「って、いけません! 今日は日雇いの荷物運びでパーティに誘われてるんでした!」
突然女の子が大きな声をあげた。
「荷物運び? 見たところ君って、補助スキルでブーストして戦う魔法戦士だよな? それに日雇いってことは、正規パーティは組んでないのか?」
ちなみに魔法戦士というのは、すでに失われた伝説の『魔法』を使う戦士――というわけではなかったりする。
『連撃』『居合』『残像』といった戦闘スキルから、『索敵』『光学迷彩』などの補助スキルまで多種多様なスキルを使いこなして、まるで魔法でも使っているかのように華麗に戦うことから、こう呼ばれている。
ちなみにスキルを覚えやすいエルフの魔法戦士は特に稀少で、その能力はソロで同レベルのパーティに匹敵すると言われるほどだ。
ワンマンパーティ呼ばれることもある。
不遇職の代名詞でもあるバッファーとは正反対の、最優遇職と言ってもいい。
だからエルフの魔法戦士がパーティも組まずに日雇いで荷物運びをするなんて話は、ちょっと信じられないんだけど――。
「あ、えっと、その、わたしまだ駆け出し冒険者でして。へっぽこなのでなかなかパーティを組んでくれる相手がいませんで、それでパーティの荷物運びをさせてもらって、お金をもらってるんです。えへへ……」
「君の――あ、ごめん、名前を聞いてなかった」
「アイセルです。アイセル=バーガーと申します」
「アイセルね。あ、俺のことはケースケでいいよ」
「ええっ!? 名前で呼んでもよろしいのですか?」
アイセルが驚いたような顔をした。
「ん? エルフってそういう文化はないんだっけ?」
「あ、いえ、そういうわけでは……元・勇者パーティのメンバーを、駆け出しのわたしなんぞが名前で呼ぶのは大変失礼ではないかと……」
「俺はそういうの全く気にしないから」
「でしたらケースケ様とお呼びしますね」
「様もいらないんだけどな」
「まさか、さすがにそこまで失礼なことはできません! なにせケースケ様は、南部諸国連合を救った勇者パーティの一人なんですから」
「あはは、ありがとう。ところでアイセルのレベルは、いくつなんだ?」
「最近やっと13になりました」
言いながらアイセルが首から下げた認識票を見せてくれた。
この認識票は冒険者一人一人に与えられるもので、身分証になるとともに、討伐記録などが自動で記録される優れものだ。
余談だけど、ギルドと提携している宿に割安で泊まるのにもこれが必須だったりする。
なのでもちろん俺も肌身離さず大切に持っていた。
「ふぅん、レベル13ね……そろそろ駆け出しも終わりってところか」
「そう、なりますかね……」
俺の何気ない一言に、なぜかアイセルはうつむいて言葉を濁した。
「レベル13もあれば簡単な討伐クエストくらいなら、臨時パーティでもなんでも組んでやれるんじゃないか? エルフで、しかも一番の優遇職とも言われる魔法戦士だろ?」
荷物持ちなんかするより、金銭的にもレベルアップ的にもはるかに効率的だろう。
そもそもエルフの魔法戦士ってだけで、引く手あまたのはずだ。
「えっと実はわたしは極度のあがり症でして。本番になると頭が真っ白になって、どうしても上手くやれないんです……それでなかなかパーティを組んでもらえなくて。今はどうにか荷物運びをして生計を立ててる感じなんです」
「ふぅん……極度のあがり症ねぇ……」
レベル13のエルフの魔法戦士、しかもパーティ未所属ね……ふむ……。
「本当は村に仕送りしないといけないんですけど、現状自分の生活でいっぱいいっぱいでして。せっかく村に伝わるこの伝説のビキニアーマーももらったのに」
かなりの値打ちものだと思ったけど、やっぱりそのビキニアーマーは価値ある逸品だったか。
「そっか、うん、大変だな。おっと、急いでるのに引き留めて悪かったな。頑張ってな、応援してるぞ」
「あ、ありがとうございます! ケースケ様も頑張ってくださいね!」
「ありがと。ちなみになんだけど今回のクエストはいつ終わるんだ? 日帰りクエストか?」
「1泊2日の予定です。近くの街道にキングウルフの群れが出たそうなので、討伐前の本調査の、さらに前の予備調査に向かうんです。何度か調査をして、それを元にそう遠くない内に大々的にキングウルフ討伐クエストが発表されるそうですよ」
