新たに『魔法使い』シャーリーを加え4人になったパーティ『アルケイン』は、馬車で数日かけて南部諸国連合の中央都へとやってきていた。

 着いたのは昨日で、シャーリーは実家に泊まっていて、俺たちは宿で一泊している。
 シャーリーとはちょうど今、再合流したところだった。

 ここで冒険者ギルド本部のギルドマスターをしているシャーリーのお父さんに、彼氏として紹介されるのが今回の俺のミッションだ。

 今日の俺は髪をオールバックに固め、清潔感のある服に身を包んでいる。
 挨拶の口上も考えてあるし、手土産にちょっといいお酒も用意していた。

 少し緊張はしているものの、準備にぬかりはない。

「中央都にはこの前来たばっかりなのに、まさかまたすぐ来ることになるとはな。普段来ることのないところに短期間で立て続けに来ると、なんだか不思議な感じがするよな」

「あ、私、買い物行きたい! アイセルさん一緒に行こう? この前は人と会ってばっかりだったから、今日は色々見て回りたいなぁ」

 おいサクラ、俺の発言は当たり前のようにスルーかい。
 まぁもう慣れたけどね。

「ごめんねケースケ、手間とらせちゃって」

 そんな俺にシャーリーが少し申し訳なさそうに声をかけてくる。

「いいっていいって。それに俺だって、シャーリーの意に沿わないお見合いは間違ってるって思うしな」

 もちろんお見合いそのものを否定する気はない。
 お見合いで幸せな結婚をするケースもたくさんあるだろう。

 だけど当の本人が納得していないのなら、やっぱりそれは違うと思うんだよな。

「じゃあケイスケとシャーリーはお父さんに会いに行って、私とアイセルさんは街で買い物。夜に宿で落ち合うってことで」

「なんでいつの間にサクラが仕切ってんだよ……まぁいいけどさ」

 俺とシャーリーはアイセル&サクラと別れると、冒険者ギルド本部へと向かった。

 冒険者ギルド本部のギルドマスターともなればとても忙しいらしく、ギルドの中で仕事の合間に会うことになっていたのだ。

 ギルドマスターの執務室はギルドの3階にあった。

 応接室を兼ねた小洒落た部屋に通されると、そこには一人の男性がいて。

「ようこそケースケ=ホンダム君。クレイグ=シェフィールドだ。会うのは初めてだが、君のことは昨晩、我が娘シャーリーからいろいろと聞かされて、それなりに知っているつもりだよ」

 ギルドマスターは堅苦しい口調で威厳たっぷりにそう言ってきたんだけど、

「え? あ、いえ、先日Sランクパーティに昇格した時のレセプションで、少しですが顔を合わせて話したかと……」

「そういえば、あのパーティにバッファーがいたような……そうか、君だったのか」

「ええ、はい」

 ……まぁ覚えられてないのはある意味仕方がない。

 ただでさえ話題の中心は若くて可愛い&絶対エースのアイセルだったうえに、俺もアイセルの名前を売るにはまたとない機会だと考えて、ひたすらアイセルを立てることに徹して俺自身は極力目立たないようにしてたからな。

 だからまぁ顔も名前も記憶すらされていないのは仕方ないんだけど、シャーリーは俺のことを昨日お父さんに伝えているんだよね?

 シャーリーはお父さんに俺の何を話したのかな?
 もしくはお父さんは、最初から聞く気がなかったりしませんでしたか?

「ワシも忙しいのでな、早速本題に入るとしよう。君はシャーリーと付き合っているそうだね? これは事実かい?」

「もちろんです、シャーリーさんとは良いお付き合いをさせていただいています。ですのでお見合いの件は、なかったことにしていただきたいんです」

「断固拒否する」

「……いやあの、えっと?」

 よもやよもや。
 のっけからこれ以上なくはっきりと断られてしまうとは。

「たかがバッファーなんぞに、ワシの大切な娘は任せられんと言ったのだ!」

 そして追い打ちをかけるようにまるで大型魔獣の咆哮のような、大気がビリビリと震えるほどの大声が飛んできた。

 さすがは冒険者ギルド本部のギルドマスターだ、迫力が半端ない。
 正直ビビりました。

 そんな想定外すぎる展開の連続に、俺が内心の動揺を必死に顔に出さないようにしていると、

「ちょっとお父さん! ケースケはSランクの勇者パーティの元メンバーで、今もパーティ『アルケイン』を結成わずか1年弱でSランクに引き上げてみせた有能な人材よ。たかがバッファーだなんて失礼なこと言うのはやめてよね」

 シャーリーが俺を擁護するべく、すかさず割って入ってきてくれた。