「ところでケースケ」

 シャーリーが使い終わったチェッカーを片付けながら俺を呼んだ。

「なんだ?」

「実はケースケに折り入ってお願いがあるんだけど。2つほど」

「2つお願い? 内容にもよるけど聞くだけならまぁ」

「じゃあまず1つ目なんだけど、アタシをパーティ『アルケイン』に入れてくれないかしら?」

「シャーリーをパーティのメンバーに?」

「アタシ、またケースケと一緒に冒険したいのよね。だめかな?」

「俺はシャーリーのことをよく知ってるから別に構わないんだけど、でもさすがにそれは俺の独断じゃ決められないかな。とりあえず保留ってことで。もう一つは?」

「こほん、それはね……その……ね?」

「なんだよ?」

 『ね?』って言われてもな。
 俺は昔話に出てくる心が読める悪い魔法使いじゃないんだから、それじゃ分からないよ。

 しかもシャーリーは急に俺から視線を外すと、あせあせいそいそと身だしなみを整え始めたのだ。
 シャーリーは常に相手の目を見て何でもハキハキ言うタイプだから、こういう態度をとるのはすごく珍しいな。

 しかも王さま相手とかじゃなくて、なんでも話せる仲のいい俺相手にときたもんだ。

「ねぇケースケってさ、今フリーなのよね?」

「いや違うぞ?」

「えっ!?」
「えっ!?」

 シャーリーと、なぜかアイセルまでが驚いた声をあげた。

「……? 何か変なこと言ったか? 見ての通りパーティを組んでるだろ? 今の俺をフリーの冒険者とは言わないと思うんだけど」

 って言うかパーティに入れてくれって、ついさっき頼んできたのはシャーリーだよな?
 いったい何を言ってるんだ?

「ケースケがパーティを組んでるのは分かってるわよ。今のはそう言う意味じゃなくて」

「じゃあどういう意味なんだよ?」

 イマイチ要領を得ないシャーリーの言葉に、俺は首をかしげた。

「もう、普段は無駄に気が利く癖にこんな時だけ狙ったように察しが悪いんだから。もしかしてわざとやってるの?」

「だからなんの話だよ?」

「だからその……つまり……」

「つまりなんだよ?」

 ふむ。

 割となんでも言い合える関係だった俺に対してシャーリーがこんな言いにくそうな態度をとるんだ。
 それはつまり、よほど伝えるのがはばかられる重大案件ということに違いない。

 俺はかなりシリアスかつセンシティブな問題が告げられるのだろうと直感し、背筋を伸ばして真剣に聞くことにした。

 シャーリーは「まったくもう……」とか「ぼくねんじん……」とか、小さな声でつぶやきながらなんとも挙動不審な態度をしばらくとったのち、

「こほん、じゃあ言うわね?」

 そう言って逸らしていた視線を戻すと、俺の目をいつものように――いやいつも以上に強いまなざしで見つめて言ったんだ、

「ケースケ、アタシの彼氏になってくれないかしら?」

 ――って。

「彼氏……?」

 って彼氏?
 付き合ってる男女の男の方?

 つまりシャーリーは俺と付き合いたいってこと?
 つまりシャーリーが俺を好き?

 ははは、いやいやまさかな。
 俺の聞き間違いに違いない。

 なんてったってシャーリーは明るくて聡明で、そして誰もが認める絶世の美女だ。
 しかも世界で唯一の『魔法使い』。

 気に入らない相手に対してはちょっと性格がきついところもあるけど、冴えないバッファーの俺なんかを好きになるはずがないもんな。

 まったくなんの冗談だよ――俺がそう笑って答えるよりも先に、

「ダメです! 却下です! ノットグッドです!」

 会話していた俺とシャーリーの間にズイっと入ってきたアイセルが、ふーふーと鼻息も荒く言った。

 俺はそんなアイセルを優しくなだめる。

「アイセル。シャーリーの冗談を真に受けちゃだめだぞ」

「冗談じゃあないわね」

「むむむっ!」

 アイセルの表情が険しくなった。

「あのなぁシャーリー。アイセルは真面目で冗談が通じないタイプなんだから、変な冗談を言ってからかうのはやめてあげてくれ」

 だけど笑って流そうとする俺に、

「だから冗談じゃないんだってば」

 シャーリーは真面目な顔をして言ってくるんだよ。

 しかもちょっと顔を赤らめながら。
 まるで恋する乙女のように。

「……ほえっ?」

 だから俺がそんな間抜けな声をあげてしまったのは、無理もないことだろう?

「なんだかイマイチ伝わってないみたいだからもう一度言うわね。ケースケに、アタシの彼氏になって欲しいって言ったのよ」

 な、な、な――、なんだって――っ!?

「えっと、その、ど、どういうこと!?」