「ちょ、ちょっと待ってよ! もちろんタダでとは言わないわ。協力してくれるなら対価は払うから!」
やれやれまったく、なんでも金で解決しようって考えには困ったもんだな。
「言っておくが俺はパーティの大事なメンバーを金で選んだりはしない。世の中にはお金より大事なものがあるんだ。それは――」
「全額前金で1000万ゴールド払うわ」
「えっ、1000万ゴールド?」
それは信頼だ――と言いかけた俺は、そのべらぼうな金額を聞いて思わず聞き返してしまっていた。
「私ってこう見えてお嬢様だから、パパに頼めばそれくらいポンと出してもらえるから。もちろんかかった経費も全部こっちで持つわ」
「経費そっち持ちで1000万ゴールド? マジで? しかも全額前金で?」
ものすごい好条件を提示されて思わず食いついた俺を、
「ケースケ様、少し落ち着きましょう」
アイセルがやんわりとたしなめてきた。
「こ、こほん……」
いい年してお金に目が眩んで、10歳も離れた若い子にたしなめられるってかなり恥ずかしいよね……。
「で、どうなのよ? 金額に不満ならもうちょっと上乗せできると思うけど」
自称お嬢さまなサクラはさらにそう言ってくるんだけど、俺は既に冷静だった。
少しだけ後ろ髪を引かれるけどな。
少しだけな。
なにせ金額がデカいからね、興味をゼロにはできないよね。
だって人間だもの。
「あのなぁ、もしサクラが本当にいいとこの出なら当然、サクラの親とも話をつけないといけないだろ? 面倒ごとは勘弁してくれ」
「パパはちゃんと私の活動を認めてくれてるもん、パパ活だもん」
「家出娘ってたいていそう言うんだよなぁ……」
「だから家出じゃないもん! ちゃんとパパの許可もらってるもん! パパはパーティ『アルケイン』なら大丈夫って言ってくれたもん!」
そう言ってサクラは一通の手紙を見せてきた。
アイセルが覗きこんできたので開いて一緒に読んでみる。
「なになに……娘の我がままをどうか聞き入れていただきたく候、うんたらかんたら――ランパード=ヴァリエール。ヴァリエール?」
「ヴァリエールはうちのファミリーネームよ。サクラメント=ヴァリエールが私のフルネーム」
「え、なに、お前あのヴァリエール家の子供なの?」
「そうだけど? あれ、言ってなかった?」
「言ってないから。先に言えよな」
「あのケースケ様、ヴァリエールって確か――」
「ああ、猫探しクエストを依頼してきた、中央都市ミストラルでも随一のお金持ちだ」
猫探しクエストだけで気前よく100万、200万と払ってくれた上に、質流れしていた『星の聖衣』を買い戻してくれた人でもあった。
特に装備を買い戻してくれたことにはすごく感謝をしていて。
だからその、すごく断りづらい案件ですね……うん。
「いわゆるパトロンですよね、わたしたちの」
「うん、そうなるね」
自分に良くしてくれる有力者の身内というのは、大変断りづらいものがあります。
それでもやっぱりパーティに加えるとなると、やはり話は別だった。
アイセルは史上最高の勇者を目指すのだから。
俺が金に目が眩んでしなくてもいいパワーレベリングに付き合って、壮大な夢に向かって進むアイセルの貴重な時間を、浪費させるわけにはいかなかった。
「お願いケイスケ。私、一度途中で諦めたの、不遇職だったから」
「そっか、不遇職で一度諦めてたのか……」
俺は不遇職という言葉に少しだけ同情心がわいていた。
不遇職で諦める辛さが痛いほどに分かったから。
あと、1回り以上下のちびっこにいきなり名前を呼び捨てにされたことは、不問に付しておいた。
ヴァリエール家の娘にとっては、年上だろうが元・勇者パーティのメンバーだろうが、たかが冒険者の名前なんて呼び捨てる方が当たり前だろうからな。
「でもケイスケの活躍を知ってもう一回挑戦したくなったの。一度きりの人生を後悔しないように自分の意思で進んでみたいって、心の底から思ったの」
「それが超お嬢さまなのに、危険な冒険者を目指そうと思った理由か」
「うん。不遇職のバッファーなのに勇者パーティのメンバーになって、今も新しいパーティで活躍するケイスケに、諦めないことの大切さを教わった気がするから」
サクラは俺の目をしっかりと見つめながら、真摯な態度でそう答えた。
「あー、まぁ一応参考までに聞いておくけど、何の職業なんだ?」
バッファーほどでないにしても不遇職と呼ばれるものはいくつかある。
お世話になった人の娘さんだし、話を聞くくらいならいいかなと思ったんだけど。
しかし返ってきたのは想像を超えた答えで――。
