「なんだなんだ、お前らって知り合いだったのかよ」

「シャーリー様とはパーティで何度かお会いしたことがあるんです」

「ふぅん。っていうかサクラ、さっきからそのいいとこのお嬢さまみたいなしゃべり方はなんなんだ? はっ! まさか病気なのか!? それとも変なものでも拾って食べたのか!? 大変だ、早く医者に診てもらわないと!」

 芝居がかった口調で言った俺に、

「はぁ!? 私はレディとしての教育を受けた、正真正銘いいとこのお嬢さまよ!」

 サクラがいつものようにガーッ!っと吠えて返してきた。
 さすがサクラ。
 防御力ゼロ、布の服のような煽り耐性の低さだ。

「そうそうそれそれ、やっぱサクラはそうじゃないとな。急に借りてきた猫みたいに大人しくなるから心配したじゃないか」

 いやー、これにはパーティの実質リーダーとして俺も一安心だよ。

「ケイスケはほんと失礼ね! 私はシャーリー様みたいに強くて美しいレディになりたいの! 憧れなの!」

「あ、そういうことか。実はサクラってどことなくシャーリーと雰囲気が似てるなってずっと思ってたんだよな。でも似てるんじゃなくて、シャーリーの真似をしてたわけだ。そっかそっか。いやー、世界って広いように見えて時々狭いよな」

「なにしみじみと頷いてるのよ、おっさんくさいわよ」

「その煽りは地味に傷つくから、やめてくれると嬉しいな……」

 「おっさん」+「くさい」のシナジーによる破壊力はマジ半端ないです。

「ご、ごめん……」

 とまぁ、俺とサクラがいつもの掛け合い漫才をやっていると、

「あら、普段のサクラはそういう話し方なのね」

 シャーリーが驚いたような顔をサクラに向けた。

「あ、いえ、その、必ずしもそういう訳ではないんですけど……もうケイスケのバカ! シャーリー様に誤解されちゃったでしょ!」

 憧れのシャーリーの前で素を暴かれてしまい、俺に八つ当たり気味に逆ギレしてくるサクラだけど、

「誤解も何も、それがいつものサクラじゃないか」

 俺は勝ち誇った顔で一笑に付してやった。

「うがーーっ!!」

「ふうん、仲もいいのね。サクラにとってそれだけケースケが特別な相手ってこと? もしかしてケースケに好意があったりとか?」

「まさかそんなことは天地が翻ってもありませんから! だってケイスケはバッファーなんですよ!?」

「おいこらお前な」

 確かにバッファーは不遇職だし、戦闘ではろくに役に立たないし、みんなすぐ辞めるからそもそも職業人としてのバッファーはほとんどいないんけど。
 でもそんなバッファーだって必死に生きてるんだからね?

「うーん、サクラにはまだちょっとケースケの魅力は分からないかな?」

「魅力ぅ? ……ですか?」

「その『みりょくぅ~?』って言いかたイラっとするなぁ。俺にだって魅力はあるっつーの」

「例えば?」

「例えばほら……、ほら……、ほら…………いろいろだよ」

「どうせなんにも思いつかなかったんでしょ?」

「ま、まぁなんだ? 自分で自分の魅力がどうのこうのひけらかすのはどう見ても痛い人だもんな。俺もいい大人だから、ここは敢えてあげないで黙っておこうかな、うん」

「はいはい、そういうことにしといてあげるわ」

「ふふっ、2人はほんとに仲がいいのね。ちょっとうらやましいかも」

「だからほんとに違うんですってば!」

「ねぇサクラ、それなんだけど」

「はい?」

「アタシにも普通に話してくれて構わないわよ? ここは社交界じゃないんだし、もっとフランクにいきましょ?」

「ですが……」

「さっきアイセルにも言ったけど、アタシは堅苦しいのはあまり好きじゃないのよね。アタシにだけ丁寧に話されると、のけ者にされてるみたいで悲しいかな」

「うっ、じゃあ普通にしゃべります……しゃべるね」

「うんうん、そっちのサクラのほうが自然でアタシは好きよ」

「ほんとですか? ありがとうございます!」

 おおっ?
 こっちもなんかいい感じじゃない?

 それもこれも俺がサクラの素の部分を引き出してやったおかげだよな。
 ちゃんと俺に感謝するんだぞサクラ。

「じゃあ無事に自己紹介も終わったところで、早速で悪いんだけどキング・オー・ランタンの新種認定をしてもらおうか」

「その前に一つだけいいかしら?」

「なんだ?」

「ちょうど杏仁豆腐が3つ運ばれてきたみたいなんだけど、アタシの大好物なのよね。一緒に食べてもいい?」

 シャーリーがにっこり笑顔で言った。

 その後、運ばれてきた3つの杏仁豆腐を美味しそうに食べはじめた3人の女の子たち。
 俺の頼んだ杏仁豆腐はもちろんシャーリーに食べられてしまいました。

 シャーリーは杏仁豆腐が大好きだったもんなぁ。