「じゃあ行くぞ。S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』発動」
俺がバフスキルが発動すると、もともと高レベル&ハイスペック持ちに加え、俺が特に状態異常耐性を強く発動させたこともあって、勇者アルドリッジはすぐに立って歩けるくらいにはなった。
「さて、とっととお日様の元に帰るか――ってアイセル、どうした?」
そこで俺は、アイセルが非常に険しい顔をしていることに気が付いた。
「アイセルさんどうしたの?」
サクラの問いかけに、
「大型の魔獣です。奥の方から1体、すごいのが近づい来てます。走れない人を連れて逃げるのは少し厳しいかもですね……」
アイセルが険しい顔のままで答えた。
「ふむ、ってことは十中八九、勇者を行動不能にしたやつだな」
俺が勇者に視線を向けると、
「すまない、撒いたと思ったんだけど。ボクのことはいい、アンジュを連れて早く逃げてくれ」
勇者はそんな殊勝なことを言ってきやがるのだ。
なんだその態度、気持ち悪い奴だな。
俺に土下座したことで、ご自慢のプライドが砕け散ったのか?
たかがバッファーの俺ごときに土下座するのはそんなに嫌だったか?
「ちょっとアルドリッジ、そんなことできるわけないでしょ!」
アンジュは勇者にそう言った後、すがるような視線で俺を見た。
勇者を置いて逃げるくらいなら自分もここで死ぬ──とでも言わんばかりで、非常に不愉快な光景だった。
ただ、さっきアイセルにはたかれて目を覚ましてもらっていた俺は、それを見て不愉快には思ってもそんなに怒りは沸いてはこなかった。
あのビンタで、俺もやっとこさアンジュのことに心の底から踏ん切りがついたんだろうな。
それでも少しだけ。
アンジュの心が完全に俺には向いていないことを再認識させられて。
そのことが少しだけ悲しかった。
「――ま、助けると決めた以上、置いていくわけにはいかないか。少し戻ったところに広めのスペースがあっただろ。そこで迎え撃とう」
「了解ですケースケ様!」
「ふふん、この私に任せなさいよね!」
「だめだ、あれは勝てる相手じゃない……逃げるんだ」
「悪いな、パーティ『アルケイン』は合議制なんだ。だから勇者様のありがたいお言葉でも覆らないのさ。あと根本的に俺はお前の言うことを聞く気がない」
勇者と慣れ合うのだけは死んでもごめんだね。
「そう、か……」
「ってわけで勇者アルドリッジ、魔獣を討伐するんだからぐだぐだ言ってないでとっと持ってる情報を全部出せ。どんな魔獣にやられたんだ?」
なんだかんだで勇者とアンジュは、南部諸国連合全域でもぶっちぎりの最強冒険者だ。
だから相当強力な魔獣が出たのは間違いないはずで、だから驚かないように心構えはしておこう――、
「……レインボードラゴンだ」
「……は? ……ドラゴン?」
勇者のその言葉を聞いて、俺は思わずおうむ返しに聞き返してしまっていた。
心構えとかそんなもんは一瞬で吹き飛んでいた。
だって今『ドラゴン』って聞こえたんだけど?
知っての通り『ドラゴン』は魔獣の中でも最上位に位置する強力な種族だ。
ランクは一般的に最上位であるAランクを越えたSランク――のさらに上の例外的なSSランクとして分類されている。
「レインボードラゴンが出たんだ。博識のケースケなら知っているだろう。炎、氷、風、雷、麻痺毒、物理、デバフの7種のブレスを使うやっかいなドラゴン種だ」
「もちろん知ってるさ。『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』を討伐するときに、ドラゴンに関する古い資料を徹底的に調べ上げたのは他でもないこの俺だぞ?」
特別な許可をもらって入った王立図書館の禁書庫にこもって、読むのすら難解な古文書を片っ端から読み漁った苦労は今でも忘れることはない。
まぁそのおかげで、普通の冒険者では知り得ない多種多様な知識を得ることができたんだけど。
「ケースケ様、レインボードラゴンってどんなドラゴンなんですか?」
アイセルがぴょこんと手をあげて質問してきた。
「超大型がほとんどのドラゴンにしては小さい中型サイズで、デバフ・ブレスでこっちの耐性を下げてくるのが一番の特徴だな。そこからブレスを色々と切り替えて攻撃してくるから、対処がやっかいなんだ。でもそうか、レインボードラゴンね……」
「アレは準備もなしに勝てる相手じゃない。ボクを置いていけば他は全員が助かる。逃げるべきだ」
「ふーん、そう。じゃあ前衛はアイセルとサクラ、やり方は任せる。俺は後ろでこの2人と一緒にいるから気にしないでいいぞ。少なくとも俺を置いて逃げはしないだろ、人としてな」
俺は勇者のありがたいお言葉をサクっと無視すると、アイセルとサクラに戦うための指示を出した。
俺がバフスキルが発動すると、もともと高レベル&ハイスペック持ちに加え、俺が特に状態異常耐性を強く発動させたこともあって、勇者アルドリッジはすぐに立って歩けるくらいにはなった。
「さて、とっととお日様の元に帰るか――ってアイセル、どうした?」
そこで俺は、アイセルが非常に険しい顔をしていることに気が付いた。
「アイセルさんどうしたの?」
サクラの問いかけに、
「大型の魔獣です。奥の方から1体、すごいのが近づい来てます。走れない人を連れて逃げるのは少し厳しいかもですね……」
アイセルが険しい顔のままで答えた。
「ふむ、ってことは十中八九、勇者を行動不能にしたやつだな」
俺が勇者に視線を向けると、
「すまない、撒いたと思ったんだけど。ボクのことはいい、アンジュを連れて早く逃げてくれ」
勇者はそんな殊勝なことを言ってきやがるのだ。
なんだその態度、気持ち悪い奴だな。
俺に土下座したことで、ご自慢のプライドが砕け散ったのか?