「ほぅ……そっか、キングウルフね……Bランクの魔獣だ。群れになるともっと危険でAランク相当だったかな。まぁ調査だけならそんな危険はないだろうけど、一応気をつけてな。注意一秒、怪我一生だ」
俺は冒険者ギルドで口ずっぱく言われる有名な標語を言った。
「はい、最大限の注意をして事に当たってきます! では行ってまいります!」
駆け足で冒険者ギルドに向かうアイセルの背中を見送りながら、俺は少し考えを巡らせていた。
「アイセル=バーガー、エルフの魔法戦士。そろそろ駆け出し卒業のレベル13で、パーティには未所属。13あればいきなりクエストを受けてもいけなくはないよな。なにより性格が純朴そうで、俺を信頼してて裏切らなそうなところが気に入ったし。ふむ……」
確か1泊2日のクエストって言ってたよな。
「よし、これも何かの縁だ、あの子に決めた。でも一応念のため素性をもうちょっと念入りに調べておこう」
俺は「強烈な日差し」に耐えながらもう一度冒険者ギルドに向かうと、アイセル=バーガーという少女について聞き込みを始めた。
さらには馴染みの情報屋にも行って、アイセルというエルフの少女の人となりを徹底して調べ上げる。
ちなみに情報屋への支払いはなんとかツケにしてもらえた。マジで金がないから……。
そんな風に情報収集をしながら、俺は自分の心境の変化に驚いていた。
この3年ずっと無気力なままだったのに、急にやる気が出てきた自分に、自分のことながらびっくりしていたのだ。
それは駆け出しのアイセルの情熱にあふれた姿を見て、昔の自分を思い出していたのかもしれなかったし。
はたまた素直ないい子が馬鹿を見ないように力を貸してあげようっていう、親心のようなものが働いたのかもしれなかった。
ともあれ、俺は本当に久しぶりに冒険者としてモチベーションの高まりを感じていたのだった。
「金を稼ごうってそれだけ思ってたけど、うん、いい機会だし、これを機会にもう一度人生をやり直すってのもありだよな……」
ぶっちゃけ今のままだと、未来がなさすぎるし……っていうか何もしなければ、行きつく末は野垂れ死にだろうし……。
突然女の子が大きな声をあげた。
「荷物運び? 見たところ君って、補助スキルでブーストして戦う魔法戦士だよな? それに日雇いってことは、正規パーティは組んでないのか?」
ちなみに魔法戦士というのは、すでに失われた伝説の『魔法』を使う戦士――というわけではなかったりする。
『連撃』『居合』『残像』といった戦闘スキルから、『索敵』『光学迷彩』などの補助スキルまで多種多様なスキルを使いこなして、まるで魔法でも使っているかのように華麗に戦うことから、こう呼ばれている。
ちなみにスキルを覚えやすいエルフの魔法戦士は特に稀少で、その能力はソロで同レベルのパーティに匹敵すると言われるほどだ。
ワンマンパーティ呼ばれることもある。
不遇職の代名詞でもあるバッファーとは正反対の、最優遇職と言ってもいい。
だからエルフの魔法戦士がパーティも組まずに日雇いで荷物運びをするなんて話は、ちょっと信じられないんだけど――。
「あ、えっと、その、わたしまだ駆け出し冒険者でして。へっぽこなのでなかなかパーティを組んでくれる相手がいませんで、それでパーティの荷物運びをさせてもらって、お金をもらってるんです。えへへ……」
「君の――あ、ごめん、名前を聞いてなかった」
「アイセルです。アイセル=バーガーと申します」
「アイセルね。あ、俺のことはケースケでいいよ」
「ええっ!? 名前で呼んでもよろしいのですか?」
アイセルが驚いたような顔をした。
「ん? エルフってそういう文化はないんだっけ?」
「あ、いえ、そういうわけでは……元・勇者パーティのメンバーを、駆け出しのわたしなんぞが名前で呼ぶのは大変失礼ではないかと……」
「俺はそういうの全く気にしないから」
「でしたらケースケ様とお呼びしますね」
「様もいらないんだけどな」
「まさか、さすがにそこまで失礼なことはできません! なにせケースケ様は、南部諸国連合を救った勇者パーティの一人なんですから」
「あはは、ありがとう。ところでアイセルのレベルは、いくつなんだ?」
「最近やっと13になりました」
