アイセルについて調べ上げた結果は、俺が抱いていた印象と寸分たがわず同じだった。

「極度のあがり症で、戦闘になるとヘマばかりしてまるっきり使えないけど、真面目かつ筋力強化のスキルが使えるので、荷物持ちとしては極めて優秀。そしてこの近くの安宿に泊まっていると」

 翌日の夕方。
 俺はアイセルの泊っている安宿の前にやってきていた。

 しばらく時間をつぶしていると、へとへと顔のアイセルが帰ってくる。

「よ、お疲れさん」

 俺が声をかけると、アイセルの顔がパァッと明るくなった。

「ケースケ様! もしかして何かわたしに御用でしたか?」

 アイセルは疲れなんてどこ吹く風で、目を輝かせながら駆け寄ってくる。
 小動物に懐かれてるみたいでちょっと可愛い。

「ん? ああうん、まぁそんなところ。疲れてるところ申し訳ないんだけど、アイセルに話したいことがあるんだ。今からいいかな?」

「えっと、あの、実はお腹がペコペコでして。食べながらでもいいでしょうか?」

「悪い悪いそうだよな。ならせっかくだから奢るよ」
「えっ、いいんですか?」

「大丈夫、駆け出し冒険者にちょっと奢ってあげるくらいの金は持ってるさ」

 ――持っていたはず、まだ数日は大丈夫だ、うん、多分。

 俺はアイセルを連れて、俺が泊まっている宿へとやってきた。
 ここの1階は食事スペースになっているのだ。

 ヒキコモリを始めてからは食事は全て部屋まで届けてもらってたから、利用するのは3年ぶりだったけど。

 しばらく世間話をしながら一緒にご飯を食べてから、俺は本題を切り出した。

「アイセル、俺と一緒にパーティを組まないか?」

「ケースケ様とわたしがパーティをですか? む、無理ですよそんなの。わたしほんと全然へっぽこなので、足を引っ張っちゃいます。いざとなると、あがり症で頭が真っ白になってパニクっちゃうんです……」

「そうみたいだな。実はあれから冒険者ギルドで、アイセルのことを聞いて回ったんだ。みんな口をそろえて、そういうようなことを言ってたよ」

「あ、はい……」

 アイセルがショボーンとした。

「でもそれなら大丈夫だ、なぜなら俺はバッファーだからだ」

「え――」

「俺のS級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』には精神を平常に保つ効果もある。俺とパーティを組めば、ちょっとやそっとじゃあがらなくなるはずだ」

「そうなんですか!? あ、でも仮にそうだとしても、ずっとケースケ様のバフスキルに頼りっぱなしになっちゃうんじゃ。ご迷惑を――」

「お互いに足りない部分を補うことって、そんなに悪いことかな?」

「え……?」

「バッファーって職業はさ、常に誰かを頼る職業なんだ。誰かを支援するためだけの職業で、1人じゃ何もできないんだよ」

「あ、いえ、そういう意味で言ったわけでは――」

「ああうん、もちろん分かってるよ。でもさ、パーティを組むってことは、そもそもお互いに足りないところを補い合うってことじゃないのかな?」

「あ……はい、そうです。そうですよねっ!」

「少しは納得いったみたいだな」

「納得いきました。でもそれなら余計に、わたしじゃなくてもいいはずです。もっとレベルが高くて優秀な冒険者は他にもたくさんいるのに――」

「俺はレベルが高いとか優秀とか、そういうのを判断基準にはしてないんだ。俺がパーティのメンバーに求める条件はただ一つ。俺を裏切らないことだ」

「ケースケ様を裏切らないこと……ですか?」

「もちろん、奴隷のように俺がアイセルに何でも言うことを聞かせるってことじゃなくてさ。お互いに尊重しあって、約束したことはお互いにきっちり守る。俺がパーティのメンバーに求めるのは、ただその1点だけだ」

「約束をしたら、守るのが当たり前だと思いますけど」

 アイセルはさらっとそんなことを言った。
 ……青いな、青すぎる。

 でもそんなアイセルだからこそ、俺がパーティを組む相手として申し分がないと思ったわけなんだけど。