「ねぇシャーリー、純粋な疑問なんだけど」

「なに、サクラ?」

「正直言ってシャーリーみたいな知的美人が、ケイスケみたいなパッとしないバッファーを好きになる理由が分からないかなって思う」

「お前はほんと正直だな。正直すぎてある意味惚れ惚れするよ」

「ふふん、それが私の魅力だから」

「胸を張ってんじゃねーよ、褒めてないっつーの」

「なに言ってるのよケイスケ、『正直』は褒め言葉でしょ?」

「はいはいそうだね、俺が間違ってるね」

 自分の心にどこまでも素直に生きていらっしゃるサクラを、俺はどこか羨ましく思いながら。
 でも実のところサクラの疑問は俺の疑問でもあったので、俺はシャーリーへと視線を向けた。

「うーん、そっか。サクラにはまだケースケの魅力は分からないかな。ケースケは普段から細やかな気配りができる、かゆいところに手を届かせてくれるタイプなのよ」

「はぁ……つまりなんでもやってくれる召使いみたいな? たしかにケイスケは面倒なことでも何でもやってくれるけど」

 おいこら誰が召使だ、誰が。

「うーんちょっと違うかな。ま、サクラはまだまだぱっと見がいい感じの男の子が好きな年頃だもんね。こればっかりは人生経験かな」

「ふぅん……」

 サクラはイマイチよく分かってない顔をしていた。
 俺もやや分かってなかったりする。

 だってシャーリーなら、お付き合いする相手はそれこそより取り見取りだろう?
 俺の上位互換なんていくらでもいるはずだ。

 まぁでも人の気持ちってのは目に見えないもんだし、他人には分からないものだよな。
 人の頭の中は覗けない以上、好意を抱いてもらって嬉しいとだけ今は思っておこうか。

 あと一つ付け加えるなら、異性としての俺の品評会はできれば俺がいないところでやって欲しいかな?

「それで話を戻すんだけど、2つ目のお願いはどうかしら?」

「シャーリーは昔馴染みだし、俺ができることなら協力するのはやぶさかじゃないよ」

「じゃあすぐにお父さんに会って――」

「わたしは反対です!」

 しかし話がまとまりかけたところで、アイセルが我慢できないといった様子でグワッと大きな声で反対を表明した。

「珍しいな、アイセルがこんなにはっきりと反対するなんて。なにか理由でもあるのか?」

 アイセルは基本的に控えめで奥ゆかしい。
 しかも俺のことを心から信頼してくれているから、俺の意見にはほぼ無条件で賛成してくれるのだ。

 そんなアイセルがこうも激しく反対するからには、相応の理由があるはずだった。

「り、理由ですか!? 理由!? 理由はその、だって、あの、えっと、その、だから……」

「えっと、アイセル?」

「……はっ! そうです、シャーリーさんのお父さんを騙すことになります。それはとても不誠実であり、非人道的かつ親不孝な悪行であり大変良くないことだと思います! なので決してケースケ様とカップルごっこして家族に紹介するのが羨ましいとか、そういう個人的な理由からではありませんので!」

「まぁ確かにそれはそうかもな」

「で、ですよね!」

 もし俺がニセ彼氏だとバレたら、シャーリーのお父さんはきっとがっかりするだろう。
 お父さんもシャーリーの幸せを心から願っているからこそ、これはというお見合いの話を持ってきてるんだろうし。

 でも。
 それがシャーリーの意に沿わないのなら、やっぱりそれはシャーリーの幸せにはならないわけで。

 うーん、悩ましいなぁ。

 俺がどうしたものかと少し頭を悩ませていると、

「ねえケースケ。話してたらちょっとのどが渇いてきちゃった。気分転換もかねて紅茶でも飲みたいんだけど、ギルドのカフェで頼んできてもらってもいいかしら?」

 シャーリーが突然そんなことを言ってきた。

「そうだな、俺もお茶でも飲んでいったん頭を整理したいかも。じゃあ4人分の紅茶を頼んでくるから待っててくれ」

「ついでに杏仁豆腐もお願いしていい? ここの杏仁豆腐はすごく美味しかったから」

「あ、私もー」

「了解。じゃあちょっと行ってくる」

 俺はシャーリーに頼まれて、カフェまでお茶を頼みに行くことにした。