言いながらアイセルが首から下げた認識票を見せてくれた。
この認識票は冒険者一人一人に与えられるもので、身分証になるとともに、討伐記録などが自動で記録される優れものだ。
余談だけど、ギルドと提携している宿に割安で泊まるのにもこれが必須だったりする。
なのでもちろん俺も肌身離さず大切に持っていた。
「ふぅん、レベル13ね……そろそろ駆け出しも終わりってところか」
「そう、なりますかね……」
俺の何気ない一言に、なぜかアイセルはうつむいて言葉を濁した。
「レベル13もあれば簡単な討伐クエストくらいなら、臨時パーティでもなんでも組んでやれるんじゃないか? エルフで、しかも一番の優遇職とも言われる魔法戦士だろ?」
荷物持ちなんかするより、金銭的にもレベルアップ的にもはるかに効率的だろう。
そもそもエルフの魔法戦士ってだけで、引く手あまたのはずだ。
「えっと実はわたしは極度のあがり症でして。本番になると頭が真っ白になって、どうしても上手くやれないんです……それでなかなかパーティを組んでもらえなくて。今はどうにか荷物運びをして生計を立ててる感じなんです」
「ふぅん……極度のあがり症ねぇ……」
レベル13のエルフの魔法戦士、しかもパーティ未所属ね……ふむ……。
「本当は村に仕送りしないといけないんですけど、現状自分の生活でいっぱいいっぱいでして。せっかく村に伝わるこの伝説のビキニアーマーももらったのに」
かなりの値打ちものだと思ったけど、やっぱりそのビキニアーマーは価値ある逸品だったか。
「そっか、うん、大変だな。おっと、急いでるのに引き留めて悪かったな。頑張ってな、応援してるぞ」
「あ、ありがとうございます! ケースケ様も頑張ってくださいね!」
「ありがと。ちなみになんだけど今回のクエストはいつ終わるんだ? 日帰りクエストか?」
「1泊2日の予定です。近くの街道にキングウルフの群れが出たそうなので、討伐前の本調査の、さらに前の予備調査に向かうんです。何度か調査をして、それを元にそう遠くない内に大々的にキングウルフ討伐クエストが発表されるそうですよ」
「ほぅ……そっか、キングウルフね……Bランクの魔獣だ。群れになるともっと危険でAランク相当だったかな。まぁ調査だけならそんな危険はないだろうけど、一応気をつけてな。注意一秒、怪我一生だ」
俺は冒険者ギルドで口ずっぱく言われる有名な標語を言った。
「はい、最大限の注意をして事に当たってきます! では行ってまいります!」
駆け足で冒険者ギルドに向かうアイセルの背中を見送りながら、俺は少し考えを巡らせていた。
「アイセル=バーガー、エルフの魔法戦士。そろそろ駆け出し卒業のレベル13で、パーティには未所属。13あればいきなりクエストを受けてもいけなくはないよな。なにより性格が純朴そうで、俺を信頼してて裏切らなそうなところが気に入ったし。ふむ……」
確か1泊2日のクエストって言ってたよな。
「よし、これも何かの縁だ、あの子に決めた。でも一応念のため素性をもうちょっと念入りに調べておこう」
俺は「強烈な日差し」に耐えながらもう一度冒険者ギルドに向かうと、アイセル=バーガーという少女について聞き込みを始めた。
さらには馴染みの情報屋にも行って、アイセルというエルフの少女の人となりを徹底して調べ上げる。
ちなみに情報屋への支払いはなんとかツケにしてもらえた。マジで金がないから……。
そんな風に情報収集をしながら、俺は自分の心境の変化に驚いていた。
この3年ずっと無気力なままだったのに、急にやる気が出てきた自分に、自分のことながらびっくりしていたのだ。
それは駆け出しのアイセルの情熱にあふれた姿を見て、昔の自分を思い出していたのかもしれなかったし。
はたまた素直ないい子が馬鹿を見ないように力を貸してあげようっていう、親心のようなものが働いたのかもしれなかった。
ともあれ、俺は本当に久しぶりに冒険者としてモチベーションの高まりを感じていたのだった。
「金を稼ごうってそれだけ思ってたけど、うん、いい機会だし、これを機会にもう一度人生をやり直すってのもありだよな……」
ぶっちゃけ今のままだと、未来がなさすぎるし……っていうか何もしなければ、行きつく末は野垂れ死にだろうし……。