「……バーサーカーなの」
サクラは小さな声でそう言った。
やれやれまったく、なんでも金で解決しようって考えには困ったもんだな。
「言っておくが俺はパーティの大事なメンバーを金で選んだりはしない。世の中にはお金より大事なものがあるんだ。それは――」
「全額前金で1000万ゴールド払うわ」
「えっ、1000万ゴールド?」
それは信頼だ――と言いかけた俺は、そのべらぼうな金額を聞いて思わず聞き返してしまっていた。
「私ってこう見えてお嬢様だから、パパに頼めばそれくらいポンと出してもらえるから。もちろんかかった経費も全部こっちで持つわ」
「経費そっち持ちで1000万ゴールド? マジで? しかも全額前金で?」
ものすごい好条件を提示されて思わず食いついた俺を、
「ケースケ様、少し落ち着きましょう」
アイセルがやんわりとたしなめてきた。
「こ、こほん……」
いい年してお金に目が眩んで、10歳も離れた若い子にたしなめられるってかなり恥ずかしいよね……。
「で、どうなのよ? 金額に不満ならもうちょっと上乗せできると思うけど」
自称お嬢さまなサクラはさらにそう言ってくるんだけど、俺は既に冷静だった。
少しだけ後ろ髪を引かれるけどな。
少しだけな。
なにせ金額がデカいからね、興味をゼロにはできないよね。
だって人間だもの。
「あのなぁ、もしサクラが本当にいいとこの出なら当然、サクラの親とも話をつけないといけないだろ? 面倒ごとは勘弁してくれ」
「パパはちゃんと私の活動を認めてくれてるもん、パパ活だもん」
「家出娘ってたいていそう言うんだよなぁ……」
「だから家出じゃないもん! ちゃんとパパの許可もらってるもん! パパはパーティ『アルケイン』なら大丈夫って言ってくれたもん!」
そう言ってサクラは一通の手紙を見せてきた。
アイセルが覗きこんできたので開いて一緒に読んでみる。
「なになに……娘の我がままをどうか聞き入れていただきたく候、うんたらかんたら――ランパード=ヴァリエール。ヴァリエール?」
「ヴァリエールはうちのファミリーネームよ。サクラメント=ヴァリエールが私のフルネーム」
「え、なに、お前あのヴァリエール家の子供なの?」
「そうだけど? あれ、言ってなかった?」
「言ってないから。先に言えよな」
「あのケースケ様、ヴァリエールって確か――」
「ああ、猫探しクエストを依頼してきた、中央都市ミストラルでも随一のお金持ちだ」
猫探しクエストだけで気前よく100万、200万と払ってくれた上に、質流れしていた『星の聖衣』を買い戻してくれた人でもあった。
特に装備を買い戻してくれたことにはすごく感謝をしていて。
だからその、すごく断りづらい案件ですね……うん。
「いわゆるパトロンですよね、わたしたちの」
「うん、そうなるね」
自分に良くしてくれる有力者の身内というのは、大変断りづらいものがあります。
それでもやっぱりパーティに加えるとなると、やはり話は別だった。
アイセルは史上最高の勇者を目指すのだから。
俺が金に目が眩んでしなくてもいいパワーレベリングに付き合って、壮大な夢に向かって進むアイセルの貴重な時間を、浪費させるわけにはいかなかった。
「お願いケイスケ。私、一度途中で諦めたの、不遇職だったから」
「そっか、不遇職で一度諦めてたのか……」
俺は不遇職という言葉に少しだけ同情心がわいていた。
不遇職で諦める辛さが痛いほどに分かったから。
あと、1回り以上下のちびっこにいきなり名前を呼び捨てにされたことは、不問に付しておいた。
ヴァリエール家の娘にとっては、年上だろうが元・勇者パーティのメンバーだろうが、たかが冒険者の名前なんて呼び捨てる方が当たり前だろうからな。
「でもケイスケの活躍を知ってもう一回挑戦したくなったの。一度きりの人生を後悔しないように自分の意思で進んでみたいって、心の底から思ったの」
「それが超お嬢さまなのに、危険な冒険者を目指そうと思った理由か」
「うん。不遇職のバッファーなのに勇者パーティのメンバーになって、今も新しいパーティで活躍するケイスケに、諦めないことの大切さを教わった気がするから」
サクラは俺の目をしっかりと見つめながら、真摯な態度でそう答えた。
「あー、まぁ一応参考までに聞いておくけど、何の職業なんだ?」
バッファーほどでないにしても不遇職と呼ばれるものはいくつかある。
お世話になった人の娘さんだし、話を聞くくらいならいいかなと思ったんだけど。
しかし返ってきたのは想像を超えた答えで――。
「……バーサーカーなの」
サクラは小さな声でそう言った。