数日後。
俺たちは複数のサポートパーティを伴って、地元の冒険者ギルドを出撃した。
目指すは調査が行われているという古代文明の遺跡だ。
「今回はパーティ『アルケイン』にとって過去一番の高難度クエストだ。存分に用心をしてかからないとな」
「ですね……! もちろん体調も万全です!」
――とは言ったものの。
実は今の俺たちは馬車に乗って、遺跡のある場所に向かっている最中だった。
なので特に緊張感もなく、出しなに持たされたギルド職員が焼いたクッキーを食べながらコトコトと揺られていた。
遺跡は俺たちの拠点としている町からは少し離れた場所にある。
だからまずは馬車で近くの町まで行ってそこで一泊してから、朝一で討伐に向かうという段取りなのだ。
馬車の中で、向かいではなくくっつくように身体を寄せて隣に座ったアイセルが、
「はいどうぞケースケ様。あーんです」
あーんしてきたクッキーを俺はパクリと咥えた。
最近はアイセルとちょこちょこ「あーん」で食べさせ合いっこをしているので、俺もすっかり慣れたというか、最初の頃みたいな恥ずかしさはほとんどなくなっていた。
「むぐむぐ……うん、すごく美味しいな。緑色だし最近流行ってるマッチャ味だな」
ほのかな甘みと苦みが同時に広がる独特の風味、マッチャ味だった。
「正解です♪」
マッチャは、東方のサムライ国家ニーホンで特殊な製法によって栽培されている茶葉のことだ。
日光を当てないで育てるんだったかな?
ほろ苦い風味もさることながら、若さを保つ効果があるとか言って最近女性の間で流行っているらしい。
そんな女性の間で流行っているマッチャについて、男の俺がなんで詳しく知っているかというと。
パーティのリーダーにとって、メンバーの嗜好や好みを把握するのも大切な役目の一つだからだった。
アイセルのように、普段は遠慮がちで自分の意見を強くは言わない性格のメンバーを持つ場合は、特にそういった配慮が必要になるのだ。
でないとリーダーの意見や、声のでかいメンバーの意見ばかり通って不満がたまってしまうからな。
なので最近流行りのスイーツ(アイセルは甘いものが好きなのだ)なんかは、マメにチェックして抑えている俺だった。
ちなみにアイセルが甘いお菓子の誘惑と節制との間で、日々頭を悩ませていることも知っている。
だから甘いものが好きだからと言って、勧めすぎるのもまたダメなのだった。
その辺のさじ加減がパーティ運営では難しいんだよな。
ま、今はまだ俺とアイセルの2人だから、意見の対立なんかもほとんど無いわけだけど。
それでも、勇者のように自分が中心となって戦うことで信頼を得、それによって力強くみんなを引っ張るタイプのリーダーと違って、俺のような戦闘時に役に立たない後衛不遇職のバッファーがパーティのリーダーになって円滑に運営していくには、それなりの細やかな気配りが必要なのだった。
「ケースケ様、急に黙ってしまってどうしたんですか?」
おっと少し考え込んじゃってたみたいだ。
「あはは、クッキーが美味しいなって思っただけだよ」
「そうですか。ではでは今度はわたしの番ですね。あーん」
そう言ってアイセルがエサをねだる雛鳥みたいに口を開けた。
「あ、あーん……」
俺が差し出したクッキーをアイセルが可愛く咥える。
あーんをされるのには、だいぶ慣れた。
でも自分からするのは、まだちょっとだけ恥ずかしい俺だった。
受け身で口に入れてもらうことと、自分からアクションを起こすことには、気持ちの面で大きな違いがあるんだよなぁ……。
ともあれ俺たちはこのまま馬車で近場の町まで行って。
そして一泊して迎えた翌日の早朝。
まだ日が昇っていない薄暗い時間から、俺たちはトリケラホーン討伐クエストを開始した。
遺跡の周辺には、随伴する高レベルパーティが多数サポートとして展開していて。
もしもの時の退路の確保をしつつ、邪魔が入らないように周囲の魔獣を警戒してくれていた。
そんな中、俺とアイセルは満を持して古代遺跡の中へと踏み入った――。
