「つまりこれから先、ケースケ様がわたしの足を引っ張ることになるから、だからパーティを解消するってことですか?」
「そういうことだな」
「わたしのためを思ってですか?」
「アイセルの将来を考えたら、このことを伝えないのは酷い裏切りだと思ったんだ。パーティを組んだ時に約束しただろ? 何があっても俺はアイセルを裏切らないって」
「確かに約束しました……」
アイセルは俺の言葉を噛みしめるように、何やら考え込みながら黙ってうつむいた。
「上を目指すなら今からもう、将来を見据えた信頼できる有能な仲間集めをしておくべきだ。中央都にある冒険者ギルド本部に行くのもありかもな。うちのギルドマスターに推薦状を書いてもらうよう掛け合ってもいいぞ?」
今やここの冒険者ギルドのエースとなり顔となったアイセルが、登録ギルドを変更するのをギルドマスターは渋るだろう。
だけどアイセルが一地方の冒険者程度で終わる器じゃないってことは、ギルドマスターだってもう十分に理解しているはずだ。
「仮にわたしがそうしたとして。じゃあケースケ様はこれからどうするんですか?」
「俺か? 俺はもう前のパーティで、分不相応な高みを目指すのには懲りたからな。アイセルには十分すぎるほど稼がせてもらったし、今回のトリケラホーンの討伐報酬を加えれば3000万ゴールドくらいにはなるから、少しゆっくりしようかなって思ってる」
「冒険者を引退するんですか? またヒキコ――えっと、敢えて何もしないで過ごす生活に戻るんですか?」
ヒキコモリ、と言いかけて即座に上手いこと言いなおしたアイセル。
相変わらずの優しい気づかいだった。
「辞めはしないさ。良くしてくれた人たちがいるからな。アイセルの魔法剣を格安で譲ってくれたり、俺の装備を買い戻してくれたり。その人たちの気持ちを考えれば、冒険者をやめる選択はちょっとできないかな」
「だったら――」
「でも、やるにしてももう少し身の丈に合った冒険をしようとは思ってるんだ」
「わたしとのパーティでは、ケースケ様の身の丈には合わないということですか?」
「まぁ、そうなるかな。バッファーの俺じゃ、今のアイセルにはもうついていくだけでやっとだ。ま、今の自分と、アイセルが思い描く未来の自分を想像して、よくよく考えてみて欲しい」
優しく語りかけた俺の言葉に、
「……」
こくん、とアイセルは小さく頷いた。
「もちろん、今ここですぐに答えを出して欲しいってわけじゃないんだ。でも近い将来のこととして、今から考えていて欲しい」
今後の人生に大きく関わってくることだ、アイセルも考える時間はしっかりと欲しいよな。
と思ってたら――、
「いえ、もう答えは出ました」
アイセルがしっかりと俺の目を見て言った。
「えっと、こんなすぐにか?」
「はい。考えることはありましたけど、でも悩むことは特にありませんでしたから」
「いや少しくらいは悩んでくれていいんだよ?」
あっさりとパーティ解消を受け入れられたら、それはそれで俺もちょっとばかしショックだからさ?
俺の心の平静を保つためにも、「悩んだ末の結論」っていう段取りを踏んで欲しいかな、的な?
だけどアイセルはそんな俺の気持ちなんてどこ吹く風で、
「わたしはすごい冒険者になりたいと思います」
俺の目をしっかりと見ながらそう言った。
「そっか、うん、心から応援するよ」
そして俺は今までで一番の、俺の人生でもトップクラスに最高の笑顔で答えたのだった。
だってここは未来の勇者を、気持ちよく送り出してあげる場面だから――。
「そういうことだな」
「わたしのためを思ってですか?」
「アイセルの将来を考えたら、このことを伝えないのは酷い裏切りだと思ったんだ。パーティを組んだ時に約束しただろ? 何があっても俺はアイセルを裏切らないって」
「確かに約束しました……」
アイセルは俺の言葉を噛みしめるように、何やら考え込みながら黙ってうつむいた。
「上を目指すなら今からもう、将来を見据えた信頼できる有能な仲間集めをしておくべきだ。中央都にある冒険者ギルド本部に行くのもありかもな。うちのギルドマスターに推薦状を書いてもらうよう掛け合ってもいいぞ?」
今やここの冒険者ギルドのエースとなり顔となったアイセルが、登録ギルドを変更するのをギルドマスターは渋るだろう。
だけどアイセルが一地方の冒険者程度で終わる器じゃないってことは、ギルドマスターだってもう十分に理解しているはずだ。
「仮にわたしがそうしたとして。じゃあケースケ様はこれからどうするんですか?」
「俺か? 俺はもう前のパーティで、分不相応な高みを目指すのには懲りたからな。アイセルには十分すぎるほど稼がせてもらったし、今回のトリケラホーンの討伐報酬を加えれば3000万ゴールドくらいにはなるから、少しゆっくりしようかなって思ってる」
「冒険者を引退するんですか? またヒキコ――えっと、敢えて何もしないで過ごす生活に戻るんですか?」
ヒキコモリ、と言いかけて即座に上手いこと言いなおしたアイセル。
相変わらずの優しい気づかいだった。
「辞めはしないさ。良くしてくれた人たちがいるからな。アイセルの魔法剣を格安で譲ってくれたり、俺の装備を買い戻してくれたり。その人たちの気持ちを考えれば、冒険者をやめる選択はちょっとできないかな」
「だったら――」
「でも、やるにしてももう少し身の丈に合った冒険をしようとは思ってるんだ」
「わたしとのパーティでは、ケースケ様の身の丈には合わないということですか?」
「まぁ、そうなるかな。バッファーの俺じゃ、今のアイセルにはもうついていくだけでやっとだ。ま、今の自分と、アイセルが思い描く未来の自分を想像して、よくよく考えてみて欲しい」
優しく語りかけた俺の言葉に、
「……」
こくん、とアイセルは小さく頷いた。
「もちろん、今ここですぐに答えを出して欲しいってわけじゃないんだ。でも近い将来のこととして、今から考えていて欲しい」
今後の人生に大きく関わってくることだ、アイセルも考える時間はしっかりと欲しいよな。
と思ってたら――、
「いえ、もう答えは出ました」
アイセルがしっかりと俺の目を見て言った。
「えっと、こんなすぐにか?」
「はい。考えることはありましたけど、でも悩むことは特にありませんでしたから」
「いや少しくらいは悩んでくれていいんだよ?」
あっさりとパーティ解消を受け入れられたら、それはそれで俺もちょっとばかしショックだからさ?
俺の心の平静を保つためにも、「悩んだ末の結論」っていう段取りを踏んで欲しいかな、的な?
だけどアイセルはそんな俺の気持ちなんてどこ吹く風で、
「わたしはすごい冒険者になりたいと思います」
俺の目をしっかりと見ながらそう言った。
「そっか、うん、心から応援するよ」
そして俺は今までで一番の、俺の人生でもトップクラスに最高の笑顔で答えたのだった。
だってここは未来の勇者を、気持ちよく送り出してあげる場面だから――。