たかがバッファーの俺ごときに土下座するのはそんなに嫌だったか?
「ちょっとアルドリッジ、そんなことできるわけないでしょ!」
アンジュは勇者にそう言った後、すがるような視線で俺を見た。
勇者を置いて逃げるくらいなら自分もここで死ぬ──とでも言わんばかりで、非常に不愉快な光景だった。
ただ、さっきアイセルにはたかれて目を覚ましてもらっていた俺は、それを見て不愉快には思ってもそんなに怒りは沸いてはこなかった。
あのビンタで、俺もやっとこさアンジュのことに心の底から踏ん切りがついたんだろうな。
それでも少しだけ。
アンジュの心が完全に俺には向いていないことを再認識させられて。
そのことが少しだけ悲しかった。
「――ま、助けると決めた以上、置いていくわけにはいかないか。少し戻ったところに広めのスペースがあっただろ。そこで迎え撃とう」
「了解ですケースケ様!」
「ふふん、この私に任せなさいよね!」
「だめだ、あれは勝てる相手じゃない……逃げるんだ」
「悪いな、パーティ『アルケイン』は合議制なんだ。だから勇者様のありがたいお言葉でも覆らないのさ。あと根本的に俺はお前の言うことを聞く気がない」
勇者と慣れ合うのだけは死んでもごめんだね。
「そう、か……」
「ってわけで勇者アルドリッジ、魔獣を討伐するんだからぐだぐだ言ってないでとっと持ってる情報を全部出せ。どんな魔獣にやられたんだ?」
なんだかんだで勇者とアンジュは、南部諸国連合全域でもぶっちぎりの最強冒険者だ。
だから相当強力な魔獣が出たのは間違いないはずで、だから驚かないように心構えはしておこう――、
「……レインボードラゴンだ」
「……は? ……ドラゴン?」
勇者のその言葉を聞いて、俺は思わずおうむ返しに聞き返してしまっていた。
心構えとかそんなもんは一瞬で吹き飛んでいた。
だって今『ドラゴン』って聞こえたんだけど?
知っての通り『ドラゴン』は魔獣の中でも最上位に位置する強力な種族だ。
ランクは一般的に最上位であるAランクを越えたSランク――のさらに上の例外的なSSランクとして分類されている。
「レインボードラゴンが出たんだ。博識のケースケなら知っているだろう。炎、氷、風、雷、麻痺毒、物理、デバフの7種のブレスを使うやっかいなドラゴン種だ」
「もちろん知ってるさ。『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』を討伐するときに、ドラゴンに関する古い資料を徹底的に調べ上げたのは他でもないこの俺だぞ?」
特別な許可をもらって入った王立図書館の禁書庫にこもって、読むのすら難解な古文書を片っ端から読み漁った苦労は今でも忘れることはない。
まぁそのおかげで、普通の冒険者では知り得ない多種多様な知識を得ることができたんだけど。
「ケースケ様、レインボードラゴンってどんなドラゴンなんですか?」
アイセルがぴょこんと手をあげて質問してきた。
「超大型がほとんどのドラゴンにしては小さい中型サイズで、デバフ・ブレスでこっちの耐性を下げてくるのが一番の特徴だな。そこからブレスを色々と切り替えて攻撃してくるから、対処がやっかいなんだ。でもそうか、レインボードラゴンね……」
「アレは準備もなしに勝てる相手じゃない。ボクを置いていけば他は全員が助かる。逃げるべきだ」
「ふーん、そう。じゃあ前衛はアイセルとサクラ、やり方は任せる。俺は後ろでこの2人と一緒にいるから気にしないでいいぞ。少なくとも俺を置いて逃げはしないだろ、人としてな」
俺は勇者のありがたいお言葉をサクっと無視すると、アイセルとサクラに戦うための指示を出した。