「さてと。ケースケが居なくなったところでアイセル、腹を割って話しましょうか」

 シャーリーが同性ですらドキリとするような、女神のような笑み浮かべながら言った。

「そうですね……はい」

 そんなシャーリーの言葉を予測していたかのように、アイセルは決意を固めたような強い眼差しで答える。

「もうそんな怖い顔しないでよね。アタシはアイセルと仲良くしたいって思ってるんだから」

「仲良く……ですか?」

「そ、仲良くよ。今日話してみてわかったわ。アタシとアイセルは手を取りあえると思うの」

「……どういう意味でしょうか?」

「この際だから単刀直入に言うけど、アタシたちって似た者同士だと思うのよね。ケースケのことが好きで、そして独占欲も強い方」

 シャーリーの率直な物言いに、

「否定はしません。わたしはケースケ様が大好きですので」

 アイセルもはっきりと気持ちを伝えて返した。

「だからそんな怖い顔しないでってば。言ったでしょ、アタシはアイセルと仲良くしたいんだって」

「すみません、内容が内容なのでつい……」

 アイセルが一度深呼吸をして気持ちを落ち着けるのを待ってから、シャーリーは言葉を続ける。

「それでね? そんなアタシたちが正面切ってケースケを奪い合うことになったら、それはもう醜い泥沼の争いになることは、火を見るよりも明らかだと思うのよ」

「それは……そうかもしれませんね」

 アイセルはケースケが他の女性に、たとえばシャーリーの恋人になってしまった姿を想像した。
 それを見て冷静でいられる自信は、はっきり言ってゼロだった。
 そうなる前に死ぬ気で戦わなければならないと、強く強く思った。

「女の争いは時に男がドン引きするほど醜いわ。大きな禍根を残すし、最悪共倒れしちゃって、ポッと出のどこかの誰かさんにかっさらわれるかもしれない。それだけは避けたいの」

「それはまぁ、たしかに」

「ちなみにアタシはケースケを譲る気はないからね? せっかくケースケがフリーになったんだから、本気で取りにいくわよ? もちろんアイセルだって譲る気なんてさらさらないわよね?」

「もちろんです!」

 力強く言って、グッとこぶしを握るアイセル。

「だから提案。2人でケースケをシェアしない?」

「シェア……ですか?」

「王侯貴族は愛人を囲ってるのが普通だし、男女比に一方的に偏りのあるパーティがハーレム化するのは、無い話じゃないわ。ケースケみたいなサポート専門の後衛職が中心になるのは珍しいけどね」

「ハーレム……」

「ケースケから見ればハーレムだけど、アタシたちにとってはケースケのシェアね」

「……」

「アタシたちが独占欲をぶつけ合って泥沼の争奪戦を繰り広げて、それでケースケに嫌われるかもしれない本末転倒で最悪の未来よりも。お互いに少しだけ我慢しあって、2人で手を取り合って同時攻略する方がきっと未来は明るいと思うんだけど?」

「それは……でも……」

「ねぇ、アイセルは昔のケースケのことって知りたくない?」

「昔のケースケ様のことですか?」

「勇者パーティ時代のケースケのことを、アタシはアイセルにたくさん教えてあげられるわよ? たとえば大森林の深部探索中にまさかの迷子になっちゃって、ケースケの機転でなんとか元来た道に戻れた話とか」

「そ、そんな話が……!?」

「他にもいっぱいあるわよ? 知りたくない?」

「そ、それはその、知りたいです……とても知りたいです」

「うんうん、だよね? その代わりに、アイセルには最近のケースケのことをアタシに教えて欲しいの」

「等価交換というわけですね?」

「そういうこと。ね、アタシたちって仲良くできそうでしょ? 決して悪い話じゃないはずだから、よく考えてみてくれないかな?」

 言われた通り、アイセルはシャーリーの言葉をかみ砕いて考えてみた。