俺たちは複数のサポートパーティを伴って、地元の冒険者ギルドを出撃した。
目指すは調査が行われているという古代文明の遺跡だ。
「今回はパーティ『アルケイン』にとって過去一番の高難度クエストだ。存分に用心をしてかからないとな」
「ですね……! もちろん体調も万全です!」
――とは言ったものの。
実は今の俺たちは馬車に乗って、遺跡のある場所に向かっている最中だった。
なので特に緊張感もなく、出しなに持たされたギルド職員が焼いたクッキーを食べながらコトコトと揺られていた。
遺跡は俺たちの拠点としている町からは少し離れた場所にある。
だからまずは馬車で近くの町まで行ってそこで一泊してから、朝一で討伐に向かうという段取りなのだ。
馬車の中で、向かいではなくくっつくように身体を寄せて隣に座ったアイセルが、
「はいどうぞケースケ様。あーんです」
あーんしてきたクッキーを俺はパクリと咥えた。
最近はアイセルとちょこちょこ「あーん」で食べさせ合いっこをしているので、俺もすっかり慣れたというか、最初の頃みたいな恥ずかしさはほとんどなくなっていた。
「むぐむぐ……うん、すごく美味しいな。緑色だし最近流行ってるマッチャ味だな」
ほのかな甘みと苦みが同時に広がる独特の風味、マッチャ味だった。
「正解です♪」
マッチャは、東方のサムライ国家ニーホンで特殊な製法によって栽培されている茶葉のことだ。
日光を当てないで育てるんだったかな?
ほろ苦い風味もさることながら、若さを保つ効果があるとか言って最近女性の間で流行っているらしい。
そんな女性の間で流行っているマッチャについて、男の俺がなんで詳しく知っているかというと。
パーティのリーダーにとって、メンバーの嗜好や好みを把握するのも大切な役目の一つだからだった。
アイセルのように、普段は遠慮がちで自分の意見を強くは言わない性格のメンバーを持つ場合は、特にそういった配慮が必要になるのだ。
でないとリーダーの意見や、声のでかいメンバーの意見ばかり通って不満がたまってしまうからな。
なので最近流行りのスイーツ(アイセルは甘いものが好きなのだ)なんかは、マメにチェックして抑えている俺だった。
ちなみにアイセルが甘いお菓子の誘惑と節制との間で、日々頭を悩ませていることも知っている。
だから甘いものが好きだからと言って、勧めすぎるのもまたダメなのだった。
その辺のさじ加減がパーティ運営では難しいんだよな。
ま、今はまだ俺とアイセルの2人だから、意見の対立なんかもほとんど無いわけだけど。
それでも、勇者のように自分が中心となって戦うことで信頼を得、それによって力強くみんなを引っ張るタイプのリーダーと違って、俺のような戦闘時に役に立たない後衛不遇職のバッファーがパーティのリーダーになって円滑に運営していくには、それなりの細やかな気配りが必要なのだった。
「ケースケ様、急に黙ってしまってどうしたんですか?」
おっと少し考え込んじゃってたみたいだ。
「あはは、クッキーが美味しいなって思っただけだよ」
「そうですか。ではでは今度はわたしの番ですね。あーん」
そう言ってアイセルがエサをねだる雛鳥みたいに口を開けた。
「あ、あーん……」
俺が差し出したクッキーをアイセルが可愛く咥える。
あーんをされるのには、だいぶ慣れた。
でも自分からするのは、まだちょっとだけ恥ずかしい俺だった。
受け身で口に入れてもらうことと、自分からアクションを起こすことには、気持ちの面で大きな違いがあるんだよなぁ……。
ともあれ俺たちはこのまま馬車で近場の町まで行って。
そして一泊して迎えた翌日の早朝。
まだ日が昇っていない薄暗い時間から、俺たちはトリケラホーン討伐クエストを開始した。
遺跡の周辺には、随伴する高レベルパーティが多数サポートとして展開していて。
もしもの時の退路の確保をしつつ、邪魔が入らないように周囲の魔獣を警戒してくれていた。
そんな中、俺とアイセルは満を持して古代遺跡の中へと踏み入った――。