草原を見下ろしていた。
しばらくするとレッサードラゴンの大群が、こちらに向かって移動してくるのが見えてくる。
「さすがケースケ、バッチリ予想通りね。好き勝手に動いてるように見えた『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』の移動経路を割り出してみせた腕は健在ね」
まるで自分のことのように嬉しそうに言ってくれたシャーリーに、
「今回は冒険者ギルド本部の用意した資料がついてたからな。アレほんとよくできてたんだよ。だから俺じゃなくても導き出せたと思うぞ」
俺は手柄を誇るでもなく正直に答えた。
事実、クエスト用にと渡された資料には欲しい情報が全部詰まっていたのだから。
「お父さんってああ見えて仕事はできるし、周りのスタッフもすごく優秀なのよね」
そう苦笑しながら言ったシャーリーは、スカート丈の短い赤と黒のゴシックドレスに身を包んでいた。
もちろんドレスといってもただのドレスではなく、冒険者向けの特殊仕様ドレスで、アイセルのビキニアーマーと同じように様々な防御加護が施されている高価なものだ。
「そうみたいだな」
俺も普段から情報収集してるから実感として分かるんだけど、地方ギルドの情報精度とは正確さが段違いだった。
「だっていうのに、アタシのことになるとすぐ頭に血が上っちゃうのよね」
「きっとそれだけシャーリーさんが愛されているんですよ」
「親バカってやつね!」
「あはは、もう少しだけ愛し方を考えてくれると嬉しいんだけどね」
「よし、世間話はその辺にして、そろそろ距離も縮まってきたし作戦をおさらいしておこう。もう少し引き付けてから、まずはシャーリーが範囲攻撃魔法で先制攻撃。その後アイセルとサクラで残った個体を討伐する」
「了解です」
「オッケー!」
「久しぶりだから腕が鳴るわね」
「まずは一発派手に頼んだぞシャーリー、ガツンとかましてやってくれ」
「任せなさいってば。それにパーティ『アルケイン』の先輩2人に、アタシの実力を認めてもらわないといけないからね」
そう言うとシャーリーがずいっと前に出た。
そしてまっ白な美しい杖を両手で構えると、呪文の詠唱を開始した。
魔法を使うには呪文が必要なのだ。
「風は歌い、星は巡る――。世界を形造りし神なる元素よ、我はあまねく森羅万象の探究者なり。我が意に応じたまえ、其は始まりの光にして全てを薙ぎ払う極光の渦。光あれ! 極光殲滅魔法、オーロラ・ボルテクス・エクスキューション!」
シャーリーの呪文が完成するとともに、空に巨大な極光の魔法陣が浮かび上がった。
光の魔法陣がグルグルと回転しはじめると、その周囲に極光が渦を巻きはじめる。
そしてそれはいつしか天地逆さまになった極光の竜巻となって、天空から地上を蹂躙した。
荒れ狂う極光のかまいたちが、レッサードラゴンの群れに縦横無尽に襲い掛かっていく。
「……はい?」
「……えっ?」
それを見たアイセルとサクラが、ぽかーんと口を開けて固まった。
2人の気持ちはよく分かる。
俺も初めて見た時はなんの冗談かと思ったものだ。
極光の逆竜巻は15秒ほどで消え、後にはわずかな生き残りが残っているだけだった。
200体を超えるレッサードラゴンは今や30体ほどに大きく数を減らしていた。
これが世界で唯一無二のオンリーワン、魔法と呼ばれる古代の技術を現代に復活させた『魔法使い』。
『極光の殲滅姫』シャーリー=シェフィールドの誇る超必殺技だった。
「おっとと……」
シャーリーがふらついてバランスを崩した。
俺はシャーリーの横に並ぶように前に出ると、腰を引き寄せてその身体をしっかりと支えてあげる。
「お疲れさん、大丈夫か?」
「ごめん、久しぶりだったのと、アイセルとサクラにいいとこ見せようとしてちょっと張り切り過ぎちゃったみたい」
「みたいだな。ここまで派手にやったのは久しぶりに見たぞ。魔法を使うとめちゃくちゃ疲れるんだろ?」
俺も詳しい理論はさっぱり分かってなくて、シャーリーから簡単に聞かされただけなんだけど。
魔法を使うには呪文の詠唱をしながら、頭の中でものすごい高速演算をして魔法式というのを組み上げ、『世界を形作る元素』なるものにアクセスするらしいのだ。
しかも自身の生命エネルギーを媒介にするから、肉体的疲労も相当なものなのだとか。
「元々これは1発フルパワーで撃ったら数日は心身ともにお疲れモードになっちゃうから。次からはもうちょっと手加減しないとね」
「一人で立てるか? それとも少し横になるか?」
「もう少しだけこうやってケースケに隣で支えてもらいたいかも、そっちのほうが役得だし」
「分かった。アイセル、サクラ。ここからは2人の出番だ。俺はここでシャーリーを見てるから、残ったレッサードラゴンを蹴散らしてきてくれ。生き残ってる個体もかなりダメージを受けてるはずだから、そんなに手間はかからないはずだ」
「は、はい!」
「う、うん!」
シャーリーの使った『魔法』のすごさを見せつけられて呆気に取られていたアイセルとサクラが、我に返って行動を開始する。
丘を下っていった2人はすぐに残党狩りを始めた。
2人は絶妙の連携戦闘で、レッサードラゴンの数をどんどんを減らしていく。
すぐに戦闘は終了して2人は笑顔で引き上げてきた。
新生パーティ『アルケイン』の文句なしの大勝利だった。
