「猫探しですか……?」

 俺が持ってきたクエストにアイセルが怪訝な顔をした。

「ああ、猫探しだ」

「猫探しってことはつまり猫を探すんですよね?」

「もちろんだ」

「はぁ……」

「この前アイセルの魔法剣を買いに行ったミストラルっていう大きな街があるだろ? あそこで一番の大商人が飼ってる愛猫が逃げたんで、俺たちに探して欲しいらしいんだよ」

「……?」

 俺の説明にアイセルがよく分からないって顔をする。

 まぁそういう反応になるよな。
 とても高ランク冒険者の仕事には思えないもんな。

 でもこういう依頼って結構あるんだよな。

「アイセルは『索敵』『気配察知』『追跡』『暗視』っていう猫や犬を探すのに便利なスキルをたくさん持ってるだろ? 冒険者は意外とそういう方向での需要があるんだよ」

「それはまぁそうなのかもしれませんけど。でもなんでわたしたちなんですか? わたしたちは完全に戦闘専門のパーティですよね? そういうのが得意なパーティは他にもありそうですけど」

「その理由はズバリ、パーティ『アルケイン』の名前が売れてるからだ」

「有名だからってことですか……?」

「冒険者ギルドにクエスト依頼を出すとして、どうせなら有名なパーティにやってほしいって思うのはまぁ普通だろ? 大金を出せる金持ちならなおさらだ」

「ですが向きか不向きかを考えれば――」

「世の中ぶっちゃけ、向きとか不向きとかはあんまり関係ないんだよな。有名なんだからそれなりに結果は出すだろうって人は思うものなんだよ。あとは金持ちのコネクション作りだな」

「コネクションですか……?」

 アイセルが小首をかしげた。

「有力なパーティにまずは簡単な仕事を依頼してその人となりを見るんだよ。強いだけで荒っぽかったり態度が悪かったりと、人間性に問題のあるパーティも無くはないから」

「それでお金持ちの人のお眼鏡にかなうとどうなるんですか?」

「前も言ったかもだけど、気に入られたらお小遣いをもらえたり食事会の顔として呼ばれたりするんだ」

「たしかキングウルフ討伐の帰りにそんなことを聞いたような……」

「すごく儲かるんだぞ? 特に今回の依頼主はミストラルや周辺地域の政財界にものすごい影響力を持った、中央都にも顔が利く超がつくほどのお金持ちだからな」

 依頼主はヴァリエール家という先祖に貴族がいる大商人だ。

「うーん、話を聞いてるとなんだか雲の上の話みたいですねぇ」

 アイセルはまだいまいちわかってない風だった。

「具体的には経費は全部向こう持ちで、1人につき日当10万ゴールド支給×1週間を一括前払い。さらに猫を見つけることに成功すれば、成功報酬として追加で100万ずつもらえるんだ」

「わわっ、信じられない破格の待遇ですね!? だってその方の飼っている猫を探すだけなんですよね?」

「やっと実感がいったか? ってわけでアイセルの仕送りだってはかどるはずだし、俺としてはぜひやりたいんだけど」

「そう言うことなら異論はありません、やりましょう!」

 翌日。
 俺とアイセルは中央都市ミストラルの依頼主の元へと向かった。

 依頼主であるヴァリエール様に丁寧にご挨拶をし、愛猫の特徴や行動範囲をお伺いしてから、猫をおびき寄せるためのマタタビ片手に早速猫探しクエストを開始する。

 俺がS級バフスキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』を発動し、アイセルがそれによって強化された『追跡』『索敵』『気配察知』などのスキルで猫の足取りを追っていくのだ。

 数日かけてまずは家の周りの庭の植え込みや軒下を確認し、少しずつ範囲を広げていって、そして行きついた先は――、

「なんだここ? 古いなにかの遺構か?」

 俺は街中の一画にポツンと顔を出した、地下へと続く小さな階段をのぞき込みながらつぶやいた。

「水路が通っていて水が流れているので、今は使われていない大昔の水道かなにかでしょうか?」

「中央都市ミストラルは歴史ある街だからな、古い時代の水道が残っててもおかしくはないか」

「どうしましょう?」

「ここにいるのは間違いないんだよな?」

「はい、これまでの調査と各種スキルから総合的・俯瞰的に勘案すると、この中に逃げてなんらかの理由で出てこれなくなったのではないかと」

「なら入るしかないな」
「ですね」

 俺たちは猫を追って、街の地下にある大昔の水道の遺構へと足を踏み入れた――。