「ちょっとちょっと、そんなこと悲観的なことばっかり言わないでよね。パパにパーティを作ってもらって、必死にレベル8まで上げたのよ!?」

「ああうん、よくがんばったな」

 主に駆け出しバーサーカーの面倒を見たパーティの人が、な。
 嫌味になるから言わないけど。
 俺は年長者だからね。

「でも私は特に怒りの精霊『フラストレ』の影響力が強いみたいで、暴れて大迷惑をかけちゃって。今はもう一緒にパーティを組んでくれる人すらいないの……」

「そりゃそうだろうよ。だからバーサーカーは不遇職でレアジョブなんだ」

 しかもサクラが今自分で言っていたけど、どうもサクラは怒りの精霊『フラストレ』の影響が特に強いらしい。

 レベルが上がって力を使いこなせるようになれば大化けするんだろうけど、いまだレベル8。
 あまりに先が長すぎた。

「ああ神様、私は普通の冒険者になりたかったのに、どうしてバーサーカーなんて不遇職に……」

「俺もさ、その気持ちは分からなくもないんだ」

 職業は自分で選べない。
 最初に冒険者として認識票を作った時に、天の采配とかいって勝手に決まってしまうのだ。

 俺も自分が後衛不遇職のバッファーだと分かった瞬間、目の前が真っ暗になったから、だからサクラの気持ちは痛いほど分かるんだ。

「じゃあ――!」

「でもそれとこれとは話が別だ。味方に殺されたら堪ったもんじゃない」

 既に歴戦の魔法戦士となったアイセルならまだしも、バフスキルがある以外は一般人と変わらないバッファーの俺がバーサーカーに襲われたら、文字通り瞬殺されてしまう。

 駆け出しのバーサーカーのパワーレベリングに付き合って味方殺し(フレンドリ・ファイア)されたとか、本気で笑えないからな。

「安心して。私、味方殺し(フレンドリ・ファイア)は今まで一度もしたことないから。せいぜい複雑骨折させただけ」

「骨折でも充分すぎるわ! はい、話は終了だ。ソロでがんばってくれ」

「ううっ……そんなぁ……。元・勇者パーティのケイスケなら何とかなるって思ったのに……もう頼る相手がいないのに……」

 俺にはっきりと拒絶されて、サクラはうつむきながらトボトボと去って行った。

 その哀愁漂う後ろ姿に少し同情心をくすぐられながらも、「いやいや(ほだ)されてはいかん」と心を鬼にして見送ってると、アイセルが上目づかいで聞いてきた。

「あの、ケースケ様。バーサーカーの『狂乱』のスキルはケースケ様のバフスキルでは抑え込めないんでしょうか?」

「いや、できなくはないよ。『狂乱』も突き詰めれば状態異常の1つだからな」

 状態異常耐性を特に強くバフしてやれば、レベル8でも怒りの精霊『フラストレ』の力をある程度コントロールできるようになるだろう。

「ならどうして――」

「正直言って、バーサーカーかどうかはそこまで重要じゃなかったんだ。でもアイセルとパーティを組む時に言っただろ? 俺は俺を裏切らない相手としか組まないってさ」

 俺はもう2度と裏切られることだけは嫌だから。

「あのサクラという子は信用できませんでしたか?」

「パーティの名前が売れた途端に、仲間に入れてとすり寄ってくるようなやつを信用するほど、俺は甘くはない」

「それは、まぁ……」

「それとああいう何でもかんでもずけずけ言うタイプは好みじゃないかな」

 俺はアイセルみたいな控えめで気づかいのできる優しい子が好みだから。
 パーティメンバーという意味でも、女の子という意味でも。

「どうしてもだめでしょうか?」

「どうしてもだめだ」

「どうしてもどうしてもだめでしょうか?」

「どうしてもどうしてもだめだ」

「どうしてもどうしてもどうしてもだめでしょうか?」

「逆に聞くけど、なんでアイセルはそこまであの子に肩入れするんだよ?」

「……わかりません」
「わからんのかい」

「しいて言えば直感でしょうか。やる気があって素直でいい子だと思いました」
「直感ね……」

「それと少しだけ昔の自分と似ている気がして。駆け出しの頃にパーティを組んでもらえなかった自分を、つい重ねて見てしまいます」

「そうか」

「えっと、直感とか根拠があやふやですみません」

「いやレベル38の魔法戦士の直感は、それなり以上に信頼できるよ。アイセルがそう言うんならきっとそうなんだろうな」

「では――」

「それでもだめだ。俺はアイセルみたいな本当に信頼できる相手しかパーティには入れたくない」

「そうですか……わかりました。でしたらこの話はもうこれ以上は言いません」

 アイセルはきっぱりとそう言った。

 でも、う――っ。

 言葉とは裏腹に、アイセルはすごく悲しそうな顔をしてるんだよ。
 目に見えてしょんぼりしてるんだ。

 これじゃあまるで頑固な俺の方が悪いみたいじゃないか……。

 だけどパーティのメンバーに採用する基準だけは、俺的には絶対に譲れないことなんだ。
 俺はもう2度とあんな目にあうのだけは、ごめんだから――。