しばらくするとレッサードラゴンの大群が、こちらに向かって移動してくるのが見えてくる。
「さすがケースケ、バッチリ予想通りね。好き勝手に動いてるように見えた『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』の移動経路を割り出してみせた腕は健在ね」
まるで自分のことのように嬉しそうに言ってくれたシャーリーに、
「今回は冒険者ギルド本部の用意した資料がついてたからな。アレほんとよくできてたんだよ。だから俺じゃなくても導き出せたと思うぞ」
俺は手柄を誇るでもなく正直に答えた。
事実、クエスト用にと渡された資料には欲しい情報が全部詰まっていたのだから。
「お父さんってああ見えて仕事はできるし、周りのスタッフもすごく優秀なのよね」
そう苦笑しながら言ったシャーリーは、スカート丈の短い赤と黒のゴシックドレスに身を包んでいた。
もちろんドレスといってもただのドレスではなく、冒険者向けの特殊仕様ドレスで、アイセルのビキニアーマーと同じように様々な防御加護が施されている高価なものだ。
「そうみたいだな」
俺も普段から情報収集してるから実感として分かるんだけど、地方ギルドの情報精度とは正確さが段違いだった。
「だっていうのに、アタシのことになるとすぐ頭に血が上っちゃうのよね」
「きっとそれだけシャーリーさんが愛されているんですよ」
「親バカってやつね!」
「あはは、もう少しだけ愛し方を考えてくれると嬉しいんだけどね」
「よし、世間話はその辺にして、そろそろ距離も縮まってきたし作戦をおさらいしておこう。もう少し引き付けてから、まずはシャーリーが範囲攻撃魔法で先制攻撃。その後アイセルとサクラで残った個体を討伐する」
「了解です」
「オッケー!」
「久しぶりだから腕が鳴るわね」
「まずは一発派手に頼んだぞシャーリー、ガツンとかましてやってくれ」
「任せなさいってば。それにパーティ『アルケイン』の先輩2人に、アタシの実力を認めてもらわないといけないからね」
そう言うとシャーリーがずいっと前に出た。
そしてまっ白な美しい杖を両手で構えると、呪文の詠唱を開始した。
魔法を使うには呪文が必要なのだ。
「風は歌い、星は巡る――。世界を形造りし神なる元素よ、我はあまねく森羅万象の探究者なり。我が意に応じたまえ、其は始まりの光にして全てを薙ぎ払う極光の渦。光あれ! 極光殲滅魔法、オーロラ・ボルテクス・エクスキューション!」
シャーリーの呪文が完成するとともに、空に巨大な極光の魔法陣が浮かび上がった。
光の魔法陣がグルグルと回転しはじめると、その周囲に極光が渦を巻きはじめる。
そしてそれはいつしか天地逆さまになった極光の竜巻となって、天空から地上を蹂躙した。
荒れ狂う極光のかまいたちが、レッサードラゴンの群れに縦横無尽に襲い掛かっていく。
「……はい?」
「……えっ?」
それを見たアイセルとサクラが、ぽかーんと口を開けて固まった。
2人の気持ちはよく分かる。
俺も初めて見た時はなんの冗談かと思ったものだ。
極光の逆竜巻は15秒ほどで消え、後にはわずかな生き残りが残っているだけだった。
200体を超えるレッサードラゴンは今や30体ほどに大きく数を減らしていた。
これが世界で唯一無二のオンリーワン、魔法と呼ばれる古代の技術を現代に復活させた『魔法使い』。
『極光の殲滅姫』シャーリー=シェフィールドの誇る超必殺技だった。
「おっとと……」
シャーリーがふらついてバランスを崩した。
俺はシャーリーの横に並ぶように前に出ると、腰を引き寄せてその身体をしっかりと支えてあげる。
「お疲れさん、大丈夫か?」
「ごめん、久しぶりだったのと、アイセルとサクラにいいとこ見せようとしてちょっと張り切り過ぎちゃったみたい」
「みたいだな。ここまで派手にやったのは久しぶりに見たぞ。魔法を使うとめちゃくちゃ疲れるんだろ?」
俺も詳しい理論はさっぱり分かってなくて、シャーリーから簡単に聞かされただけなんだけど。
魔法を使うには呪文の詠唱をしながら、頭の中でものすごい高速演算をして魔法式というのを組み上げ、『世界を形作る元素』なるものにアクセスするらしいのだ。
しかも自身の生命エネルギーを媒介にするから、肉体的疲労も相当なものなのだとか。
「元々これは1発フルパワーで撃ったら数日は心身ともにお疲れモードになっちゃうから。次からはもうちょっと手加減しないとね」
「一人で立てるか? それとも少し横になるか?」
「もう少しだけこうやってケースケに隣で支えてもらいたいかも、そっちのほうが役得だし」
「分かった。アイセル、サクラ。ここからは2人の出番だ。俺はここでシャーリーを見てるから、残ったレッサードラゴンを蹴散らしてきてくれ。生き残ってる個体もかなりダメージを受けてるはずだから、そんなに手間はかからないはずだ」
「は、はい!」
「う、うん!」
シャーリーの使った『魔法』のすごさを見せつけられて呆気に取られていたアイセルとサクラが、我に返って行動を開始する。
丘を下っていった2人はすぐに残党狩りを始めた。
2人は絶妙の連携戦闘で、レッサードラゴンの数をどんどんを減らしていく。
すぐに戦闘は終了して2人は笑顔で引き上げてきた。
新生パーティ『アルケイン』の文句なしの大勝利だった。